信じられない・・なんていうことだ。
あのシエラ嬢が犯人だったなんて・・・。
呆然とした後、猛烈に怒りが沸いてきた。
シエラ・ラドシール嬢は幼い頃に決められた婚約者だ。
銀の髪に紫の瞳、ラドシール公爵家の特徴が引き継がれた姿の令嬢だった。
いつも穏やかに微笑んでいる。
それがシエラ・ラドシールの印象だ。
今は亡き母と共に、初めて庭園で会った時も穏やかに微笑んでいた。
当時、やんちゃ盛りだった俺は出会ったばかりのシエラ嬢に虫を見せたり、暴言を吐いたりして、それはそれはひどいものだった。
それなのにシエラ嬢は、困ったような微笑を受けべるだけで何も言わなかった。
興味を失った俺は他の公爵家の嫡男達と遊んで、それっきりシエラ嬢とは、公の場でしか会わなくなった。
学園生活でもそうだった。
廊下ですれ違う時、挨拶する程度。
本当に婚約者か?と疑問に思うほどシエラ嬢はそっけなかった。
かといって俺の方から会いに行くのは、違うと思い行かなかった。
俺はこの国の皇太子なんだぞ?
なぜ俺の方から会いに行かなければならない?
その頃だった。アメリア・シーリスと出会ったのは。
桃色の髪、若葉色の大きな瞳。
この俺が皇太子だと知らなかったのか、初対面で頬を打たれた。
・・・衝撃だった。
近衛が不敬罪で捕えようとしたのを止め、笑いながらその場を去った。
その後、アメリアは俺を見るたびに近寄ってきては、楽しげに話をしてきた。
アメリアを好きになるのはあっと言う間だった。
見れば、公爵家の友人達もアメリアを気にいったようで、気が付けばアメリアを中心に学園生活を過ごしていた。
しばらくして、いつも元気で明るいアメリアの顔が曇りだした。
無理やり聞き出してみれば、嫌がらせをされているのだと言う。
靴や本、筆記用具と、持ち物を捨てられ、花壇の手入れをすれば上階から水をかけられ、弁当には虫など混入され、人の滅多に来ない物置に閉じ込められたりと散々な様子だった。
そんな時だったアメリアが倒れたのは。
アメリアの食事に毒が盛られたという。
・・・・俺の母は毒で殺された。
シアルモア毒。
無味無臭。
飲めば激しい嘔吐の末、意識混濁し死に至る毒だ。
毒はお茶会の飲み物に混入されていた。
一緒にいた何人かの客も犠牲になった。
アメリアの症状もそれに酷似していた。
ただ幸いなことに、すぐに気が付いたメイドによって胃を洗浄され事なきを得た。
・・・心臓が止まるかと思った。
母のように失いたくはない・・・
アメリアへの思いに気が付いたのはその時だった。
俺と友人達がアメリアを守りだして、アメリアの身の回りは平和になったかのように見えた。
そんな折、またアメリアの机が荒らされた。
ぐちゃぐちゃになった机は散々なもので、アメリアは泣きじゃくっていた。
しかも今回は犯人を見たと言う。
・・・・・・その犯人というのは俺の婚約者であるシエラ・ラドシールだった。
自分の犯行がバレたシエラはみるみる顔色を失くしていった。
アメリアは他にもシエラが落としたという薬瓶なども出してきた。
俺はそれを近衛に渡し、鑑定をするよう指示した。
婚約者だろうがなんだろうが、許したりはしない。
シエラは今にも倒れそうなほど真っ青な顔をして見つめていた。
更に追及をしようとした時、シエラは護衛に抱きかかえられて逃げて行った。
・・・俺の愛するアメリアを殺そうとするヤツには報復しないといけない。
なぁ、そう思うだろう?