8月。隣人はシャインスター
デスマーチをなんとか乗り切った俺は、8月頭に代休兼リフレッシュ休暇をもぎ取った。
18時半着のバスを降りた俺を見たとたん、翠に「夏バテですか!?どうしたんですか。やつれちゃってますよ。」と心配される。
翠の顔を見る為だけに頑張ってた分、会えた嬉しさはひとしおだった。
「どうした?」
翠がやたらと周囲を見渡しているので疑問になって聞くと、「最近、知らない人によく声かけられるんですよ。なんなのかな。」と、裾を掴んで周囲を警戒しながら歩く。
「エヴァグリィィィィン!!」
突然、やたらと発音の良い声が背後から響いてきた。
「うひょっ。」と翠が驚いて背後を見ると、人混みの中から頭一つ飛び出た金髪の外国人が、ぶんぶんと手を振っていた。
「あ。マシューさんだ。」と、翠が手を振りかえす。
「誰だ。」
「お隣さん。先月引っ越してきたの。」
そうこうしているうちに金髪の外国人は近くまできていた。
「oh~! コンバンワ!私ハ マシュー 言イマスデス。ヨロシクデス!エヴァグリーン swieetie ダークネスファング!? I’m moved!」
翠が返事をする前から、金髪男は俺の手を取ってぶんぶんと握手をする。
「スィーティ?」
「恋人って意味だな。ところでエヴァグリーンってなんだ。ミドリだからか?」
金髪男=アメリカから来たマシューと名乗る外国人はそれからものすごく興奮した感じで一人で喋りまくってた。
なにが俺に似てるんだ。
とりあえず男の癖に☆のついたヘアピンってなんだ。
興奮して話してるせいで言ってる意味がよく分からない。
同じ目線のせいでやたらと視界に入る☆のヘアピンに気を取られつつ、コスプレだの、自分のことはシャインスターと呼べだの、なんだか理解の出来ないまま会話が進む。
ポカンとしてると、翠が袖を引いて「め、目立つから帰ろ。」と言ってきたので、マシュー改めシャインスターに別れの挨拶を言って家路につく。
「マシューさんはね、美少女戦士シャイニーハートの大ファンらしいよ。私もビックリしたもの。いきなりエヴァグリーンって呼ばれたし。」とケラケラと笑いながら話す翠。
「美少女戦士シャイニーハートすら分からんのだが。」
翠の説明によると十数年前に流行ったアニメで、ラブリーハート、オーシャンブルー、エヴァグリーンという名前の変身美少女が戦うそうだ。
お助けキャラとして金髪碧眼のマント王子シャインスター。敵役にダークネスファングというキャラがいる・・らしい。
後で画像探してみますよーと言う翠。
検索して出てきた画像を見て、なんと感想を言っていいのやら・・・。
ピンク、青、緑の頭髪をした少女達と、金髪碧眼の白のマント羽織ってマスクしてる男。狼だか犬だかの顔した上半身裸の黒い獣人。
・・・・・どこが似ているんだ。
翌日、出社する翠を駅まで送り、アパートに帰ってくるとマシュー改めシャインスターがゴミ袋片手にドアを開けたところに出くわした。
「オハヨー!ダークネスファング!エヴァグリーン オ仕事デスカ?」
朝からハイテンションである。
「おはようございます。あぁ、俺の名前ですが、ダークネスファングじゃなく、小林といいま・・・「分カッテマス!ダークネスファング!HENSOUデスネ!エヴァグリーン ヒ・ミ・ツ!」
・・・ダメだ。このオタク・・・会話が通じる気がしない。
ハイテンションのシャインスターの背後に見えた部屋が・・・・まっピンクでファンシーな置物がたくさんあるのが見えて思わずギョッとした。
「oh~!! MyRoom ラブリーハートRoom! look!? come!!」
・・・なにが悲しくて身長180越えの男が2人、こんなピンク色したお姫様仕様の部屋にいなくてはいけないんだろう。
強引に座らされた俺はシャインスターの熱いオタク魂を聞くことになった。
美少女戦士シャイニーハートに魅了されたマシューは、大学卒業後、憧れである日本に家族の反対を押し切って単身渡航してきたらしい。
シャインスターになりきったのはいいが(☆のヘアピンは変身アイテムだそうだ)、シャインスターの部屋はまーっくろ。なんもない部屋のマネするのは物足りない、だから可愛いもの好きなヒロインであるラブリーハートの部屋を再現したそうだ。
ハートクッションを抱きしめながら熱く語る金髪碧眼の外国人。
・・・・・・・空が青いなぁ。
その後、ダークネスファングについても熱く語られる。
普段は狼の顔だが、人に化ける時は黒髪黒目の男になるそうだ。
その姿で変身前の美少女戦士達を、気づかずに助けたりするらしい。
・・・へー。
熱く語るシャインスターに精神をガリガリと削られ続けていると、突然、シャインスターが「ゴ飯、食ベニ行キマショウ!」と財布を持ってドアへと進む。
腕時計を見ると11時。
2時間近くもアニメの話聞いてたのか・・俺は。
辞退しようかとも思ったが、どのみち一人で昼飯を食べるのも味気ない感じもし、シャインスターの後について行くことにした。
駅の近くにあるファミレスの道路側の席を陣取ったシャインスターは「シー・・・イイデスカ?ヨク見テイテ下サイネ?」と、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡す。
「ΣLooK!! イマシタ!悪ノ組織デス!」と、メニューで隠すように指差したのはスーツを着た・・・中年のサラリーマン。
思わず胡乱げな目を向けてしまうと、シャインスターは大げさに肩を落とす。
「Oh~・・何モ分カラナイ。ダークネスファング。アレ ハ タダノサラリーマン ジャナイデス!悪ノ組織ノ一員デスヨ!ソノ証拠ニ エヴァグリーン狙ッテマス!」
「!?」
思わず通り過ぎて行った中年のサラリーマンを目で追いかける。
「・・・・気のせいじゃないのか?」
「NO!・・・エヴァグリーン、電車降リル、悪ノ組織、声カケル。『ケイジバンノコダヨネ』」
「掲示板・・・?」
「Yes!ケイジバン。エヴァグリーン 違ウ 言ウ。デモ悪ノ組織アキラメナイ。シツコク、シツコク声カケル。」
シャインスターとの初めての飯は苦いものになった。
週末、花火大会を見に行き浴衣姿の翠を堪能する。
シャインスターの言葉ではないが、日本万歳だ。
帰り際、カランコロンと下駄の音を弾ませながら歩く翠に1つの提案をする。
「翠、お盆休みなんだけどな?うちの実家に一緒に行かないか?」
翠の両親はもういない。
・・・墓参りは、申し訳ないけど葵さん達にお願いするとして、俺と一緒に来てほしい。
少なくともココには置いて行きたくないんだ。
18時半着のバスを降りた俺を見たとたん、翠に「夏バテですか!?どうしたんですか。やつれちゃってますよ。」と心配される。
翠の顔を見る為だけに頑張ってた分、会えた嬉しさはひとしおだった。
「どうした?」
翠がやたらと周囲を見渡しているので疑問になって聞くと、「最近、知らない人によく声かけられるんですよ。なんなのかな。」と、裾を掴んで周囲を警戒しながら歩く。
「エヴァグリィィィィン!!」
突然、やたらと発音の良い声が背後から響いてきた。
「うひょっ。」と翠が驚いて背後を見ると、人混みの中から頭一つ飛び出た金髪の外国人が、ぶんぶんと手を振っていた。
「あ。マシューさんだ。」と、翠が手を振りかえす。
「誰だ。」
「お隣さん。先月引っ越してきたの。」
そうこうしているうちに金髪の外国人は近くまできていた。
「oh~! コンバンワ!私ハ マシュー 言イマスデス。ヨロシクデス!エヴァグリーン swieetie ダークネスファング!? I’m moved!」
翠が返事をする前から、金髪男は俺の手を取ってぶんぶんと握手をする。
「スィーティ?」
「恋人って意味だな。ところでエヴァグリーンってなんだ。ミドリだからか?」
金髪男=アメリカから来たマシューと名乗る外国人はそれからものすごく興奮した感じで一人で喋りまくってた。
なにが俺に似てるんだ。
とりあえず男の癖に☆のついたヘアピンってなんだ。
興奮して話してるせいで言ってる意味がよく分からない。
同じ目線のせいでやたらと視界に入る☆のヘアピンに気を取られつつ、コスプレだの、自分のことはシャインスターと呼べだの、なんだか理解の出来ないまま会話が進む。
ポカンとしてると、翠が袖を引いて「め、目立つから帰ろ。」と言ってきたので、マシュー改めシャインスターに別れの挨拶を言って家路につく。
「マシューさんはね、美少女戦士シャイニーハートの大ファンらしいよ。私もビックリしたもの。いきなりエヴァグリーンって呼ばれたし。」とケラケラと笑いながら話す翠。
「美少女戦士シャイニーハートすら分からんのだが。」
翠の説明によると十数年前に流行ったアニメで、ラブリーハート、オーシャンブルー、エヴァグリーンという名前の変身美少女が戦うそうだ。
お助けキャラとして金髪碧眼のマント王子シャインスター。敵役にダークネスファングというキャラがいる・・らしい。
後で画像探してみますよーと言う翠。
検索して出てきた画像を見て、なんと感想を言っていいのやら・・・。
ピンク、青、緑の頭髪をした少女達と、金髪碧眼の白のマント羽織ってマスクしてる男。狼だか犬だかの顔した上半身裸の黒い獣人。
・・・・・どこが似ているんだ。
翌日、出社する翠を駅まで送り、アパートに帰ってくるとマシュー改めシャインスターがゴミ袋片手にドアを開けたところに出くわした。
「オハヨー!ダークネスファング!エヴァグリーン オ仕事デスカ?」
朝からハイテンションである。
「おはようございます。あぁ、俺の名前ですが、ダークネスファングじゃなく、小林といいま・・・「分カッテマス!ダークネスファング!HENSOUデスネ!エヴァグリーン ヒ・ミ・ツ!」
・・・ダメだ。このオタク・・・会話が通じる気がしない。
ハイテンションのシャインスターの背後に見えた部屋が・・・・まっピンクでファンシーな置物がたくさんあるのが見えて思わずギョッとした。
「oh~!! MyRoom ラブリーハートRoom! look!? come!!」
・・・なにが悲しくて身長180越えの男が2人、こんなピンク色したお姫様仕様の部屋にいなくてはいけないんだろう。
強引に座らされた俺はシャインスターの熱いオタク魂を聞くことになった。
美少女戦士シャイニーハートに魅了されたマシューは、大学卒業後、憧れである日本に家族の反対を押し切って単身渡航してきたらしい。
シャインスターになりきったのはいいが(☆のヘアピンは変身アイテムだそうだ)、シャインスターの部屋はまーっくろ。なんもない部屋のマネするのは物足りない、だから可愛いもの好きなヒロインであるラブリーハートの部屋を再現したそうだ。
ハートクッションを抱きしめながら熱く語る金髪碧眼の外国人。
・・・・・・・空が青いなぁ。
その後、ダークネスファングについても熱く語られる。
普段は狼の顔だが、人に化ける時は黒髪黒目の男になるそうだ。
その姿で変身前の美少女戦士達を、気づかずに助けたりするらしい。
・・・へー。
熱く語るシャインスターに精神をガリガリと削られ続けていると、突然、シャインスターが「ゴ飯、食ベニ行キマショウ!」と財布を持ってドアへと進む。
腕時計を見ると11時。
2時間近くもアニメの話聞いてたのか・・俺は。
辞退しようかとも思ったが、どのみち一人で昼飯を食べるのも味気ない感じもし、シャインスターの後について行くことにした。
駅の近くにあるファミレスの道路側の席を陣取ったシャインスターは「シー・・・イイデスカ?ヨク見テイテ下サイネ?」と、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡す。
「ΣLooK!! イマシタ!悪ノ組織デス!」と、メニューで隠すように指差したのはスーツを着た・・・中年のサラリーマン。
思わず胡乱げな目を向けてしまうと、シャインスターは大げさに肩を落とす。
「Oh~・・何モ分カラナイ。ダークネスファング。アレ ハ タダノサラリーマン ジャナイデス!悪ノ組織ノ一員デスヨ!ソノ証拠ニ エヴァグリーン狙ッテマス!」
「!?」
思わず通り過ぎて行った中年のサラリーマンを目で追いかける。
「・・・・気のせいじゃないのか?」
「NO!・・・エヴァグリーン、電車降リル、悪ノ組織、声カケル。『ケイジバンノコダヨネ』」
「掲示板・・・?」
「Yes!ケイジバン。エヴァグリーン 違ウ 言ウ。デモ悪ノ組織アキラメナイ。シツコク、シツコク声カケル。」
シャインスターとの初めての飯は苦いものになった。
週末、花火大会を見に行き浴衣姿の翠を堪能する。
シャインスターの言葉ではないが、日本万歳だ。
帰り際、カランコロンと下駄の音を弾ませながら歩く翠に1つの提案をする。
「翠、お盆休みなんだけどな?うちの実家に一緒に行かないか?」
翠の両親はもういない。
・・・墓参りは、申し訳ないけど葵さん達にお願いするとして、俺と一緒に来てほしい。
少なくともココには置いて行きたくないんだ。
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・・・・泣きつかれて同行者が増えた。
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日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
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