塩飴の倉庫 短編 忍者ブログ
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赤い華咲かせましょう

ひとつ ふたつと 華が咲く
ふわり ふわりと 華が咲く

「ふふ・・ふふふ・・綺麗ね。全部、全部、赤い華、とても、とても綺麗ね。」




私の婚約者は騎士でした。

家がお隣で幼い頃から共に育ってきた私達は、彼が騎士となり国に仕える頃に婚約した。
国に仕えた婚約者はトントントンと昇格し、騎士団長まで登りつめた。
むかう所敵なし、と評判となった彼は国が召喚した神子と共に魔王を退治に旅に出る。
神子は光の加護を持つ王子と、希代の魔術師、百発百中の弓の名手、国一番の癒し手、騎士団長の彼と共に旅に出る。

美しい黒髪の神子と、見目麗しい彼らの旅は、たくさんの人に見守られ、祝福され、懇願され、魔物の屍の山を作りあげた。
彼らの通った後には華々しい英雄譚が産まれ、華々しい彼らの恋話が人の口を伝って聞こえてくるようになった。

愛し愛される神子。

神子を守り、愛し、かしずく5人の男。




3年の月日を経て、念願の魔王を討った彼らの旅は人々の歓声と共に終わる。
神子は騎士を伴侶にと願い、国を挙げての結婚式が催される。


はらり はらりと 華が舞う
ぽたり ぽたりと 赤く散る


国の使者と名乗る男が手渡したのは、神殿の発行した婚約破棄の通知書。
国中が喜びで湧き上がる中、1つの家で闇が産まれる。


ふわり ふわりと 華が散る
ぽたり ぽたりと 赤く染まる


『必ず帰ってくる。帰ってきたら式を挙げよう。』

そう言って、婚約者は旅に出ました。
私の乙女を奪って。

父は苦笑いしながら、母は祝いの料理を作りながら祝福の言葉を私に贈り、
そして私は3年の間、婚約者の隣に並んでも恥ずかしくないよう、家事の腕を磨きながら、白い花嫁衣裳を作り続けた。


ぽたり ぽたりと 華が跳ぶ
はらり はらりと 赤い華

**********************************************************

『やめてっ!どうしてこんな酷いことするの!?』

美しい黒髪を色とりどりの花で飾り、白い花嫁衣裳を纏った神子が叫ぶ。
神子の腕の中には、婚約者であった男。

私の放った炎で焼かれた顔を手で押さえながら、男は『なぜ』と問いかける。

なぜ? どうして?

貴方は忘れてしまったのかしら?
乙女を捧げるという意味を。
乙女を捧げるということは、貴方に嫁ぐという意味。
生涯ただ一人の人だということに。

父も母も知らせを聞いて、嘆き、悲しみ・・そして息絶えた。
共に死のうと声をかけ、互いに刃物を滑らした。

流れる赤に、白い花嫁衣装が染まる。

赤い 赤い 赤い 赤い華
ざわり ざわりと 闇が寄る

おかしいわね。同じ黒髪だというのにこうも違う。
神子は祝福の黒。私は闇の黒。

おかしいわね。同じ花嫁衣装だというのにこうも違う。
白と紅。


はらり はらりと 舞う炎
ぽたり ぽたりと 散る華


『闇に堕ちたのか』


闇?
これが闇ならなんて優しいの?
なんの力も持たない私に力をくれた。
息絶えようとした私に力をくれた。
闇より得た力は燃え盛る炎となり、全てを燃やす、燃やす、燃やし尽くす。
産まれ育った家も、父も、母も、故郷も、街も、王都も、全て。
城下は炎に包まれ、炎は歓喜の声をあげる。

--魔の王が産まれた--

ほたり ほたりと 舞う炎
ぽたり ぽたりと 赤い華


「ねぇ、訪ねて来てくれません?」

ニコリと、紅く染まった眼を細めて笑う。

「理由を聞きたいの。どうしてその方を選んだの? どうして私を捨てたの? どうしてなのか聞きたいの。だから訪ねて来てくれないかしら?・・・・魔王城に」

舞う黒髪。
昏く輝く紅眼。

「ごめんなさいね。時間がないの。皆が祝ってくれるそうなのよ。だから行かなくちゃ。」
ふわりと宙に浮かぶ。

「・・あぁ、そうそう、私、ここにお祝いを渡しにきたのよ。ごめんなさいね。なんだか忘れっぽくなっちゃって・・・。」

手の中から ふわり ふわりと 産まれる炎
ごう ごう ごうと 炎は歓喜の声をあげる



その日、1つの国が燃え落ちる。

魔王討伐に喜んでいた人々は、新たに産まれた魔王に恐怖する。
紅い魔王は歌うように、息を吸うように、炎を産む。
炎に彩られた世界で人々は神に、神子に、その仲間達に懇願する。
世界の平和を! 人々に平穏を!どうか! どうか! どうか!


******************************************************


俺の婚約者は隣に住む娘でした。

栗色の髪に緑の瞳。
いつも花のように笑う美しい娘。
近所でも評判の娘。

誰にも奪われないよう俺は努力した。
何の力も持たない男なら、すぐに誰かに奪われてしまうから。
騎士団に入り、必死に剣を振るい、血反吐を吐きながら騎士団長まで登りつめた。


ようやく娘を娶れるという時に、国が神子を召喚した。

黒髪、黒目の異世界の娘。
人にあらざる色を持つ娘。

『魔王を討て』

神子の威光を示す為に。
王子を勇者にする為に。
国の権威を知らしめる為に。

『魔王を討て』と命じられ、神子と王子と4人の仲間は旅に出る。

旅に出る前、娘に言う。
「必ず帰ってくる。帰ってきたら式を挙げよう。」
そう言い、乙女を奪いさる・・・。


神子と王子と4人の仲間。
人々に頼まれ、崇められ、煽てられ、魔物の屍の山を築く。

神子は王子と3人の仲間。
男に囲まれ、褒められ、愛されて、幸せそうに旅をする。

俺は愛する娘と離されて、イライライラと旅をする。
遅々としか進まぬ旅。
魔物を屠れど、先に進めることもなく。
ただただイライラが募るばかり。

『いつも眉間にしわを寄せているのね』
神子は笑ってすり寄るが、苛立ちのみが増すばかり。
俺の愛しい娘が待っているのに、どうしてこうも先に進まぬ。
イライライラと進む旅。


なんとかかんとか3年の月日をかけて、魔王の城へとたどりつく。
魔の王は黒髪紅眼の若い男。
『僕を討つ理由は?』
そう問う彼に刃を立てる。
--私は旅を終わらし、娘の元に帰りたい--
ただそれだけの理由で。

無害な魔王。
魔物がいるのは世の定め。
魔の王とは無関係。
それでも討てば崇められる。
人ならざるモノを討ったと英雄となる。


帰路の先には愛する娘。
喜び勇んで道を進む。
道の先には国の使者。
使者は王命書を手渡す。
『婚約者ノ娘ハ病死シタ。神子トノ婚姻ヲ命ズ。』

病死の文字に愕然とする、
固まる俺に神子は腕を絡め、頬を染める。
『ずっと好きだったのです。嬉しい。』

娘がいない。
俺の愛する娘がこの世にいない。
それからの記憶があまりない。

*****************************************************

白亜の城での宴では、白い衣装を纏った神子が頬笑む。

俺ノ愛スル娘ハ ドコダ


突然の爆炎に城が震える。
炎の向こうに娘が見える。

「なぜ」
栗色の髪でも、緑の瞳でもない、人ならざる色に染まった娘。
黒髪紅眼の愛しい娘。

「闇に堕ちたのか」
あぁ・・愛しい君、人ならざるモノに成り果てても生きてくれたのか。
炎に焼かれた瞳では、君の姿がよく見えぬ。
抱きしめようと手を伸ばすが、神子に捕まれ近寄れぬ。

ごう ごう ごうと 炎がうるさい。
愛しい君の声が聞こえない

『・・・・・・どうして私を捨てたの? ・・・・・訪ねて来てくれないかしら?・・・・魔王城に』

愛しい君よ、どうして君を捨てようか。
魔王城だろうが、死神の鎌の下だろうが、どこへなりとも行こうじゃないか。
愛しい君がそこにいるというのならば。



愛剣を携え行こうとすると、神子が腕を捕まえ、こうのたまう。
『どこに行くの?今日は私達の結婚式でしょう?』
荒れ果て、燃え尽き、崩れ落ちた白亜の城で、そうのたまう。
「俺は承諾した覚えなどない。」
腕を振りほどき、走り出す。
愛しい者は一人だけ。
その君がいると言うのならば、千里の道も駆けていこう。

魔王城へとたどり着くまでに、腕はもがれ、焼かれた瞳は光を映さなくなったけれど、
そんなものはどうでもいい。

片目があれば君が見える。
片腕があれば君を抱きしめられる。

ただひたすらに道を駆ける。



炎に彩られた魔王城。
その中心に、炎に抱かれ君が居た。
愛しい君よ、ようやくだ、ようやくこの手に抱けるか。
嬉しさのあまり頬がゆるむ。

パチリと開いた紅眼は、昔の色とは程遠い魔の紅。
炎に輝く黒髪は、禍々しいまでの闇の色。

それでも美しい愛しい君。
ようやく会えたと手を伸ばす。

「どうして?」と闇に染まった娘。

「どうして?」と片手片目の男。

絡む視線で互いの心を探り出す。
互いの瞳に映るのは、ただ愛しいという心のみ。


ぽたり ぽたりと 紅い華
ひたり ひたりと 闇が寄る

抱き合う2人に闇が寄る。

******************************************************

『その人に触らないで!!』
神子のかん高い声が魔王城に響く。


「「どうして?」」
抱き合う2人は問いかける。

「理由を教えてほしいの?どうして私は捨てられたの?どうして彼は貴女を選んだの?」
「理由を聞かせてほしい。どうして俺は嘘をつかれた?どうして俺は神子と結婚しなければならない?」


『私は神子よ。私が絶対なのよ。魔王は倒すものでしょう?貴方は私のモノでしょう?』
傲慢にのたまう神子。

背後に並んだ王子や魔術師、射手、癒し手は、真っ青になって口をつぐむ。

その姿に理由を悟る。

全ては神子が望んだこと。
騎士を望んだ神子に国は、王子は、魔術師や、射手、癒し手は、力を使って神子の望みを叶えたのだ。

神子を抱える国は優位に立つ。
神子の持つ力は魔を寄せつけぬ。

だからこそ愛する彼らは騙されて、
罪を負い、傷を負い、闇を負う。

ふわり ふわりと 舞う炎
ひたり ひたりと 寄る闇

闇に抱かれ2人は消える。
炎に包まれた城に神子と、王子と、3人の仲間を閉じ込めて。
許しを、怒りを、懇願を、叫ぶ彼らの声は炎に抱かれ燃え尽きる。


ふわり ふわりと 華が舞う
ぽたり ぽたりと しのぶ闇
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