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8月。隣人はシャインスター
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デスマーチをなんとか乗り切った俺は、8月頭に代休兼リフレッシュ休暇をもぎ取った。
18時半着のバスを降りた俺を見たとたん、翠に「夏バテですか!?どうしたんですか。やつれちゃってますよ。」と心配される。
翠の顔を見る為だけに頑張ってた分、会えた嬉しさはひとしおだった。
「どうした?」
翠がやたらと周囲を見渡しているので疑問になって聞くと、「最近、知らない人によく声かけられるんですよ。なんなのかな。」と、裾を掴んで周囲を警戒しながら歩く。
「エヴァグリィィィィン!!」
突然、やたらと発音の良い声が背後から響いてきた。
「うひょっ。」と翠が驚いて背後を見ると、人混みの中から頭一つ飛び出た金髪の外国人が、ぶんぶんと手を振っていた。
「あ。マシューさんだ。」と、翠が手を振りかえす。
「誰だ。」
「お隣さん。先月引っ越してきたの。」
そうこうしているうちに金髪の外国人は近くまできていた。
「oh~! コンバンワ!私ハ マシュー 言イマスデス。ヨロシクデス!エヴァグリーン swieetie ダークネスファング!? I’m moved!」
翠が返事をする前から、金髪男は俺の手を取ってぶんぶんと握手をする。
「スィーティ?」
「恋人って意味だな。ところでエヴァグリーンってなんだ。ミドリだからか?」
金髪男=アメリカから来たマシューと名乗る外国人はそれからものすごく興奮した感じで一人で喋りまくってた。
なにが俺に似てるんだ。
とりあえず男の癖に☆のついたヘアピンってなんだ。
興奮して話してるせいで言ってる意味がよく分からない。
同じ目線のせいでやたらと視界に入る☆のヘアピンに気を取られつつ、コスプレだの、自分のことはシャインスターと呼べだの、なんだか理解の出来ないまま会話が進む。
ポカンとしてると、翠が袖を引いて「め、目立つから帰ろ。」と言ってきたので、マシュー改めシャインスターに別れの挨拶を言って家路につく。
「マシューさんはね、美少女戦士シャイニーハートの大ファンらしいよ。私もビックリしたもの。いきなりエヴァグリーンって呼ばれたし。」とケラケラと笑いながら話す翠。
「美少女戦士シャイニーハートすら分からんのだが。」
翠の説明によると十数年前に流行ったアニメで、ラブリーハート、オーシャンブルー、エヴァグリーンという名前の変身美少女が戦うそうだ。
お助けキャラとして金髪碧眼のマント王子シャインスター。敵役にダークネスファングというキャラがいる・・らしい。
後で画像探してみますよーと言う翠。
検索して出てきた画像を見て、なんと感想を言っていいのやら・・・。
ピンク、青、緑の頭髪をした少女達と、金髪碧眼の白のマント羽織ってマスクしてる男。狼だか犬だかの顔した上半身裸の黒い獣人。
・・・・・どこが似ているんだ。
翌日、出社する翠を駅まで送り、アパートに帰ってくるとマシュー改めシャインスターがゴミ袋片手にドアを開けたところに出くわした。
「オハヨー!ダークネスファング!エヴァグリーン オ仕事デスカ?」
朝からハイテンションである。
「おはようございます。あぁ、俺の名前ですが、ダークネスファングじゃなく、小林といいま・・・「分カッテマス!ダークネスファング!HENSOUデスネ!エヴァグリーン ヒ・ミ・ツ!」
・・・ダメだ。このオタク・・・会話が通じる気がしない。
ハイテンションのシャインスターの背後に見えた部屋が・・・・まっピンクでファンシーな置物がたくさんあるのが見えて思わずギョッとした。
「oh~!! MyRoom ラブリーハートRoom! look!? come!!」
・・・なにが悲しくて身長180越えの男が2人、こんなピンク色したお姫様仕様の部屋にいなくてはいけないんだろう。
強引に座らされた俺はシャインスターの熱いオタク魂を聞くことになった。
美少女戦士シャイニーハートに魅了されたマシューは、大学卒業後、憧れである日本に家族の反対を押し切って単身渡航してきたらしい。
シャインスターになりきったのはいいが(☆のヘアピンは変身アイテムだそうだ)、シャインスターの部屋はまーっくろ。なんもない部屋のマネするのは物足りない、だから可愛いもの好きなヒロインであるラブリーハートの部屋を再現したそうだ。
ハートクッションを抱きしめながら熱く語る金髪碧眼の外国人。
・・・・・・・空が青いなぁ。
その後、ダークネスファングについても熱く語られる。
普段は狼の顔だが、人に化ける時は黒髪黒目の男になるそうだ。
その姿で変身前の美少女戦士達を、気づかずに助けたりするらしい。
・・・へー。
熱く語るシャインスターに精神をガリガリと削られ続けていると、突然、シャインスターが「ゴ飯、食ベニ行キマショウ!」と財布を持ってドアへと進む。
腕時計を見ると11時。
2時間近くもアニメの話聞いてたのか・・俺は。
辞退しようかとも思ったが、どのみち一人で昼飯を食べるのも味気ない感じもし、シャインスターの後について行くことにした。
駅の近くにあるファミレスの道路側の席を陣取ったシャインスターは「シー・・・イイデスカ?ヨク見テイテ下サイネ?」と、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡す。
「ΣLooK!! イマシタ!悪ノ組織デス!」と、メニューで隠すように指差したのはスーツを着た・・・中年のサラリーマン。
思わず胡乱げな目を向けてしまうと、シャインスターは大げさに肩を落とす。
「Oh~・・何モ分カラナイ。ダークネスファング。アレ ハ タダノサラリーマン ジャナイデス!悪ノ組織ノ一員デスヨ!ソノ証拠ニ エヴァグリーン狙ッテマス!」
「!?」
思わず通り過ぎて行った中年のサラリーマンを目で追いかける。
「・・・・気のせいじゃないのか?」
「NO!・・・エヴァグリーン、電車降リル、悪ノ組織、声カケル。『ケイジバンノコダヨネ』」
「掲示板・・・?」
「Yes!ケイジバン。エヴァグリーン 違ウ 言ウ。デモ悪ノ組織アキラメナイ。シツコク、シツコク声カケル。」
シャインスターとの初めての飯は苦いものになった。
週末、花火大会を見に行き浴衣姿の翠を堪能する。
シャインスターの言葉ではないが、日本万歳だ。
帰り際、カランコロンと下駄の音を弾ませながら歩く翠に1つの提案をする。
「翠、お盆休みなんだけどな?うちの実家に一緒に行かないか?」
翠の両親はもういない。
・・・墓参りは、申し訳ないけど葵さん達にお願いするとして、俺と一緒に来てほしい。
少なくともココには置いて行きたくないんだ。
18時半着のバスを降りた俺を見たとたん、翠に「夏バテですか!?どうしたんですか。やつれちゃってますよ。」と心配される。
翠の顔を見る為だけに頑張ってた分、会えた嬉しさはひとしおだった。
「どうした?」
翠がやたらと周囲を見渡しているので疑問になって聞くと、「最近、知らない人によく声かけられるんですよ。なんなのかな。」と、裾を掴んで周囲を警戒しながら歩く。
「エヴァグリィィィィン!!」
突然、やたらと発音の良い声が背後から響いてきた。
「うひょっ。」と翠が驚いて背後を見ると、人混みの中から頭一つ飛び出た金髪の外国人が、ぶんぶんと手を振っていた。
「あ。マシューさんだ。」と、翠が手を振りかえす。
「誰だ。」
「お隣さん。先月引っ越してきたの。」
そうこうしているうちに金髪の外国人は近くまできていた。
「oh~! コンバンワ!私ハ マシュー 言イマスデス。ヨロシクデス!エヴァグリーン swieetie ダークネスファング!? I’m moved!」
翠が返事をする前から、金髪男は俺の手を取ってぶんぶんと握手をする。
「スィーティ?」
「恋人って意味だな。ところでエヴァグリーンってなんだ。ミドリだからか?」
金髪男=アメリカから来たマシューと名乗る外国人はそれからものすごく興奮した感じで一人で喋りまくってた。
なにが俺に似てるんだ。
とりあえず男の癖に☆のついたヘアピンってなんだ。
興奮して話してるせいで言ってる意味がよく分からない。
同じ目線のせいでやたらと視界に入る☆のヘアピンに気を取られつつ、コスプレだの、自分のことはシャインスターと呼べだの、なんだか理解の出来ないまま会話が進む。
ポカンとしてると、翠が袖を引いて「め、目立つから帰ろ。」と言ってきたので、マシュー改めシャインスターに別れの挨拶を言って家路につく。
「マシューさんはね、美少女戦士シャイニーハートの大ファンらしいよ。私もビックリしたもの。いきなりエヴァグリーンって呼ばれたし。」とケラケラと笑いながら話す翠。
「美少女戦士シャイニーハートすら分からんのだが。」
翠の説明によると十数年前に流行ったアニメで、ラブリーハート、オーシャンブルー、エヴァグリーンという名前の変身美少女が戦うそうだ。
お助けキャラとして金髪碧眼のマント王子シャインスター。敵役にダークネスファングというキャラがいる・・らしい。
後で画像探してみますよーと言う翠。
検索して出てきた画像を見て、なんと感想を言っていいのやら・・・。
ピンク、青、緑の頭髪をした少女達と、金髪碧眼の白のマント羽織ってマスクしてる男。狼だか犬だかの顔した上半身裸の黒い獣人。
・・・・・どこが似ているんだ。
翌日、出社する翠を駅まで送り、アパートに帰ってくるとマシュー改めシャインスターがゴミ袋片手にドアを開けたところに出くわした。
「オハヨー!ダークネスファング!エヴァグリーン オ仕事デスカ?」
朝からハイテンションである。
「おはようございます。あぁ、俺の名前ですが、ダークネスファングじゃなく、小林といいま・・・「分カッテマス!ダークネスファング!HENSOUデスネ!エヴァグリーン ヒ・ミ・ツ!」
・・・ダメだ。このオタク・・・会話が通じる気がしない。
ハイテンションのシャインスターの背後に見えた部屋が・・・・まっピンクでファンシーな置物がたくさんあるのが見えて思わずギョッとした。
「oh~!! MyRoom ラブリーハートRoom! look!? come!!」
・・・なにが悲しくて身長180越えの男が2人、こんなピンク色したお姫様仕様の部屋にいなくてはいけないんだろう。
強引に座らされた俺はシャインスターの熱いオタク魂を聞くことになった。
美少女戦士シャイニーハートに魅了されたマシューは、大学卒業後、憧れである日本に家族の反対を押し切って単身渡航してきたらしい。
シャインスターになりきったのはいいが(☆のヘアピンは変身アイテムだそうだ)、シャインスターの部屋はまーっくろ。なんもない部屋のマネするのは物足りない、だから可愛いもの好きなヒロインであるラブリーハートの部屋を再現したそうだ。
ハートクッションを抱きしめながら熱く語る金髪碧眼の外国人。
・・・・・・・空が青いなぁ。
その後、ダークネスファングについても熱く語られる。
普段は狼の顔だが、人に化ける時は黒髪黒目の男になるそうだ。
その姿で変身前の美少女戦士達を、気づかずに助けたりするらしい。
・・・へー。
熱く語るシャインスターに精神をガリガリと削られ続けていると、突然、シャインスターが「ゴ飯、食ベニ行キマショウ!」と財布を持ってドアへと進む。
腕時計を見ると11時。
2時間近くもアニメの話聞いてたのか・・俺は。
辞退しようかとも思ったが、どのみち一人で昼飯を食べるのも味気ない感じもし、シャインスターの後について行くことにした。
駅の近くにあるファミレスの道路側の席を陣取ったシャインスターは「シー・・・イイデスカ?ヨク見テイテ下サイネ?」と、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡す。
「ΣLooK!! イマシタ!悪ノ組織デス!」と、メニューで隠すように指差したのはスーツを着た・・・中年のサラリーマン。
思わず胡乱げな目を向けてしまうと、シャインスターは大げさに肩を落とす。
「Oh~・・何モ分カラナイ。ダークネスファング。アレ ハ タダノサラリーマン ジャナイデス!悪ノ組織ノ一員デスヨ!ソノ証拠ニ エヴァグリーン狙ッテマス!」
「!?」
思わず通り過ぎて行った中年のサラリーマンを目で追いかける。
「・・・・気のせいじゃないのか?」
「NO!・・・エヴァグリーン、電車降リル、悪ノ組織、声カケル。『ケイジバンノコダヨネ』」
「掲示板・・・?」
「Yes!ケイジバン。エヴァグリーン 違ウ 言ウ。デモ悪ノ組織アキラメナイ。シツコク、シツコク声カケル。」
シャインスターとの初めての飯は苦いものになった。
週末、花火大会を見に行き浴衣姿の翠を堪能する。
シャインスターの言葉ではないが、日本万歳だ。
帰り際、カランコロンと下駄の音を弾ませながら歩く翠に1つの提案をする。
「翠、お盆休みなんだけどな?うちの実家に一緒に行かないか?」
翠の両親はもういない。
・・・墓参りは、申し訳ないけど葵さん達にお願いするとして、俺と一緒に来てほしい。
少なくともココには置いて行きたくないんだ。
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・・・・泣きつかれて同行者が増えた。
7月。デスマーチは唐突に
「アスファルトつくろ~。」
「・・・妙な電波でも受信したか。」
いきなり巷によく聞くフレーズで歌い出した同僚にツッコミを入れる。
現在時刻23時17分。
「・・・人の意識は無意識下で繋がってるっていう説があってね?流行とかあるじゃない。それは水面下の全体としての意識が作用してるらしいんだよ。だから僕がこの歌を急に歌ったのは、きっと誰かがこの歌を歌ってるからに違いない。」
そう言って検索画面を開こうとする同僚。
「ユングもそんなアホな歌歌われるとは思わなかっただろうな。って、おい・・さすがにアスファルト作る歌なんてないと思うぞ。」
「・・・・ない・・・ないわ~。誰かが年度末の道路工事の哀愁を物語った歌を歌ってると思ったのに・・・。寒い、工期が短い、深夜作業は幽霊よりも野生動 物が怖い、美人の姉ちゃんが運転手で会釈とかしてもらうとテンションあがる、逆にカップルだと爆ぜろ!リア充!っていう歌が絶対あると確信してたのに。」
「・・・どんな歌だよ。なんで一瞬でそこまで飛躍したよ。それにお前、道路工事に一切関係ないだろう。なんでそこまで詳しいんだよ。」
「いや、なんか脳内を駆けめぐったんだ。」
「・・・・変な電波受信したんだな。」
7月の蒸し暑い空気の中、タカタカとキーボードを叩く音だけが静かな室内に響く。
昨日からずっと画面と睨めっこばかりしてるので、眼精疲労と頭痛と腰痛。それに加えて代えてないシャツからの汗の臭気に鼻がもげそうだ。
省エネ対策でエアコンは全館停止である。
・・・・この提案文書を作りあげるのが先か、俺たちが熱中症でぶっ倒れるのが先かの戦いだ。
「俺・・・この提案が終わったら翠に会いに行くんだ。」
「やめろ、小林っ!それは死亡フラグだぞっ。」
**************************************************
上司「いやぁ・・・なんとかなるもんだね。」
総一郎・同僚「・・・。」
「・・・妙な電波でも受信したか。」
いきなり巷によく聞くフレーズで歌い出した同僚にツッコミを入れる。
現在時刻23時17分。
「・・・人の意識は無意識下で繋がってるっていう説があってね?流行とかあるじゃない。それは水面下の全体としての意識が作用してるらしいんだよ。だから僕がこの歌を急に歌ったのは、きっと誰かがこの歌を歌ってるからに違いない。」
そう言って検索画面を開こうとする同僚。
「ユングもそんなアホな歌歌われるとは思わなかっただろうな。って、おい・・さすがにアスファルト作る歌なんてないと思うぞ。」
「・・・・ない・・・ないわ~。誰かが年度末の道路工事の哀愁を物語った歌を歌ってると思ったのに・・・。寒い、工期が短い、深夜作業は幽霊よりも野生動 物が怖い、美人の姉ちゃんが運転手で会釈とかしてもらうとテンションあがる、逆にカップルだと爆ぜろ!リア充!っていう歌が絶対あると確信してたのに。」
「・・・どんな歌だよ。なんで一瞬でそこまで飛躍したよ。それにお前、道路工事に一切関係ないだろう。なんでそこまで詳しいんだよ。」
「いや、なんか脳内を駆けめぐったんだ。」
「・・・・変な電波受信したんだな。」
7月の蒸し暑い空気の中、タカタカとキーボードを叩く音だけが静かな室内に響く。
昨日からずっと画面と睨めっこばかりしてるので、眼精疲労と頭痛と腰痛。それに加えて代えてないシャツからの汗の臭気に鼻がもげそうだ。
省エネ対策でエアコンは全館停止である。
・・・・この提案文書を作りあげるのが先か、俺たちが熱中症でぶっ倒れるのが先かの戦いだ。
「俺・・・この提案が終わったら翠に会いに行くんだ。」
「やめろ、小林っ!それは死亡フラグだぞっ。」
**************************************************
上司「いやぁ・・・なんとかなるもんだね。」
総一郎・同僚「・・・。」
6月。なんだかんだで仕事ばかりしてる
毎週毎週、土産のずんだ餅を渡しているうちに、「ミドリちゃんとこ行くならコレ持って行って。」という届け物の依頼が増えた。
逆に支店からの物も翠経由で持って行く。
その代り、週末の飲み会の参加は一切しなくなったが元々ほとんど行かなかったから問題ない。
週末の飲み会どころか、土日も会社で仕事してたからな・・今まで付き合ってたカノジョには「私と仕事どっちが大事なの!?」とよく言われていたものだ。
自分から好きだからつき合ってと言ってきたくせに、仕事ばかりしてる俺が気に入らないとキレられて別れるのが常だった。
毎日毎日、朝から晩まで仕事仕事。
仕事してるか寝てるかしかしてない俺に変化が訪れたのが、仕事帰りに立ち寄ったコンビニ。
コンビニで働く翠を見て、初めての一目惚れ。
コンビニに通いつめたはいいが、どうしていいのか分からないと友人に相談したら「うだうだ言うな。男なら潔く告白しろ。」と友人達に背中を押されたのは、今となってはいい思い出だ。
OKを貰えて舞い上がったのはいいが、どのように接していいか分からず、週末に翠の部屋に遊びに行くというワンパターンな行動しか出来なかったのは反省した。
翠の顔見てるだけで幸せという、脳内に花が咲いてる状態で、更には翠の心を知りたいと欲を掻いて、あの女に相談したのはもっと反省したが。
庶務室の前を通りすがるとあの女が「小林さぁん、また飲み会行かないって本当ですかぁ?つまんなぃ~。次は絶対、来て下さいよねぇ?・・・・あ。コレ。総務の佐藤さんに渡してください。」と書類とUABメモリを入れた封筒を渡してきた。
「・・・分かりました。必ず渡します。」そう言って立ち去ると、背後から「絶対、約束ですからねぇ!」という声が追いかけてきたが聞こえないフリをした。
明け方の夜行バスの中で、渡された書類を確認しているとなんとない違和感を覚えた。
なにが気になるのか分からず、再度読み返すが内容に不備はない。
なんだろう。しかし、なにかが気になると思いつつ、書類を何回か捲るうちに鼻につく匂いに気が付いた。
・・・コーヒーの匂いがする。
書類にこぼしたのだろうかと思い、再度書類を確認するが染みは見つからず、封筒か?と思い、封筒を確認すると中に入っていたUSBメモリから匂いがすることに気が付いた。
外見にコーヒーの染みや汚れはない・・・まさかな、と思いながら手のひらにUSBメモリを振る。
手のひらについた茶色い水滴。
・・・・あの女。
翠のアパートについて、台所でUSBをすすいでいるとそれを見た翠が驚いて「だ、大丈夫ですか!?え、ソレって洗っちゃいけないものじゃないんです!?」と尋ねてきた。
「間違えてコーヒーこぼした。水で洗って乾かせば大丈夫だ。注意点は中に水分ついた状態でPCにささないことだな。通電させてしまうとデータが飛ぶ。」
へぇぇ、と感心している翠から密封できるポリ袋を貰う。
土産に買ってきたぴよこの箱を開けてシリカゲル乾燥剤を取り出し、しっかりと水をきったUSBメモリと共に袋に入れておく。
「私の携帯もすぐ電源落とせば大丈夫だったのかなぁ・・。」と肩を落とす翠。
「・・・いや、チカチカしてたっていうし・・たぶんダメだったんじゃないかな。それにUSBメモリは構造が簡単だから壊れにくいってだけで、それでもデータ飛ぶ時は飛ぶよ。」と慰める。
慰めついでに、眼帯の伊達男を見に行こうと誘う。
「準備するね!」とお弁当を作り始めた翠を眺めつつ、上司に月曜日の有休願いと、同僚にUSBメモリに入ってたハズの書類のデータを送ってもらうようメールを送る。
有給休暇も上限いっぱいまであって、それどころか代休まで残ってる状態だから、きっと上司もダメとは言うまい。
翠と一緒にやたらとレトロなバスに乗る。
「乗りたかったんですよね。このバス!可愛いですよね。」と笑う翠が可愛い。
騎馬に乗った伊達男を背に翠と2人で写真を撮り、水鳥を眺めながらベンチに座っておにぎりを頬張る。
幸せってこんなことを言うんだなぁ。
すっかり若葉になってしまった桜を見ながら、来年こそは翠と桜を見ようと思う。
アパートに帰って、お茶を飲みながらメールチェックしていると、上司と同僚からの承諾のメールを確認した。
「翠、月曜まで休みになった。けど、ちょっと用事もあるから月曜は一緒に支店行こうな。」と言うと、翠が「ほぇ?分かった。」と承諾した。
ちなみに泊りは翠のアパートだ。
最初のうちはホテルを予約していたが、翠に「勿体ない!」と言われてアパートに泊めてもらっている。
翠の顔を眺めながら寝るのは・・・なかなかの忍耐を必要とするが、それ以上に幸せを実感する。
翠と一緒にゲームするのも楽しい。
コミカルな動きをするキャラクターに「可愛いよね、この技大好きなんだよー。」と嬉しそうにする翠を見てるのが楽しい。
・・・折りをみて、俺の親に紹介しに連れて行かないといけないなぁ。
週明け、支店に翠と一緒に出社する。
同僚からのメールに添付していたデータをそのまま翠に転送する。
「翠。庶務から貰ったデータ、コレだから。これに入力してメールで送信してくれ。」とPCを返すと、支店長から「お~、小林君。ちょうどいい所に、一緒に取引先廻ろう。」と声をかけられる。
「営業部長に連絡取っておくから、あ、小林君の新幹線の予約お願いね。」と、翠に新幹線の指示を出した支店長と共に営業車で行くことになった。
このまま支店勤務になれないものかなぁ。
***********************************************************
上司「あいつが仙台行くようになってから営業範囲が広がったもんだ。・・・なぁ、お前、関西方面にカノジョ作らないか?」
同僚「・・・・・・え!?」
逆に支店からの物も翠経由で持って行く。
その代り、週末の飲み会の参加は一切しなくなったが元々ほとんど行かなかったから問題ない。
週末の飲み会どころか、土日も会社で仕事してたからな・・今まで付き合ってたカノジョには「私と仕事どっちが大事なの!?」とよく言われていたものだ。
自分から好きだからつき合ってと言ってきたくせに、仕事ばかりしてる俺が気に入らないとキレられて別れるのが常だった。
毎日毎日、朝から晩まで仕事仕事。
仕事してるか寝てるかしかしてない俺に変化が訪れたのが、仕事帰りに立ち寄ったコンビニ。
コンビニで働く翠を見て、初めての一目惚れ。
コンビニに通いつめたはいいが、どうしていいのか分からないと友人に相談したら「うだうだ言うな。男なら潔く告白しろ。」と友人達に背中を押されたのは、今となってはいい思い出だ。
OKを貰えて舞い上がったのはいいが、どのように接していいか分からず、週末に翠の部屋に遊びに行くというワンパターンな行動しか出来なかったのは反省した。
翠の顔見てるだけで幸せという、脳内に花が咲いてる状態で、更には翠の心を知りたいと欲を掻いて、あの女に相談したのはもっと反省したが。
庶務室の前を通りすがるとあの女が「小林さぁん、また飲み会行かないって本当ですかぁ?つまんなぃ~。次は絶対、来て下さいよねぇ?・・・・あ。コレ。総務の佐藤さんに渡してください。」と書類とUABメモリを入れた封筒を渡してきた。
「・・・分かりました。必ず渡します。」そう言って立ち去ると、背後から「絶対、約束ですからねぇ!」という声が追いかけてきたが聞こえないフリをした。
明け方の夜行バスの中で、渡された書類を確認しているとなんとない違和感を覚えた。
なにが気になるのか分からず、再度読み返すが内容に不備はない。
なんだろう。しかし、なにかが気になると思いつつ、書類を何回か捲るうちに鼻につく匂いに気が付いた。
・・・コーヒーの匂いがする。
書類にこぼしたのだろうかと思い、再度書類を確認するが染みは見つからず、封筒か?と思い、封筒を確認すると中に入っていたUSBメモリから匂いがすることに気が付いた。
外見にコーヒーの染みや汚れはない・・・まさかな、と思いながら手のひらにUSBメモリを振る。
手のひらについた茶色い水滴。
・・・・あの女。
翠のアパートについて、台所でUSBをすすいでいるとそれを見た翠が驚いて「だ、大丈夫ですか!?え、ソレって洗っちゃいけないものじゃないんです!?」と尋ねてきた。
「間違えてコーヒーこぼした。水で洗って乾かせば大丈夫だ。注意点は中に水分ついた状態でPCにささないことだな。通電させてしまうとデータが飛ぶ。」
へぇぇ、と感心している翠から密封できるポリ袋を貰う。
土産に買ってきたぴよこの箱を開けてシリカゲル乾燥剤を取り出し、しっかりと水をきったUSBメモリと共に袋に入れておく。
「私の携帯もすぐ電源落とせば大丈夫だったのかなぁ・・。」と肩を落とす翠。
「・・・いや、チカチカしてたっていうし・・たぶんダメだったんじゃないかな。それにUSBメモリは構造が簡単だから壊れにくいってだけで、それでもデータ飛ぶ時は飛ぶよ。」と慰める。
慰めついでに、眼帯の伊達男を見に行こうと誘う。
「準備するね!」とお弁当を作り始めた翠を眺めつつ、上司に月曜日の有休願いと、同僚にUSBメモリに入ってたハズの書類のデータを送ってもらうようメールを送る。
有給休暇も上限いっぱいまであって、それどころか代休まで残ってる状態だから、きっと上司もダメとは言うまい。
翠と一緒にやたらとレトロなバスに乗る。
「乗りたかったんですよね。このバス!可愛いですよね。」と笑う翠が可愛い。
騎馬に乗った伊達男を背に翠と2人で写真を撮り、水鳥を眺めながらベンチに座っておにぎりを頬張る。
幸せってこんなことを言うんだなぁ。
すっかり若葉になってしまった桜を見ながら、来年こそは翠と桜を見ようと思う。
アパートに帰って、お茶を飲みながらメールチェックしていると、上司と同僚からの承諾のメールを確認した。
「翠、月曜まで休みになった。けど、ちょっと用事もあるから月曜は一緒に支店行こうな。」と言うと、翠が「ほぇ?分かった。」と承諾した。
ちなみに泊りは翠のアパートだ。
最初のうちはホテルを予約していたが、翠に「勿体ない!」と言われてアパートに泊めてもらっている。
翠の顔を眺めながら寝るのは・・・なかなかの忍耐を必要とするが、それ以上に幸せを実感する。
翠と一緒にゲームするのも楽しい。
コミカルな動きをするキャラクターに「可愛いよね、この技大好きなんだよー。」と嬉しそうにする翠を見てるのが楽しい。
・・・折りをみて、俺の親に紹介しに連れて行かないといけないなぁ。
週明け、支店に翠と一緒に出社する。
同僚からのメールに添付していたデータをそのまま翠に転送する。
「翠。庶務から貰ったデータ、コレだから。これに入力してメールで送信してくれ。」とPCを返すと、支店長から「お~、小林君。ちょうどいい所に、一緒に取引先廻ろう。」と声をかけられる。
「営業部長に連絡取っておくから、あ、小林君の新幹線の予約お願いね。」と、翠に新幹線の指示を出した支店長と共に営業車で行くことになった。
このまま支店勤務になれないものかなぁ。
***********************************************************
上司「あいつが仙台行くようになってから営業範囲が広がったもんだ。・・・なぁ、お前、関西方面にカノジョ作らないか?」
同僚「・・・・・・え!?」
5月だけど炬燵は片付けない
アパートに着いて炬燵に入って暖をとる。
コーヒーを渡しながら、タブレットを見せて質問する。
「このメールを送ってきた人たちって会社の人?お友達になった方がいいのかな?」
メールにどんどん来るのだけど、見覚えのない名前だし、メールの内容も意味不明でどう返事していいのか分からなくて困っていたのだ。
「誰だ?」
眉をしかめて総一郎さんがタブレットの画面を確認する。
「・・・これは・・なりすましメールだな。」
なりすまし?と聞き返すと、「あぁ、出会い系サイトとかに誘導して金とろうとするメールだ。」と、総一郎さんはそれらのメールをポチポチ削除していく。
「キリがないな。翠、捨ててもいいフリーメール持ってないか?」
・・・名前呼び、な、慣れないな。
「えっと、携帯と、ソレと、会社のだけよ?」
「わかった。適当に作る。」そう言って鞄の中から小さなキーボードを取り出してポチポチ打ち出した。
大きな手にすっぽり埋まるようなキーボードをちまちま打ってる姿が、ちょっと可愛いと思う。
「あと、グチッターとブログやらないかって、会社のコに誘われてるんだけど楽しいのかな。」
「グチッターは勧めないかな。以前、同僚が飲み屋で写真つきでグチったら、元カノが飲み屋を特定してな。飲み屋の前でケンカを始められて困った。他の女性 の同僚もストーカーにつきまとわれて警察沙汰になったし。ブログは日記代わりにやってもいいが、パスワード制か、検索避けは入れてくれ。入れておかないと 写真なりデータなりが簡単にネットに流れるから、一度流れると回収できない。」
「なにそれ・・怖いね。でも、誰も私のことなんてわざわざ探さないだろうし、大丈夫でしょ。」
画面から顔をあげた総一郎さんは真剣な顔をして「なにを言う。俺は翠は可愛いと思うし、ストーカーがつきそうで怖い。それに、なにかあったらすぐに救けに来れる距離じゃないから用心に用心を重ねるべきだ。」と言う。
え~・・・。
怪訝そうな顔をしたのが分かったのだろう、総一郎さんが続けて「顔写真、名前、年齢、職業、住所、行動、友人、家族、その他諸々ネットには載せないように。」と約束させられた。
絶対だ、と指切りまでされた。
「あとこれ、翠の誕生日だろう?パスワード。それも替えておけ?すぐバレるぞ。あと自撮のアイコンもNGだ。」と、コーヒーの入ったマグカップをパシャリと撮る。
・・・えぇぇ?なんだかもぅ、面倒くさいなぁ。
返されたタブレットを手に禁止事項を確認してると、「翠、これとかどうだ?一緒に冒険できる。」とゲームを紹介してくれた。
キャラクターが可愛いのと操作が簡単なので承諾すると、一緒にアバターを決める。
髪の毛は白、目は紫が可愛いかな。なんとなくウサギっぽくて。
名前はどうしよう。
本棚を見渡してお気に入りの小説を眺める。
そうだなぁ、シエラにしよう。
総一郎さんは茶色い犬っぽい感じのアバターにしてた。
「ウチで昔飼ってた犬に似せてみた。」と、ニコリと笑う。
ふへへ。ゲームかぁ。楽しみだなぁ。
コーヒーを渡しながら、タブレットを見せて質問する。
「このメールを送ってきた人たちって会社の人?お友達になった方がいいのかな?」
メールにどんどん来るのだけど、見覚えのない名前だし、メールの内容も意味不明でどう返事していいのか分からなくて困っていたのだ。
「誰だ?」
眉をしかめて総一郎さんがタブレットの画面を確認する。
「・・・これは・・なりすましメールだな。」
なりすまし?と聞き返すと、「あぁ、出会い系サイトとかに誘導して金とろうとするメールだ。」と、総一郎さんはそれらのメールをポチポチ削除していく。
「キリがないな。翠、捨ててもいいフリーメール持ってないか?」
・・・名前呼び、な、慣れないな。
「えっと、携帯と、ソレと、会社のだけよ?」
「わかった。適当に作る。」そう言って鞄の中から小さなキーボードを取り出してポチポチ打ち出した。
大きな手にすっぽり埋まるようなキーボードをちまちま打ってる姿が、ちょっと可愛いと思う。
「あと、グチッターとブログやらないかって、会社のコに誘われてるんだけど楽しいのかな。」
「グチッターは勧めないかな。以前、同僚が飲み屋で写真つきでグチったら、元カノが飲み屋を特定してな。飲み屋の前でケンカを始められて困った。他の女性 の同僚もストーカーにつきまとわれて警察沙汰になったし。ブログは日記代わりにやってもいいが、パスワード制か、検索避けは入れてくれ。入れておかないと 写真なりデータなりが簡単にネットに流れるから、一度流れると回収できない。」
「なにそれ・・怖いね。でも、誰も私のことなんてわざわざ探さないだろうし、大丈夫でしょ。」
画面から顔をあげた総一郎さんは真剣な顔をして「なにを言う。俺は翠は可愛いと思うし、ストーカーがつきそうで怖い。それに、なにかあったらすぐに救けに来れる距離じゃないから用心に用心を重ねるべきだ。」と言う。
え~・・・。
怪訝そうな顔をしたのが分かったのだろう、総一郎さんが続けて「顔写真、名前、年齢、職業、住所、行動、友人、家族、その他諸々ネットには載せないように。」と約束させられた。
絶対だ、と指切りまでされた。
「あとこれ、翠の誕生日だろう?パスワード。それも替えておけ?すぐバレるぞ。あと自撮のアイコンもNGだ。」と、コーヒーの入ったマグカップをパシャリと撮る。
・・・えぇぇ?なんだかもぅ、面倒くさいなぁ。
返されたタブレットを手に禁止事項を確認してると、「翠、これとかどうだ?一緒に冒険できる。」とゲームを紹介してくれた。
キャラクターが可愛いのと操作が簡単なので承諾すると、一緒にアバターを決める。
髪の毛は白、目は紫が可愛いかな。なんとなくウサギっぽくて。
名前はどうしよう。
本棚を見渡してお気に入りの小説を眺める。
そうだなぁ、シエラにしよう。
総一郎さんは茶色い犬っぽい感じのアバターにしてた。
「ウチで昔飼ってた犬に似せてみた。」と、ニコリと笑う。
ふへへ。ゲームかぁ。楽しみだなぁ。
********************************************************
総一郎「ほれ、土産のずんだ餅。」
同僚「なに?ミドリちゃんとこ行ってきたの!?新幹線で?」
総一郎「あぁ、来週もそうするって言ったら翠がすごい怒ってな。今、安い夜行バス探してるとこ。」
同僚「うはぁ・・よぅやるわ。ところでミドリちゃんのRAIN、僕拒否られてんだけど。」
総一郎「当たり前だ。ブロックしてきたからな。」
同僚「心せまっ、せまいよっ、小林君。」
総一郎「ついでにあの女のもブロックしてきた。いつの間にか入ってたからな。」
同僚「なに?ミドリちゃんとこ行ってきたの!?新幹線で?」
総一郎「あぁ、来週もそうするって言ったら翠がすごい怒ってな。今、安い夜行バス探してるとこ。」
同僚「うはぁ・・よぅやるわ。ところでミドリちゃんのRAIN、僕拒否られてんだけど。」
総一郎「当たり前だ。ブロックしてきたからな。」
同僚「心せまっ、せまいよっ、小林君。」
総一郎「ついでにあの女のもブロックしてきた。いつの間にか入ってたからな。」
その男、バカ真面目
新幹線でやってきた総一郎さん。
「翠、会いたかった。」
そう言って駅構内で抱きしめてきた。
ちょっ、人っ、周りに人がいるからっっ、やーーめーーてーーっ。
あわてて引き離そうとしたけど、体格差がありすぎて微動だにしない・・・。
総一郎さん、背おっきいし、でかい。
でも骨格が綺麗だからスラっとしてる。
コンビニで買い物してる時から思ってたんだけど、どんな服着ても似合いそう。
いや、うん、スーツ姿しか見たことないんですけどね。
ほとんどのお客さんが無言の中、毎回「ありがとう」って言ってくれる総一郎さんの好感度はバツグンだった。
強面さんなのに「ありがとう」って言っちゃう!
そのギャップがいい。
・・・・すいません。現実逃避してました。
だって離してくれないんだもの。
「ん。満足。」
たっぷり5分ほど抱きしめられてたんじゃないかな・・ようやく離してくれた頃には私、口から魂出てた。
「どうして急に来たんです?なにか用事ですか?」疑問を口にのせる。
「翠のご両親に挨拶しに行こうと思って。」ニコリと総一郎さんが答えた。
「え。」
・・・私の両親は震災でいなくなってしまった。
大学進学の為に他県にいた私と、転勤でいなかった兄夫婦は無事だったけど、両親は飼い犬のポンタと黒猫のクロタと一緒に家ともろとも消えてしまった。
大学を休学してあちこち探しまくったけど、アルバムとかそういった物も見つけることもできなかった。
今、墓の中にあるのは震災の前に家族で写した家族写真を焼き増ししたもの。
たったそれだけが私の両親がいたという証拠になってしまった。
「翠を俺にくださいって、お願いしに来たんだ。」
にこにこと笑う総一郎さんを見てると・・・なんかもぅ、なんと言っていいのか分からなくなる。
・・・バカだなぁ、この人。バカがつくくらいに真面目だ。
「・・・ありがとう。きっと喜ぶ。」
泣き顔を見られたくなくて、ついつい下を見てしまう。
でも、車で行かないと行けない距離だよ?と言うとレンタカー借りようって。
えっと・・新幹線でウン万円レンタカー代で・・えっと・・・この人、いくら使う気!?
あわてて兄に電話して車を借りていいか尋ねる。
用事ないから別にいいよって返事だったので、兄のアパートまで一緒に行くことにした。
着いてから気が付いたんだけど、私、家族に恋人を紹介しなくちゃいけないんじゃない!?
え。ちょっと待って、いきなりハードル高い。
兄夫婦のアパートの前で固まってると、総一郎さんが「ここ?」とドアフォン押してしまった。
「はいはーい。翠ちゃん~?」と扉を開いたのは義姉さん。
総一郎さんはにこりと「こんにちは。はじめまして。翠さんとお付き合いさせていただいております。小林 総一郎と申します。」と挨拶をする。
ピシリと固まった義姉さんは、数秒後、「きゃぁぁ、葵君っ、葵君っ、翠ちゃんが彼氏連れてきたよっっ!」と部屋の中へ駆けて行った。
お兄ちゃんもビックリした顔で出てきて、立ち話もなんだしと中に入ることになった。
そこからは・・まぁ、総一郎さんの独壇場でして・・・。
この人って、営業でいい成績出してるっていうのは本当なんですね、と実感しました。
その間、私は現実逃避に凛ちゃんとお手てつないでをして遊んでました。
聞こえなーい。なーんも聞こえなーい。
なんか理解しちゃったら口から砂吐けそうなんだもの。なーんも聞こえなーい。
なんとか話が終わって車で墓へと向かう。
あ、運転は総一郎さんがやってくれました。
私はナビです。っていってもタブレット持ってただけだけど。
「すごいねぇ、いろんな機能があるんだねぇ」と感心してたら「好きなゲームでも入れたらいいよ。」と言われた。
「え、でも、備品でしょ?」と尋ねると「いや?俺が翠にあげたものだよ?」と言われて混乱する。
「こんな高いの貰えないよ!」と返そうとするが、「翠ごと貰うから問題ないよ。」言われてしまう。
ちょっ・・・なんなの・・・誰か助けて・・・父さん、母さん・・・私、私・・心臓がもたないよ。
ようやく墓に到着する。
途中で買ってきた花と線香を供えて、両親に手を合わせる。
お父さん、お母さん、私、この人と幸せになるからね。
だから、どうか安心して眠ってね。
「翠、会いたかった。」
そう言って駅構内で抱きしめてきた。
ちょっ、人っ、周りに人がいるからっっ、やーーめーーてーーっ。
あわてて引き離そうとしたけど、体格差がありすぎて微動だにしない・・・。
総一郎さん、背おっきいし、でかい。
でも骨格が綺麗だからスラっとしてる。
コンビニで買い物してる時から思ってたんだけど、どんな服着ても似合いそう。
いや、うん、スーツ姿しか見たことないんですけどね。
ほとんどのお客さんが無言の中、毎回「ありがとう」って言ってくれる総一郎さんの好感度はバツグンだった。
強面さんなのに「ありがとう」って言っちゃう!
そのギャップがいい。
・・・・すいません。現実逃避してました。
だって離してくれないんだもの。
「ん。満足。」
たっぷり5分ほど抱きしめられてたんじゃないかな・・ようやく離してくれた頃には私、口から魂出てた。
「どうして急に来たんです?なにか用事ですか?」疑問を口にのせる。
「翠のご両親に挨拶しに行こうと思って。」ニコリと総一郎さんが答えた。
「え。」
・・・私の両親は震災でいなくなってしまった。
大学進学の為に他県にいた私と、転勤でいなかった兄夫婦は無事だったけど、両親は飼い犬のポンタと黒猫のクロタと一緒に家ともろとも消えてしまった。
大学を休学してあちこち探しまくったけど、アルバムとかそういった物も見つけることもできなかった。
今、墓の中にあるのは震災の前に家族で写した家族写真を焼き増ししたもの。
たったそれだけが私の両親がいたという証拠になってしまった。
「翠を俺にくださいって、お願いしに来たんだ。」
にこにこと笑う総一郎さんを見てると・・・なんかもぅ、なんと言っていいのか分からなくなる。
・・・バカだなぁ、この人。バカがつくくらいに真面目だ。
「・・・ありがとう。きっと喜ぶ。」
泣き顔を見られたくなくて、ついつい下を見てしまう。
でも、車で行かないと行けない距離だよ?と言うとレンタカー借りようって。
えっと・・新幹線でウン万円レンタカー代で・・えっと・・・この人、いくら使う気!?
あわてて兄に電話して車を借りていいか尋ねる。
用事ないから別にいいよって返事だったので、兄のアパートまで一緒に行くことにした。
着いてから気が付いたんだけど、私、家族に恋人を紹介しなくちゃいけないんじゃない!?
え。ちょっと待って、いきなりハードル高い。
兄夫婦のアパートの前で固まってると、総一郎さんが「ここ?」とドアフォン押してしまった。
「はいはーい。翠ちゃん~?」と扉を開いたのは義姉さん。
総一郎さんはにこりと「こんにちは。はじめまして。翠さんとお付き合いさせていただいております。小林 総一郎と申します。」と挨拶をする。
ピシリと固まった義姉さんは、数秒後、「きゃぁぁ、葵君っ、葵君っ、翠ちゃんが彼氏連れてきたよっっ!」と部屋の中へ駆けて行った。
お兄ちゃんもビックリした顔で出てきて、立ち話もなんだしと中に入ることになった。
そこからは・・まぁ、総一郎さんの独壇場でして・・・。
この人って、営業でいい成績出してるっていうのは本当なんですね、と実感しました。
その間、私は現実逃避に凛ちゃんとお手てつないでをして遊んでました。
聞こえなーい。なーんも聞こえなーい。
なんか理解しちゃったら口から砂吐けそうなんだもの。なーんも聞こえなーい。
なんとか話が終わって車で墓へと向かう。
あ、運転は総一郎さんがやってくれました。
私はナビです。っていってもタブレット持ってただけだけど。
「すごいねぇ、いろんな機能があるんだねぇ」と感心してたら「好きなゲームでも入れたらいいよ。」と言われた。
「え、でも、備品でしょ?」と尋ねると「いや?俺が翠にあげたものだよ?」と言われて混乱する。
「こんな高いの貰えないよ!」と返そうとするが、「翠ごと貰うから問題ないよ。」言われてしまう。
ちょっ・・・なんなの・・・誰か助けて・・・父さん、母さん・・・私、私・・心臓がもたないよ。
ようやく墓に到着する。
途中で買ってきた花と線香を供えて、両親に手を合わせる。
お父さん、お母さん、私、この人と幸せになるからね。
だから、どうか安心して眠ってね。
プロフィール
HN:
塩飴
性別:
非公開
自己紹介:
日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
小説とイラストを置いております。
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