塩飴の倉庫 彼と彼女の話13 忍者ブログ
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閑話 初任給の使い方

同僚「そういえばミドリちゃんに指輪買ってあげた?」
昼飯を食いながら問いかけてきた同僚。
総一郎「・・いや、買おうとしたら翠にいらないって言われた。」
同僚「へぇ、珍しい。なに?金属アレルギー?」
総一郎「金属アレルギーもあるようだが・・・こだわりというか・・まぁ、あってな。」
同僚「え。なになに?どんなこだわり?」
総一郎「硬度と溶解温度だ。」
同僚「・・・・はい?」
総一郎「金や銀は火災にあうと大抵変形するらしい。プラチナは原型とどめてるのが多いらしいが、金属の理想はタングステンらしい。石も同様だな。色が剥脱したり、変わったりするから石メインにしてるのはあまり好きじゃないそうだ。むしろ石はなくていいらしい。」
同僚「タングステン!?いや、でもアレって、リングカッターでも切れないってよく聞くよね?」
総一郎「あぁ、『それが問題なんですよね』って、翠も言ってた。それにデザインもこだわりがあってだな。名前がガッツリ入ってるのがいいらしい。イニシャルよりフルネームが好ましいそうだ。」
同僚「Soichiro to Midoriとか?文字数多いね。ホビットの持ってる指輪みたいになっちゃいそう。てか、ソレ結婚指輪じゃん?」
総一郎「あぁ、だから俺がそれはあげるからって言っておいた。」
同僚「あっそ、ごちそうさまです~。いやぁ、小林君がのろけるなんて明日は槍が降るねぇ。」
総一郎「のろけか?指輪贈ること承諾させるの大変だったんだぞ?なんせ、翠、初任給で耐火金庫買うつもりだったからな?」
同僚「・・・・は!?・・・小林君、まさかバレてた?」
総一郎「・・・バレてたら俺に他社の耐火金庫と、どっちかいいかなんて聞かないだろう。真剣に仕様を検討してたよ。ダイアル式とシリンダー錠のどちらかで悩んでるらしいが、ダイアル式がロマンがあるそうだ。」
同僚「ごめん。ダイアル式にロマンとか僕、感じたことないわ。」
総一郎「奇遇だな。俺もだ。」


翠の欲しがってた耐火金庫は俺の親父に相談することにした。
さすがに初任給での買い物が耐火金庫って悲しすぎる。
『泥にまみれてても、金庫の中に入れてれば原型留めてるんですよ。
私ね、大事なものはちゃんと保管するべきなんだって実感したんです。
貸金庫も考えたんですけど、中身が写真とかって恐れ多いというか、入れてもいいんですか?って感じで・・・家庭用の耐火金庫にしようと思ったんです。』と、真剣に仕様書を見る翠。本気で購入を考えているのだろう、簡易のから業務用のまで幅広い金庫の仕様書の束があった。

「親父んとこに中古あるらしい。希望とかあるなら言ってみたら?」
と電話を翠に渡すと、翠は驚きながらも電話を受け取って親父と話していた。
最初は自分で買うから結構です。と話していたのだが、親父と仕様について詳しく話しているうちに鍵のロマンを楽しそうに話していた。
主流はテンキー式かもしれないが、それだとロマンがないじゃないですかって・・・すまん。翠、俺にはダイアル式も、テンキー式も、シリンダー錠も、磁気ロックも、指紋認証も皆一緒に見える。
なににロマンを感じるのか全く分からないのだが、同じようにロマンを感じているらしい親父に「いいの見つけておくから楽しみにしてて。」と上機嫌で電話を切られた。

翌週、翠の小さなアパートに耐火金庫が届く。
配送業者2名がかりで運ばれてきた60㌔の耐火金庫。
「こ、これはっ、耐火3時間、防水仕様の業界最高峰の高遠製鋼の耐火金庫っ。
えぇぇ!?ものすごい高い物ですよ?受け取れませんよ。どうしよう。」と、おろおろしている翠を尻目に、受領書にサインして配送業者を帰す。
「総一郎さん、どうしましょう。受け取れないです。配送業者さんもう一度呼んでください。」と、涙目の翠に「余ってるものだから。倉庫で腐らしてるより翠 が使ってくれた方がいいんだよ。それに配送業者帰しちゃったし。」と納得させる。が、翠がどうしても礼がしたいと言うので一緒に大吟醸買いに行き宅配で頼 んだ。

晩に「大吟醸が届いた」との電話がお袋からかかってきた。
翠が何度も何度もお礼を言う。
「あらあら、いいのよぅ。そこまで喜んでくれたらお父さん喜ぶわぁ。
こちらこそお酒ありがとうねぇ。うふふ、今日はお父さんと一杯飲んじゃうわぁ。」と電話口からお袋の声が漏れ聞こえる。
翠はひたすら礼を言い、しばらくして電話を切ると、翠が静かに泣いてた。
「・・・翠?・・・どうした?お袋になんか言われたのか?」
驚いて問いただすと、翠はどこか焦点のあってない目をしながらしばらく泣き続けた。
「・・・思い出したんです。
兄が初めての給料で両親にお酒を贈ってたの。
すごい喜んでくれてて、私も就職したら最初に両親にお酒を贈ろうって思ったの思い出しちゃって・・・・。
・・・ありがとうございます。総一郎さん。私の夢、一つ叶った気がします。」
涙を流す翠を抱きしめながら、改めて大事にしようと決意した。


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総一郎「・・・親父、ありがとうな。」
親父「喜んでくれたかい?翠ちゃん。・・・いい娘じゃないか、大事にしろよ。」
総一郎「・・・分かってる。じゃあな。」
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親父「母さん、母さん、総一郎からお礼なんて言われちゃったよ!」
お袋「あらあらあら、お父さんったら。良かったわねぇ。・・やぁねぇ泣いちゃって、歳とると涙腺って弱くなるのねぇ。」
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日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。

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