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追憶
ふと、亡くなった祖母のことを思い出したんで忘れないうちに書き込んでいく。
祖母の家は遠くて、毎週週末に親父と車で3時間かけて通ってた。
なんで毎週通ってたかは記憶にないんだけど。
たぶん僕が小さい内は姉貴とか兄貴も一緒に行ってたと思うんだけど、僕が小学生になった頃には皆、部活とかで忙しくて、僕だけが親父と一緒に通ってた。
祖母ん家には重度の障害もってる叔母さんがいて、いつも「ハルねぇちゃん、元気?」って挨拶してた。
近くに親戚も住んでいて、はとことかもいたんだけど、週末に数時間しかいないような僕が仲良く遊べることもなく、一人で近くの公園で鯉に自分のおやつにと渡されたスナック菓子を投げてた記憶がある。
小学校高学年になると、友達と遊ぶ方が楽しくなってきてさ、祖母の家にはあまり行かなくなってた。
『ばあちゃんのこと、きらいになったの?』
っていう電話の声をまだ覚えてる。
部活が忙しいんだよって、苦しい言い訳しちゃったけど、部活なんて全然忙しくなかったんだね・・・・。
元々個人主義な部活だし、先輩後輩なんてあってなき部活だったから。
そんな頃、祖母がガンになった。
病状が進んでいたのか即入院だった。
母さんが看病で泊まり込みになると、家には親父と兄貴と僕しかいなくて(姉貴は進学の為、他のとこに住んでた。)、料理のできない親父が頑張ってたけど、正直不味かった。焦げたのとか結構あったし。
兄貴はその頃、高校生で・・・戦力外だったから、なんとなく出来た僕が頑張った。
とはいっても、なに作ったか覚えていないんだが。
あの頃の記憶っていうか、小学校、中学校の記憶ってあまりないんだよね。
場面、場面を断片的に覚えてる感じ。
人間って忘れる生き物だから、他の人もきっと覚えてないんだと思ってるんだけど、そこらへんどうなんだろうな。
中学校の制服着て葬式に出た記憶があるから、中学校入りたてだったんだと思う。
祖母が亡くなった。
葬式には遠いとこに住んでるいとこ達も来てて、会わないうちにずいぶん成長したなって思ったのを記憶してる。
いとこ達との思い出ってのがまた少なくて、小学生の頃の夏休みに祖母ん家に遊びにきてた時、ペルシャ猫も連れてきてたんだが、その猫がやたらと逃げるからニゲっていう名前だったということしか記憶にない。
まぁ、そんなんで読経はお坊さんがあげたんだけど、なんだったかな。
ユタ(いわゆる霊能者)が読経の後に・・・魂篭するとかなんだかで協力者が1人欲しいって言われた。
協力者には祖母の干支と相性がいいってことで僕が選ばれたんだけど、トイレで線香あげて祝詞をあげて、あと数カ所まわって・・・をやった。
今にして思えば、死んだ人の未練とか魂とか、そういったのをこの世に残さないようにするやつだったんだと思う。
で、僕は呼び出す為の囮的なものかな。
故人に可愛がられてて、怖がることもない子ってとこが選ばれた理由だと思う。
てか、見えない、感じないんだから怖がることすら出来ないんだが。
霊的防御力が高いのか知らないが、なにかの折りにユタに世話になったんだが『僕が帰してる』って言われるくらいだし。
むしろ「幽霊とか見えないし空気と同じ」とか言ってるKYに育って大変申し訳ないと思う。
ばぁちゃん、ばぁちゃんが買ってくれたペンダント、まだ大事にしてるよ。
たぶんあわび貝を加工したやつだと思うんだけど、昔と同様、青い綺麗なままだよ。
小学生の頃だっけかな。お土産品店で買ったから、もしかして1000円もしれないかもしれないものだけど、お気に入りでよくつけてる。
数年前にさ、母がガンで手術したんだ。
初期で見つかったから、命には別状がないんだけど気が弱くなったんだろうね。
孫つれて遊びに来いってよく言われてる。
でも、遊ぶのがないから嫌だって拒否られるんだよね。
ぶーぶー文句垂れてる姿見てて、昔の自分を思いだしたよ。
ごめんな。寂しかったよね。
母さんは元気でどこにでも遊びにいけるけど、ばぁちゃんは障害抱えてるハルねぇちゃんいたから、どこにも行けなかったんだよね。
ばぁちゃん亡くなってから遺産相続でごたごたになって、いとこ達に会ったのは、ばぁちゃんの葬式が最後になったよ。
ハルねぇちゃんも引き取るって、叔母さん達が強引に連れて行ってからその後の音沙汰もない。
障害年金目的なのかなって、母さんが怒りながら言ってた。
たぶん施設に入れたんだろうって言ってたけど、正直ハルねぇちゃんを自宅介護できるとは思えないし、ハルねぇちゃんもきっとその方がいいと思う。
なんだろうね・・・この歳になってようやくあの頃の状況が理解できたよ。
末っ子の僕を連れて通ってた親父。
僕もまた末っ子を連れて実家に遊びに行ってる。
上の子は部活とか、友達と遊ぶ約束があったりであまり一緒に行ってくれないんだけど、正月とかクリスマスとかにはケーキ持って家族で行ってる。
姉貴家族や兄貴家族も年越しには実家に帰ってくるんだ。
毎年、家族写真を撮ってるんだけど、ばあちゃんの写真って、そういえばほとんどなかったなって気が付いた。
反省・・ではないけど、写真はこまめに撮っておこうって思う。
忘れちゃうんだよね・・・いろいろと。
と、まぁ、忘れないようかきこかきこ。
祖母の家は遠くて、毎週週末に親父と車で3時間かけて通ってた。
なんで毎週通ってたかは記憶にないんだけど。
たぶん僕が小さい内は姉貴とか兄貴も一緒に行ってたと思うんだけど、僕が小学生になった頃には皆、部活とかで忙しくて、僕だけが親父と一緒に通ってた。
祖母ん家には重度の障害もってる叔母さんがいて、いつも「ハルねぇちゃん、元気?」って挨拶してた。
近くに親戚も住んでいて、はとことかもいたんだけど、週末に数時間しかいないような僕が仲良く遊べることもなく、一人で近くの公園で鯉に自分のおやつにと渡されたスナック菓子を投げてた記憶がある。
小学校高学年になると、友達と遊ぶ方が楽しくなってきてさ、祖母の家にはあまり行かなくなってた。
『ばあちゃんのこと、きらいになったの?』
っていう電話の声をまだ覚えてる。
部活が忙しいんだよって、苦しい言い訳しちゃったけど、部活なんて全然忙しくなかったんだね・・・・。
元々個人主義な部活だし、先輩後輩なんてあってなき部活だったから。
そんな頃、祖母がガンになった。
病状が進んでいたのか即入院だった。
母さんが看病で泊まり込みになると、家には親父と兄貴と僕しかいなくて(姉貴は進学の為、他のとこに住んでた。)、料理のできない親父が頑張ってたけど、正直不味かった。焦げたのとか結構あったし。
兄貴はその頃、高校生で・・・戦力外だったから、なんとなく出来た僕が頑張った。
とはいっても、なに作ったか覚えていないんだが。
あの頃の記憶っていうか、小学校、中学校の記憶ってあまりないんだよね。
場面、場面を断片的に覚えてる感じ。
人間って忘れる生き物だから、他の人もきっと覚えてないんだと思ってるんだけど、そこらへんどうなんだろうな。
中学校の制服着て葬式に出た記憶があるから、中学校入りたてだったんだと思う。
祖母が亡くなった。
葬式には遠いとこに住んでるいとこ達も来てて、会わないうちにずいぶん成長したなって思ったのを記憶してる。
いとこ達との思い出ってのがまた少なくて、小学生の頃の夏休みに祖母ん家に遊びにきてた時、ペルシャ猫も連れてきてたんだが、その猫がやたらと逃げるからニゲっていう名前だったということしか記憶にない。
まぁ、そんなんで読経はお坊さんがあげたんだけど、なんだったかな。
ユタ(いわゆる霊能者)が読経の後に・・・魂篭するとかなんだかで協力者が1人欲しいって言われた。
協力者には祖母の干支と相性がいいってことで僕が選ばれたんだけど、トイレで線香あげて祝詞をあげて、あと数カ所まわって・・・をやった。
今にして思えば、死んだ人の未練とか魂とか、そういったのをこの世に残さないようにするやつだったんだと思う。
で、僕は呼び出す為の囮的なものかな。
故人に可愛がられてて、怖がることもない子ってとこが選ばれた理由だと思う。
てか、見えない、感じないんだから怖がることすら出来ないんだが。
霊的防御力が高いのか知らないが、なにかの折りにユタに世話になったんだが『僕が帰してる』って言われるくらいだし。
むしろ「幽霊とか見えないし空気と同じ」とか言ってるKYに育って大変申し訳ないと思う。
ばぁちゃん、ばぁちゃんが買ってくれたペンダント、まだ大事にしてるよ。
たぶんあわび貝を加工したやつだと思うんだけど、昔と同様、青い綺麗なままだよ。
小学生の頃だっけかな。お土産品店で買ったから、もしかして1000円もしれないかもしれないものだけど、お気に入りでよくつけてる。
数年前にさ、母がガンで手術したんだ。
初期で見つかったから、命には別状がないんだけど気が弱くなったんだろうね。
孫つれて遊びに来いってよく言われてる。
でも、遊ぶのがないから嫌だって拒否られるんだよね。
ぶーぶー文句垂れてる姿見てて、昔の自分を思いだしたよ。
ごめんな。寂しかったよね。
母さんは元気でどこにでも遊びにいけるけど、ばぁちゃんは障害抱えてるハルねぇちゃんいたから、どこにも行けなかったんだよね。
ばぁちゃん亡くなってから遺産相続でごたごたになって、いとこ達に会ったのは、ばぁちゃんの葬式が最後になったよ。
ハルねぇちゃんも引き取るって、叔母さん達が強引に連れて行ってからその後の音沙汰もない。
障害年金目的なのかなって、母さんが怒りながら言ってた。
たぶん施設に入れたんだろうって言ってたけど、正直ハルねぇちゃんを自宅介護できるとは思えないし、ハルねぇちゃんもきっとその方がいいと思う。
なんだろうね・・・この歳になってようやくあの頃の状況が理解できたよ。
末っ子の僕を連れて通ってた親父。
僕もまた末っ子を連れて実家に遊びに行ってる。
上の子は部活とか、友達と遊ぶ約束があったりであまり一緒に行ってくれないんだけど、正月とかクリスマスとかにはケーキ持って家族で行ってる。
姉貴家族や兄貴家族も年越しには実家に帰ってくるんだ。
毎年、家族写真を撮ってるんだけど、ばあちゃんの写真って、そういえばほとんどなかったなって気が付いた。
反省・・ではないけど、写真はこまめに撮っておこうって思う。
忘れちゃうんだよね・・・いろいろと。
と、まぁ、忘れないようかきこかきこ。
赤い華咲かせましょう
ひとつ ふたつと 華が咲く
ふわり ふわりと 華が咲く
「ふふ・・ふふふ・・綺麗ね。全部、全部、赤い華、とても、とても綺麗ね。」
私の婚約者は騎士でした。
家がお隣で幼い頃から共に育ってきた私達は、彼が騎士となり国に仕える頃に婚約した。
国に仕えた婚約者はトントントンと昇格し、騎士団長まで登りつめた。
むかう所敵なし、と評判となった彼は国が召喚した神子と共に魔王を退治に旅に出る。
神子は光の加護を持つ王子と、希代の魔術師、百発百中の弓の名手、国一番の癒し手、騎士団長の彼と共に旅に出る。
美しい黒髪の神子と、見目麗しい彼らの旅は、たくさんの人に見守られ、祝福され、懇願され、魔物の屍の山を作りあげた。
彼らの通った後には華々しい英雄譚が産まれ、華々しい彼らの恋話が人の口を伝って聞こえてくるようになった。
愛し愛される神子。
神子を守り、愛し、かしずく5人の男。
3年の月日を経て、念願の魔王を討った彼らの旅は人々の歓声と共に終わる。
神子は騎士を伴侶にと願い、国を挙げての結婚式が催される。
はらり はらりと 華が舞う
ぽたり ぽたりと 赤く散る
国の使者と名乗る男が手渡したのは、神殿の発行した婚約破棄の通知書。
国中が喜びで湧き上がる中、1つの家で闇が産まれる。
ふわり ふわりと 華が散る
ぽたり ぽたりと 赤く染まる
『必ず帰ってくる。帰ってきたら式を挙げよう。』
そう言って、婚約者は旅に出ました。
私の乙女を奪って。
父は苦笑いしながら、母は祝いの料理を作りながら祝福の言葉を私に贈り、
そして私は3年の間、婚約者の隣に並んでも恥ずかしくないよう、家事の腕を磨きながら、白い花嫁衣裳を作り続けた。
ぽたり ぽたりと 華が跳ぶ
はらり はらりと 赤い華
**********************************************************
『やめてっ!どうしてこんな酷いことするの!?』
美しい黒髪を色とりどりの花で飾り、白い花嫁衣裳を纏った神子が叫ぶ。
神子の腕の中には、婚約者であった男。
私の放った炎で焼かれた顔を手で押さえながら、男は『なぜ』と問いかける。
なぜ? どうして?
貴方は忘れてしまったのかしら?
乙女を捧げるという意味を。
乙女を捧げるということは、貴方に嫁ぐという意味。
生涯ただ一人の人だということに。
父も母も知らせを聞いて、嘆き、悲しみ・・そして息絶えた。
共に死のうと声をかけ、互いに刃物を滑らした。
流れる赤に、白い花嫁衣装が染まる。
赤い 赤い 赤い 赤い華
ざわり ざわりと 闇が寄る
おかしいわね。同じ黒髪だというのにこうも違う。
神子は祝福の黒。私は闇の黒。
おかしいわね。同じ花嫁衣装だというのにこうも違う。
白と紅。
はらり はらりと 舞う炎
ぽたり ぽたりと 散る華
『闇に堕ちたのか』
闇?
これが闇ならなんて優しいの?
なんの力も持たない私に力をくれた。
息絶えようとした私に力をくれた。
闇より得た力は燃え盛る炎となり、全てを燃やす、燃やす、燃やし尽くす。
産まれ育った家も、父も、母も、故郷も、街も、王都も、全て。
城下は炎に包まれ、炎は歓喜の声をあげる。
--魔の王が産まれた--
ほたり ほたりと 舞う炎
ぽたり ぽたりと 赤い華
「ねぇ、訪ねて来てくれません?」
ニコリと、紅く染まった眼を細めて笑う。
「理由を聞きたいの。どうしてその方を選んだの? どうして私を捨てたの? どうしてなのか聞きたいの。だから訪ねて来てくれないかしら?・・・・魔王城に」
舞う黒髪。
昏く輝く紅眼。
「ごめんなさいね。時間がないの。皆が祝ってくれるそうなのよ。だから行かなくちゃ。」
ふわりと宙に浮かぶ。
「・・あぁ、そうそう、私、ここにお祝いを渡しにきたのよ。ごめんなさいね。なんだか忘れっぽくなっちゃって・・・。」
手の中から ふわり ふわりと 産まれる炎
ごう ごう ごうと 炎は歓喜の声をあげる
その日、1つの国が燃え落ちる。
魔王討伐に喜んでいた人々は、新たに産まれた魔王に恐怖する。
紅い魔王は歌うように、息を吸うように、炎を産む。
炎に彩られた世界で人々は神に、神子に、その仲間達に懇願する。
世界の平和を! 人々に平穏を!どうか! どうか! どうか!
******************************************************
俺の婚約者は隣に住む娘でした。
栗色の髪に緑の瞳。
いつも花のように笑う美しい娘。
近所でも評判の娘。
誰にも奪われないよう俺は努力した。
何の力も持たない男なら、すぐに誰かに奪われてしまうから。
騎士団に入り、必死に剣を振るい、血反吐を吐きながら騎士団長まで登りつめた。
ようやく娘を娶れるという時に、国が神子を召喚した。
黒髪、黒目の異世界の娘。
人にあらざる色を持つ娘。
『魔王を討て』
神子の威光を示す為に。
王子を勇者にする為に。
国の権威を知らしめる為に。
『魔王を討て』と命じられ、神子と王子と4人の仲間は旅に出る。
旅に出る前、娘に言う。
「必ず帰ってくる。帰ってきたら式を挙げよう。」
そう言い、乙女を奪いさる・・・。
神子と王子と4人の仲間。
人々に頼まれ、崇められ、煽てられ、魔物の屍の山を築く。
神子は王子と3人の仲間。
男に囲まれ、褒められ、愛されて、幸せそうに旅をする。
俺は愛する娘と離されて、イライライラと旅をする。
遅々としか進まぬ旅。
魔物を屠れど、先に進めることもなく。
ただただイライラが募るばかり。
『いつも眉間にしわを寄せているのね』
神子は笑ってすり寄るが、苛立ちのみが増すばかり。
俺の愛しい娘が待っているのに、どうしてこうも先に進まぬ。
イライライラと進む旅。
なんとかかんとか3年の月日をかけて、魔王の城へとたどりつく。
魔の王は黒髪紅眼の若い男。
『僕を討つ理由は?』
そう問う彼に刃を立てる。
--私は旅を終わらし、娘の元に帰りたい--
ただそれだけの理由で。
無害な魔王。
魔物がいるのは世の定め。
魔の王とは無関係。
それでも討てば崇められる。
人ならざるモノを討ったと英雄となる。
帰路の先には愛する娘。
喜び勇んで道を進む。
道の先には国の使者。
使者は王命書を手渡す。
『婚約者ノ娘ハ病死シタ。神子トノ婚姻ヲ命ズ。』
病死の文字に愕然とする、
固まる俺に神子は腕を絡め、頬を染める。
『ずっと好きだったのです。嬉しい。』
娘がいない。
俺の愛する娘がこの世にいない。
それからの記憶があまりない。
*****************************************************
白亜の城での宴では、白い衣装を纏った神子が頬笑む。
俺ノ愛スル娘ハ ドコダ
突然の爆炎に城が震える。
炎の向こうに娘が見える。
「なぜ」
栗色の髪でも、緑の瞳でもない、人ならざる色に染まった娘。
黒髪紅眼の愛しい娘。
「闇に堕ちたのか」
あぁ・・愛しい君、人ならざるモノに成り果てても生きてくれたのか。
炎に焼かれた瞳では、君の姿がよく見えぬ。
抱きしめようと手を伸ばすが、神子に捕まれ近寄れぬ。
ごう ごう ごうと 炎がうるさい。
愛しい君の声が聞こえない
『・・・・・・どうして私を捨てたの? ・・・・・訪ねて来てくれないかしら?・・・・魔王城に』
愛しい君よ、どうして君を捨てようか。
魔王城だろうが、死神の鎌の下だろうが、どこへなりとも行こうじゃないか。
愛しい君がそこにいるというのならば。
愛剣を携え行こうとすると、神子が腕を捕まえ、こうのたまう。
『どこに行くの?今日は私達の結婚式でしょう?』
荒れ果て、燃え尽き、崩れ落ちた白亜の城で、そうのたまう。
「俺は承諾した覚えなどない。」
腕を振りほどき、走り出す。
愛しい者は一人だけ。
その君がいると言うのならば、千里の道も駆けていこう。
魔王城へとたどり着くまでに、腕はもがれ、焼かれた瞳は光を映さなくなったけれど、
そんなものはどうでもいい。
片目があれば君が見える。
片腕があれば君を抱きしめられる。
ただひたすらに道を駆ける。
炎に彩られた魔王城。
その中心に、炎に抱かれ君が居た。
愛しい君よ、ようやくだ、ようやくこの手に抱けるか。
嬉しさのあまり頬がゆるむ。
パチリと開いた紅眼は、昔の色とは程遠い魔の紅。
炎に輝く黒髪は、禍々しいまでの闇の色。
それでも美しい愛しい君。
ようやく会えたと手を伸ばす。
「どうして?」と闇に染まった娘。
「どうして?」と片手片目の男。
絡む視線で互いの心を探り出す。
互いの瞳に映るのは、ただ愛しいという心のみ。
ぽたり ぽたりと 紅い華
ひたり ひたりと 闇が寄る
抱き合う2人に闇が寄る。
******************************************************
『その人に触らないで!!』
神子のかん高い声が魔王城に響く。
「「どうして?」」
抱き合う2人は問いかける。
「理由を教えてほしいの?どうして私は捨てられたの?どうして彼は貴女を選んだの?」
「理由を聞かせてほしい。どうして俺は嘘をつかれた?どうして俺は神子と結婚しなければならない?」
『私は神子よ。私が絶対なのよ。魔王は倒すものでしょう?貴方は私のモノでしょう?』
傲慢にのたまう神子。
背後に並んだ王子や魔術師、射手、癒し手は、真っ青になって口をつぐむ。
その姿に理由を悟る。
全ては神子が望んだこと。
騎士を望んだ神子に国は、王子は、魔術師や、射手、癒し手は、力を使って神子の望みを叶えたのだ。
神子を抱える国は優位に立つ。
神子の持つ力は魔を寄せつけぬ。
だからこそ愛する彼らは騙されて、
罪を負い、傷を負い、闇を負う。
ふわり ふわりと 舞う炎
ひたり ひたりと 寄る闇
闇に抱かれ2人は消える。
炎に包まれた城に神子と、王子と、3人の仲間を閉じ込めて。
許しを、怒りを、懇願を、叫ぶ彼らの声は炎に抱かれ燃え尽きる。
ふわり ふわりと 華が舞う
ぽたり ぽたりと しのぶ闇
ふわり ふわりと 華が咲く
「ふふ・・ふふふ・・綺麗ね。全部、全部、赤い華、とても、とても綺麗ね。」
私の婚約者は騎士でした。
家がお隣で幼い頃から共に育ってきた私達は、彼が騎士となり国に仕える頃に婚約した。
国に仕えた婚約者はトントントンと昇格し、騎士団長まで登りつめた。
むかう所敵なし、と評判となった彼は国が召喚した神子と共に魔王を退治に旅に出る。
神子は光の加護を持つ王子と、希代の魔術師、百発百中の弓の名手、国一番の癒し手、騎士団長の彼と共に旅に出る。
美しい黒髪の神子と、見目麗しい彼らの旅は、たくさんの人に見守られ、祝福され、懇願され、魔物の屍の山を作りあげた。
彼らの通った後には華々しい英雄譚が産まれ、華々しい彼らの恋話が人の口を伝って聞こえてくるようになった。
愛し愛される神子。
神子を守り、愛し、かしずく5人の男。
3年の月日を経て、念願の魔王を討った彼らの旅は人々の歓声と共に終わる。
神子は騎士を伴侶にと願い、国を挙げての結婚式が催される。
はらり はらりと 華が舞う
ぽたり ぽたりと 赤く散る
国の使者と名乗る男が手渡したのは、神殿の発行した婚約破棄の通知書。
国中が喜びで湧き上がる中、1つの家で闇が産まれる。
ふわり ふわりと 華が散る
ぽたり ぽたりと 赤く染まる
『必ず帰ってくる。帰ってきたら式を挙げよう。』
そう言って、婚約者は旅に出ました。
私の乙女を奪って。
父は苦笑いしながら、母は祝いの料理を作りながら祝福の言葉を私に贈り、
そして私は3年の間、婚約者の隣に並んでも恥ずかしくないよう、家事の腕を磨きながら、白い花嫁衣裳を作り続けた。
ぽたり ぽたりと 華が跳ぶ
はらり はらりと 赤い華
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『やめてっ!どうしてこんな酷いことするの!?』
美しい黒髪を色とりどりの花で飾り、白い花嫁衣裳を纏った神子が叫ぶ。
神子の腕の中には、婚約者であった男。
私の放った炎で焼かれた顔を手で押さえながら、男は『なぜ』と問いかける。
なぜ? どうして?
貴方は忘れてしまったのかしら?
乙女を捧げるという意味を。
乙女を捧げるということは、貴方に嫁ぐという意味。
生涯ただ一人の人だということに。
父も母も知らせを聞いて、嘆き、悲しみ・・そして息絶えた。
共に死のうと声をかけ、互いに刃物を滑らした。
流れる赤に、白い花嫁衣装が染まる。
赤い 赤い 赤い 赤い華
ざわり ざわりと 闇が寄る
おかしいわね。同じ黒髪だというのにこうも違う。
神子は祝福の黒。私は闇の黒。
おかしいわね。同じ花嫁衣装だというのにこうも違う。
白と紅。
はらり はらりと 舞う炎
ぽたり ぽたりと 散る華
『闇に堕ちたのか』
闇?
これが闇ならなんて優しいの?
なんの力も持たない私に力をくれた。
息絶えようとした私に力をくれた。
闇より得た力は燃え盛る炎となり、全てを燃やす、燃やす、燃やし尽くす。
産まれ育った家も、父も、母も、故郷も、街も、王都も、全て。
城下は炎に包まれ、炎は歓喜の声をあげる。
--魔の王が産まれた--
ほたり ほたりと 舞う炎
ぽたり ぽたりと 赤い華
「ねぇ、訪ねて来てくれません?」
ニコリと、紅く染まった眼を細めて笑う。
「理由を聞きたいの。どうしてその方を選んだの? どうして私を捨てたの? どうしてなのか聞きたいの。だから訪ねて来てくれないかしら?・・・・魔王城に」
舞う黒髪。
昏く輝く紅眼。
「ごめんなさいね。時間がないの。皆が祝ってくれるそうなのよ。だから行かなくちゃ。」
ふわりと宙に浮かぶ。
「・・あぁ、そうそう、私、ここにお祝いを渡しにきたのよ。ごめんなさいね。なんだか忘れっぽくなっちゃって・・・。」
手の中から ふわり ふわりと 産まれる炎
ごう ごう ごうと 炎は歓喜の声をあげる
その日、1つの国が燃え落ちる。
魔王討伐に喜んでいた人々は、新たに産まれた魔王に恐怖する。
紅い魔王は歌うように、息を吸うように、炎を産む。
炎に彩られた世界で人々は神に、神子に、その仲間達に懇願する。
世界の平和を! 人々に平穏を!どうか! どうか! どうか!
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俺の婚約者は隣に住む娘でした。
栗色の髪に緑の瞳。
いつも花のように笑う美しい娘。
近所でも評判の娘。
誰にも奪われないよう俺は努力した。
何の力も持たない男なら、すぐに誰かに奪われてしまうから。
騎士団に入り、必死に剣を振るい、血反吐を吐きながら騎士団長まで登りつめた。
ようやく娘を娶れるという時に、国が神子を召喚した。
黒髪、黒目の異世界の娘。
人にあらざる色を持つ娘。
『魔王を討て』
神子の威光を示す為に。
王子を勇者にする為に。
国の権威を知らしめる為に。
『魔王を討て』と命じられ、神子と王子と4人の仲間は旅に出る。
旅に出る前、娘に言う。
「必ず帰ってくる。帰ってきたら式を挙げよう。」
そう言い、乙女を奪いさる・・・。
神子と王子と4人の仲間。
人々に頼まれ、崇められ、煽てられ、魔物の屍の山を築く。
神子は王子と3人の仲間。
男に囲まれ、褒められ、愛されて、幸せそうに旅をする。
俺は愛する娘と離されて、イライライラと旅をする。
遅々としか進まぬ旅。
魔物を屠れど、先に進めることもなく。
ただただイライラが募るばかり。
『いつも眉間にしわを寄せているのね』
神子は笑ってすり寄るが、苛立ちのみが増すばかり。
俺の愛しい娘が待っているのに、どうしてこうも先に進まぬ。
イライライラと進む旅。
なんとかかんとか3年の月日をかけて、魔王の城へとたどりつく。
魔の王は黒髪紅眼の若い男。
『僕を討つ理由は?』
そう問う彼に刃を立てる。
--私は旅を終わらし、娘の元に帰りたい--
ただそれだけの理由で。
無害な魔王。
魔物がいるのは世の定め。
魔の王とは無関係。
それでも討てば崇められる。
人ならざるモノを討ったと英雄となる。
帰路の先には愛する娘。
喜び勇んで道を進む。
道の先には国の使者。
使者は王命書を手渡す。
『婚約者ノ娘ハ病死シタ。神子トノ婚姻ヲ命ズ。』
病死の文字に愕然とする、
固まる俺に神子は腕を絡め、頬を染める。
『ずっと好きだったのです。嬉しい。』
娘がいない。
俺の愛する娘がこの世にいない。
それからの記憶があまりない。
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白亜の城での宴では、白い衣装を纏った神子が頬笑む。
俺ノ愛スル娘ハ ドコダ
突然の爆炎に城が震える。
炎の向こうに娘が見える。
「なぜ」
栗色の髪でも、緑の瞳でもない、人ならざる色に染まった娘。
黒髪紅眼の愛しい娘。
「闇に堕ちたのか」
あぁ・・愛しい君、人ならざるモノに成り果てても生きてくれたのか。
炎に焼かれた瞳では、君の姿がよく見えぬ。
抱きしめようと手を伸ばすが、神子に捕まれ近寄れぬ。
ごう ごう ごうと 炎がうるさい。
愛しい君の声が聞こえない
『・・・・・・どうして私を捨てたの? ・・・・・訪ねて来てくれないかしら?・・・・魔王城に』
愛しい君よ、どうして君を捨てようか。
魔王城だろうが、死神の鎌の下だろうが、どこへなりとも行こうじゃないか。
愛しい君がそこにいるというのならば。
愛剣を携え行こうとすると、神子が腕を捕まえ、こうのたまう。
『どこに行くの?今日は私達の結婚式でしょう?』
荒れ果て、燃え尽き、崩れ落ちた白亜の城で、そうのたまう。
「俺は承諾した覚えなどない。」
腕を振りほどき、走り出す。
愛しい者は一人だけ。
その君がいると言うのならば、千里の道も駆けていこう。
魔王城へとたどり着くまでに、腕はもがれ、焼かれた瞳は光を映さなくなったけれど、
そんなものはどうでもいい。
片目があれば君が見える。
片腕があれば君を抱きしめられる。
ただひたすらに道を駆ける。
炎に彩られた魔王城。
その中心に、炎に抱かれ君が居た。
愛しい君よ、ようやくだ、ようやくこの手に抱けるか。
嬉しさのあまり頬がゆるむ。
パチリと開いた紅眼は、昔の色とは程遠い魔の紅。
炎に輝く黒髪は、禍々しいまでの闇の色。
それでも美しい愛しい君。
ようやく会えたと手を伸ばす。
「どうして?」と闇に染まった娘。
「どうして?」と片手片目の男。
絡む視線で互いの心を探り出す。
互いの瞳に映るのは、ただ愛しいという心のみ。
ぽたり ぽたりと 紅い華
ひたり ひたりと 闇が寄る
抱き合う2人に闇が寄る。
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『その人に触らないで!!』
神子のかん高い声が魔王城に響く。
「「どうして?」」
抱き合う2人は問いかける。
「理由を教えてほしいの?どうして私は捨てられたの?どうして彼は貴女を選んだの?」
「理由を聞かせてほしい。どうして俺は嘘をつかれた?どうして俺は神子と結婚しなければならない?」
『私は神子よ。私が絶対なのよ。魔王は倒すものでしょう?貴方は私のモノでしょう?』
傲慢にのたまう神子。
背後に並んだ王子や魔術師、射手、癒し手は、真っ青になって口をつぐむ。
その姿に理由を悟る。
全ては神子が望んだこと。
騎士を望んだ神子に国は、王子は、魔術師や、射手、癒し手は、力を使って神子の望みを叶えたのだ。
神子を抱える国は優位に立つ。
神子の持つ力は魔を寄せつけぬ。
だからこそ愛する彼らは騙されて、
罪を負い、傷を負い、闇を負う。
ふわり ふわりと 舞う炎
ひたり ひたりと 寄る闇
闇に抱かれ2人は消える。
炎に包まれた城に神子と、王子と、3人の仲間を閉じ込めて。
許しを、怒りを、懇願を、叫ぶ彼らの声は炎に抱かれ燃え尽きる。
ふわり ふわりと 華が舞う
ぽたり ぽたりと しのぶ闇
黒幕は嗤う
「ひどい男よね。親友で遊んで楽しいの?」
ディスプレィの明かりと、モーター音しか聞こえない部屋で、ディスプレィに向かって座る長い黒髪をした女が言う。
「あれ?レイちゃん、もしかして妬いちゃった?」
ニヤニヤと女の黒髪をもて遊びながら、小林 総一郎の同僚兼学友兼親友である榊 透吾が笑う。
その手をうっとおしそうに振り払いながら「けなしてんのよ。あんたが裏で工作してんの親友が知ったら、どんな顔するのかしらね。」レイと呼ばれた女が言う。
「やだなぁ。レイちゃん人聞きの悪い。
僕はね?総一郎に舞台を作ってあげただけだよ。
今時、ドラマみたいなことって起きないじゃない。日本は安全だからさぁ。
せっかく総一郎が一目惚れしたんだよ?
相手のコもイイコだったし。そんな二人が一緒に危機を乗り越えて幸せになりました。っていいストーリーじゃん?総一郎もさぁ、そろそろ幸せになってもいいと思うんだよね。」と、女を背後から抱きしめた。
その拍子に、机の上の書類が床に散らばる。
【佐藤 翠 調査報告書】
【前田 明美 調査報告書】
小林 総一郎と榊 透吾はいわゆる金持ち学園と呼ばれる所に通っていた。
高遠製鋼の現社長の孫(姓は親父のを名乗っている為、高遠ではない)ということで権力も財力もあった総一郎は鼻っ柱が高く、わがままでやりたい放題していた。
容姿、学力、運動にも優れていた為、女にモテ、青春を謳歌していたのだが、そこに転入してきたのが小森 七海という少女。
天真爛漫、純粋を絵に描いたような美少女、瞬く間に学園のマドンナになった。
総一郎も榊も含んだ他の男も彼女に好意を抱き、振り向いてもらうよう貢いだりしていたのだが、彼女は男を侍らすだけ侍らして、最後は年上の男とくっついた。
散々、愛を囁き、貢ぎ、便宜を図ってきた彼らを鼻で嗤うようにして。
「ごめんね?だってもっとたくさん欲しいのがあるの。学生のあなた達じゃ買えないでしょ?」と、嘲笑った彼女の顔が忘れられない。
学生とはいえ世間一般では金持ちに分類される彼ら。
そんな彼らは彼女が欲しいと言った装飾品は一も二もなく買い、行きたいと言う場所には高い金を出して彼女を連れて行った。
およそ学生の身分で使わないような金額を使って。
親がそのことに気がついた時には、すでにカードの上限金額をとっくに通り越した請求書の束が出来ており、そのことに激怒してなにに使ったのか問いただすが、女に貢いだとは矜持が高くて口に出来ず、結局の所、内定調査によって露見することになった。
その後、学生の間、カードは必要最低限の使用金額しか認められず。就職もコネを使うことが禁止、就職後は自力で生活することが義務づけられた。
しかしながら元々自力があった総一郎と榊は、ともに上場企業に就職を果たし、営業職を頑張ってきていたのだ。
容姿も良ければ、能力も高い彼らはやはり女にモテたが、「○○が欲しいな。」との言葉に過去のトラウマを触発され長続きはしなかった。
総一郎はそのうち仕事にのめり込んでしまい、合間合間にカノジョがいた様だが、いつの間にか別れている様子だった。
そんな中での一目惚れである。
これはなんとかして、結婚までもっていってもらおうと奮起したのが事の次第。
「でもね、これはやりすぎだと思うわ。このコ、犯歴がついちゃったんでしょう?」
画面に映るのは前田明美のグチッター。
『今日、会社のイケメン営業に恋愛相談されちゃった(*≧Δ≦)』
『えっ!?もしかして・・気があるんじゃないの?』
『やっぱり?やっぱそうだよね!?キャーヽ(≧▽≦)/』
『いいなー。かっこいいの?どういう系?』
『ワイルド系。マジかっこいいよ。身長高いし。』
『やったじゃん!奪っちゃいなよ(ゝω・)相手もそれを期待してるでしょ(≧∇≦)b』
『えー・・でも、お金持ちかなぁ(・_・、)』
『隠してるけど高遠製鋼の孫だよ。時期社長。』
『すっごいじゃん!玉の輿だよ!!狙っちゃえ~(*ゝω・*)ノ』
『いい方法書いてあるらしいよ。略奪スレのURL貼っておくね(ゝω・)
www://×××××.×××.××』
「誘導したのは僕だけど、それを実行したのは彼女自身だよ。自業自得ってものだね。・・・でも、おもしろかったな。自分のことじゃないから、皆、煽る煽る。匿名だから言いたい放題だし。」
「匿名だからこそ人間性でるんでしょ。」
「ほんとだね・・・あまりにも反応が可愛くて、ウィルス踏むよう誘導しようか迷っちゃったよ。おもしろいことになったろうねぇ。それともバックドアの方がおもしろかったかなぁ。」クスクスと暗く笑う榊。
「その顔、親友が知ったら幻滅されるわよ。榊。」
「安心して?レイちゃんの前だけだよ。あぁ、そうだ。総一郎がレイちゃんに結婚式これるか予定聞いててくれって言ってた。3月21日なんだって。」
「・・・予定もなにも・・・あんたが出してくれるなら行けるわよ。」
「そうだねぇ。久しぶりに外の空気を吸うのもいいかもね。着飾って一緒に行こうね。」
「・・・・・・・えぇ、そうね。」
ディスプレィの明かりと、モーター音しか聞こえない部屋で、ディスプレィに向かって座る長い黒髪をした女が言う。
「あれ?レイちゃん、もしかして妬いちゃった?」
ニヤニヤと女の黒髪をもて遊びながら、小林 総一郎の同僚兼学友兼親友である榊 透吾が笑う。
その手をうっとおしそうに振り払いながら「けなしてんのよ。あんたが裏で工作してんの親友が知ったら、どんな顔するのかしらね。」レイと呼ばれた女が言う。
「やだなぁ。レイちゃん人聞きの悪い。
僕はね?総一郎に舞台を作ってあげただけだよ。
今時、ドラマみたいなことって起きないじゃない。日本は安全だからさぁ。
せっかく総一郎が一目惚れしたんだよ?
相手のコもイイコだったし。そんな二人が一緒に危機を乗り越えて幸せになりました。っていいストーリーじゃん?総一郎もさぁ、そろそろ幸せになってもいいと思うんだよね。」と、女を背後から抱きしめた。
その拍子に、机の上の書類が床に散らばる。
【佐藤 翠 調査報告書】
【前田 明美 調査報告書】
小林 総一郎と榊 透吾はいわゆる金持ち学園と呼ばれる所に通っていた。
高遠製鋼の現社長の孫(姓は親父のを名乗っている為、高遠ではない)ということで権力も財力もあった総一郎は鼻っ柱が高く、わがままでやりたい放題していた。
容姿、学力、運動にも優れていた為、女にモテ、青春を謳歌していたのだが、そこに転入してきたのが小森 七海という少女。
天真爛漫、純粋を絵に描いたような美少女、瞬く間に学園のマドンナになった。
総一郎も榊も含んだ他の男も彼女に好意を抱き、振り向いてもらうよう貢いだりしていたのだが、彼女は男を侍らすだけ侍らして、最後は年上の男とくっついた。
散々、愛を囁き、貢ぎ、便宜を図ってきた彼らを鼻で嗤うようにして。
「ごめんね?だってもっとたくさん欲しいのがあるの。学生のあなた達じゃ買えないでしょ?」と、嘲笑った彼女の顔が忘れられない。
学生とはいえ世間一般では金持ちに分類される彼ら。
そんな彼らは彼女が欲しいと言った装飾品は一も二もなく買い、行きたいと言う場所には高い金を出して彼女を連れて行った。
およそ学生の身分で使わないような金額を使って。
親がそのことに気がついた時には、すでにカードの上限金額をとっくに通り越した請求書の束が出来ており、そのことに激怒してなにに使ったのか問いただすが、女に貢いだとは矜持が高くて口に出来ず、結局の所、内定調査によって露見することになった。
その後、学生の間、カードは必要最低限の使用金額しか認められず。就職もコネを使うことが禁止、就職後は自力で生活することが義務づけられた。
しかしながら元々自力があった総一郎と榊は、ともに上場企業に就職を果たし、営業職を頑張ってきていたのだ。
容姿も良ければ、能力も高い彼らはやはり女にモテたが、「○○が欲しいな。」との言葉に過去のトラウマを触発され長続きはしなかった。
総一郎はそのうち仕事にのめり込んでしまい、合間合間にカノジョがいた様だが、いつの間にか別れている様子だった。
そんな中での一目惚れである。
これはなんとかして、結婚までもっていってもらおうと奮起したのが事の次第。
「でもね、これはやりすぎだと思うわ。このコ、犯歴がついちゃったんでしょう?」
画面に映るのは前田明美のグチッター。
『今日、会社のイケメン営業に恋愛相談されちゃった(*≧Δ≦)』
『えっ!?もしかして・・気があるんじゃないの?』
『やっぱり?やっぱそうだよね!?キャーヽ(≧▽≦)/』
『いいなー。かっこいいの?どういう系?』
『ワイルド系。マジかっこいいよ。身長高いし。』
『やったじゃん!奪っちゃいなよ(ゝω・)相手もそれを期待してるでしょ(≧∇≦)b』
『えー・・でも、お金持ちかなぁ(・_・、)』
『隠してるけど高遠製鋼の孫だよ。時期社長。』
『すっごいじゃん!玉の輿だよ!!狙っちゃえ~(*ゝω・*)ノ』
『いい方法書いてあるらしいよ。略奪スレのURL貼っておくね(ゝω・)
www://×××××.×××.××』
「誘導したのは僕だけど、それを実行したのは彼女自身だよ。自業自得ってものだね。・・・でも、おもしろかったな。自分のことじゃないから、皆、煽る煽る。匿名だから言いたい放題だし。」
「匿名だからこそ人間性でるんでしょ。」
「ほんとだね・・・あまりにも反応が可愛くて、ウィルス踏むよう誘導しようか迷っちゃったよ。おもしろいことになったろうねぇ。それともバックドアの方がおもしろかったかなぁ。」クスクスと暗く笑う榊。
「その顔、親友が知ったら幻滅されるわよ。榊。」
「安心して?レイちゃんの前だけだよ。あぁ、そうだ。総一郎がレイちゃんに結婚式これるか予定聞いててくれって言ってた。3月21日なんだって。」
「・・・予定もなにも・・・あんたが出してくれるなら行けるわよ。」
「そうだねぇ。久しぶりに外の空気を吸うのもいいかもね。着飾って一緒に行こうね。」
「・・・・・・・えぇ、そうね。」
12月。初雪の舞う中で
前田明美の判決は初犯の為、実刑はなかったものの接近禁止令と慰謝料が命じられる。
実行犯である男達は騙されたということで注意勧告のみであった。
前田明美は途中、激高して「私だけが悪くないっ、ネットの皆だっていいって言ってた!あいつらにも責任あんだろ!それにミドリムシだって、こいつが金持ち だから玉の輿狙ってんだろう!?清純面してんじゃねぇよ。」と弁護士が制止するのも聞かず、暴言を吐いたので途中退席を言い渡された。
面と向かって暴言を吐かれた翠は、あまりのショックで倒れそうになるが気丈にも、最後まで判決が下るのを見届けた。
裁判が終わったのは夕刻に近い時間で、裁判所を出る頃には街路樹に巻かれたネオンがチカチカと点灯し始めていた。
翠と手を繋ぎながら無言で公園を歩く。
「すまん。翠。言ってなかったことがある。
俺・・・高遠製鋼継ぐんだ。たぶん、これからもこんなのが出てくるかもしれない。それでも俺と一緒に人生を歩いてくれないか?」
「でも・・・総一郎さん。私、なにも持ってない、平凡な女なんです。
平凡より・・・もっと悪いかな。お金もないし、なにも出来ないし、・・・親もいない。そんなのが総一郎さんのお嫁さんには・・・ふさわしくないよ。」
「・・・それでも俺は翠が欲しいよ。翠と一緒に桜見て、翠と一緒にいたい。
なぁ・・・頼むからうんって言ってくれ。翠のこと絶対守るから。」
翠の冷たい手を握りしめながら言う。
しばらく沈黙が続いた後、翠はこくりと頷いて「・・・私でいいのなら。」と言った。
空から白い雪がハラハラと舞い落ちる。
初雪を地面に着く前に掴むことができたら願いが叶うって教えてくれたのは誰だったかな、とふと思う。
ふわりと手の平に落ちてきた雪に、俺の願いは叶ったよ、とつぶやいた。
実行犯である男達は騙されたということで注意勧告のみであった。
前田明美は途中、激高して「私だけが悪くないっ、ネットの皆だっていいって言ってた!あいつらにも責任あんだろ!それにミドリムシだって、こいつが金持ち だから玉の輿狙ってんだろう!?清純面してんじゃねぇよ。」と弁護士が制止するのも聞かず、暴言を吐いたので途中退席を言い渡された。
面と向かって暴言を吐かれた翠は、あまりのショックで倒れそうになるが気丈にも、最後まで判決が下るのを見届けた。
裁判が終わったのは夕刻に近い時間で、裁判所を出る頃には街路樹に巻かれたネオンがチカチカと点灯し始めていた。
翠と手を繋ぎながら無言で公園を歩く。
「すまん。翠。言ってなかったことがある。
俺・・・高遠製鋼継ぐんだ。たぶん、これからもこんなのが出てくるかもしれない。それでも俺と一緒に人生を歩いてくれないか?」
「でも・・・総一郎さん。私、なにも持ってない、平凡な女なんです。
平凡より・・・もっと悪いかな。お金もないし、なにも出来ないし、・・・親もいない。そんなのが総一郎さんのお嫁さんには・・・ふさわしくないよ。」
「・・・それでも俺は翠が欲しいよ。翠と一緒に桜見て、翠と一緒にいたい。
なぁ・・・頼むからうんって言ってくれ。翠のこと絶対守るから。」
翠の冷たい手を握りしめながら言う。
しばらく沈黙が続いた後、翠はこくりと頷いて「・・・私でいいのなら。」と言った。
空から白い雪がハラハラと舞い落ちる。
初雪を地面に着く前に掴むことができたら願いが叶うって教えてくれたのは誰だったかな、とふと思う。
ふわりと手の平に落ちてきた雪に、俺の願いは叶ったよ、とつぶやいた。
プロフィール
HN:
塩飴
性別:
非公開
自己紹介:
日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
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