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彼女の引っ越しやその他の事情
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私の代りに泣いてよって言ったけどさ・・・ぽつぽつと降り始めた雨はすぐに豪雨になって、アパートに帰り着く頃には、ぐっしょりの濡れ鼠になった。
これがゲリラ豪雨ってやつか・・・都会って怖い。
肌に張り付いて脱ぎにくい服をどうにか剥いで、シャワーを浴びてると悲しくなって泣いた。
気が済むまでわんわん泣いたらなんかスッキリした。
長く風呂に浸かってたせいで指はしわしわ、目も腫れぼったいけど。
冷蔵庫から牛乳をラッパ飲みして一息つく。
「よっし、引っ越し頑張るぞ!」
押入れの奥にたたんであった段ボールを組みたてる。
大学入学の時に引っ越してきた時のだから、うっすらホコリがついてる段ボールだけど使えるからいいんだ。
服に、本に、食器道具、食品・・は限りなく減らしてたから大丈夫。
TVは引っ越し屋業者が梱包材持ってくるって言ってたからいいとして、冷蔵庫と洗濯機は備え付けのものだから問題ない。
布団は朝、圧縮袋に入れるとして・・ついでにカーテンも入れて圧縮しよう。
粗方の物を段ボールに入れるとあまりにもガランとした部屋に呆然となる。
大学の思い出の品ってものもほとんどないし、元々物欲もすくないから物もあまりない。
写真も・・・あまり好きじゃなくて撮ってない。
・・・一枚くらい思い出に撮っておくべきだったな・・・・。
彼の顔を思い出して涙腺が緩みそうになる。
だけど携帯は鳴らないし・・・お別れって一瞬なんだな、と思ってしまうと涙がこぼれた。
引っ越し先のアパートに着いたのが日曜の昼前。
手伝いをお願いしてた兄と義姉も到着してして、ほうきとかかけてくれてた。
3歳になる姪の凛ちゃんも来てて、おもちゃのピアノで楽しそうに遊んでるのを見ると和む。
あぁ、可愛いっ。可愛いな。
ぷくぷくのほっぺも、輪ゴムのついたような手足も可愛い。
拭き掃除とかしてると引っ越し業者さんが到着して、凛ちゃんを安全地帯に隔離しての作業(台所の隅に段ボールで区切ってのだけど)。
皆で荷物を運んで配置どうしようかと話ししてると、突然凛ちゃんがキャーキャー大きな声あげた。
何事!?と慌てて駆け寄ると凛ちゃんが私の携帯をジュースの中に入れて洗ってた。
画面とかボタンがチッカチッカいろんな色に点灯してて、それが凛ちゃんすごい楽しかったみたい・・・・私のっ、私の携帯ぃぃーーーっ。
周りを見たら義姉さんと私のバックの中身が散乱してた。
「きゃぁぁっ、凛っ、手ぇ、手ぇ離してぇ。お願いっ。」
義姉さんが慌てて取り上げようとするが、凛ちゃんが離してくれなくて、メッって言って取り上げたら、ギャーーッと泣き出してしまった。
「ごめんねぇっ、ごめんねぇっ、あぁ、どうしよう。これって直るのかしらっ。」おろおろしながら泣きわめく凛ちゃんを慰める義姉さん。
兄がべたべたになった携帯を水洗いするがチカチカが止まらない。
「・・・・これ、データ死んだかもしれん。バックアップとか取ってるか?」
・・・お兄ちゃん、バックアップってどうやるの・・・。
結局、私の携帯は死亡しました。
兄と義姉が謝ってきて、お金出すから新しい携帯買おうって事になったんだけど、元の番号継続させると結構高かった・・・新しい番号だと0円です~(ニコリ)と言う販売員さんの言葉に新しい番号にすることに決める。
彼との接点、なんも無くなっちゃった。
縁がなかったんだなぁ・・・。
そう思って心機一転、頑張ろうって決めた。
5月。
本社に新人研修に行くと彼がいました。
ビックリして顔を見つめてると、ふらふらと近寄ってきて・・こ、告白?された。
あまりのことに声も出せずにいると、いつの間にか挨拶が終わっていて、連れて行かれた総務(研修先)で質問責めにあいました(涙)
なんなの?あのミドリちゃんって・・・なんで皆、私の名前知ってるの?
ようやくお昼になったと思ったら、個室に連れていかれて弁当を2つ渡される。
そしたら彼が同僚に背中押されて部屋に入ってきた。
彼を見てると、ムカっとか、イラっとか、頬とかこけちゃってるけどカッコイイとか、なんでこの会社にいるのよ、とかいろいろと感情が沸いてきて、ついついキツメに質問をしてしまう。
そ、そしたら・・・「結婚しよう。翠。」って・・・・。
翠って、翠って呼んだ!
ごめん、その後、感情がぐるぐるしてて、なに口走ったかあまり覚えてない。
新人歓迎会で隣の席に座らされて、総一郎さんの事たくさん教えてもらった。
・・・・・本当、バカなんじゃないかな。
なんなんだろう・・・ご飯食べないって・・・そんなに・・そんなにわた、私のこと好きでいてくれたの?
あのメールのことも教えてもらったけど、本当バカだと思う。
総一郎さんも。私も。
勇気を出して新しいアドレス渡した。
なんかすごい勢いで赤外線交信してアドレス登録された。
新しいアパートとか実家の住所とか、家族構成まで尋問のように聞かれてんだけど・・つき合うってこういうことなのかな?
ようやく宿泊所に戻ると泥のように眠った。
なんか1日、すごい日だった。
研修まだまだあるのに・・私、体保つかなぁ。
翌日の昼。
総一郎さんの成長記録?を聞かされたんだけど、えーっと、つき合うってこういうことなのかな?
いままで見たことないくらいよく喋る総一郎さんの声を個人的情報満載な資料を手にボンヤリ聞くしかなくて、後で総務の先輩に聞こうと思う。
希望と要望があればこれに記入してくれって、紙渡されたんだけど、なに書けばいいんだろう。
研修終了日に総一郎さんにタブレットを渡される。
本当は指輪を先にあげたかったらしいのだが、隣にいた同僚に止められたらしい。
「サイズも好みも分からないのに買うな。一緒にいって選んで買え!」とのことです。
グッジョブですっ!同僚さん。
えっ、ていうか買うこと決定なの?
私、聞いてないんですけど、っていうか、このタブレットも一体なんなの?
そう思ってタブレットをしげしげ見ていると使い方の説明をされる。
無料で顔見ながら電話ができる・・・ふむふむ。
これがSNS?
チャット?
よく分からないけど出来るらしい。・・・ふむ。
あ、メールアドレスは好きに決めればいいの?
え~っと、え~っと・・・【rinchan.love@docoda.ne.jp】これでよし、と。
グフッ、とか、ゴフッとか吹き出す声が聞こえて顔をあげると、ものすごい顔した総一郎さんがいた。
「リンちゃんって誰だ。」
「えっ、姪っこよ?3歳でかわいいのよ。そりゃもぅ天使なんだから!!」
凛ちゃんの可愛さを力説していると、隣の同僚さんに「そ。それも可愛いけど、そのアドレス後で俺らも交換したいから、で、できればもっとおとなしめなのにしない?」と提案された。
私の名前でいいのかな・・・。
登録すると、「んじゃ、これ俺の~。」とか、「これ私のアドレスね~。」と次々に登録された。
・・・このタブレット支給品・・・なのかな?
新人研修が終わった次の週末、総一郎さんからチャット?が飛んできた。
「今、新宿駅」
「上野通過」
「大宮通過」
「小山通過」
・
・
・
「仙台着」
・・・・お、お前はメリーさんかっっ。
怖くて思わず迎えに来ちゃったけどさっ、なんで来ちゃうの?
約束してないよね?
え・・・これから毎週来る・・・?
え・・・・・っ!?
え!?
*************************************************************
総務のベテラン女史「ねぇ、あのタブレット、変なアプリとか入れてないよね?」
同僚「GPSとか?メール転送アプリとか?盗撮アプリとか?それは絶対入れないよう見張ってたから大丈夫。」
総務のベテラン女史「それなら安心だけど。いつの間にか入れてそうで怖いわ。佐藤さん機械に弱そうだし。入れられても気づかないわよ。」
同僚「・・・・今後、変な行動しないか注意観察しておきます。
これがゲリラ豪雨ってやつか・・・都会って怖い。
肌に張り付いて脱ぎにくい服をどうにか剥いで、シャワーを浴びてると悲しくなって泣いた。
気が済むまでわんわん泣いたらなんかスッキリした。
長く風呂に浸かってたせいで指はしわしわ、目も腫れぼったいけど。
冷蔵庫から牛乳をラッパ飲みして一息つく。
「よっし、引っ越し頑張るぞ!」
押入れの奥にたたんであった段ボールを組みたてる。
大学入学の時に引っ越してきた時のだから、うっすらホコリがついてる段ボールだけど使えるからいいんだ。
服に、本に、食器道具、食品・・は限りなく減らしてたから大丈夫。
TVは引っ越し屋業者が梱包材持ってくるって言ってたからいいとして、冷蔵庫と洗濯機は備え付けのものだから問題ない。
布団は朝、圧縮袋に入れるとして・・ついでにカーテンも入れて圧縮しよう。
粗方の物を段ボールに入れるとあまりにもガランとした部屋に呆然となる。
大学の思い出の品ってものもほとんどないし、元々物欲もすくないから物もあまりない。
写真も・・・あまり好きじゃなくて撮ってない。
・・・一枚くらい思い出に撮っておくべきだったな・・・・。
彼の顔を思い出して涙腺が緩みそうになる。
だけど携帯は鳴らないし・・・お別れって一瞬なんだな、と思ってしまうと涙がこぼれた。
引っ越し先のアパートに着いたのが日曜の昼前。
手伝いをお願いしてた兄と義姉も到着してして、ほうきとかかけてくれてた。
3歳になる姪の凛ちゃんも来てて、おもちゃのピアノで楽しそうに遊んでるのを見ると和む。
あぁ、可愛いっ。可愛いな。
ぷくぷくのほっぺも、輪ゴムのついたような手足も可愛い。
拭き掃除とかしてると引っ越し業者さんが到着して、凛ちゃんを安全地帯に隔離しての作業(台所の隅に段ボールで区切ってのだけど)。
皆で荷物を運んで配置どうしようかと話ししてると、突然凛ちゃんがキャーキャー大きな声あげた。
何事!?と慌てて駆け寄ると凛ちゃんが私の携帯をジュースの中に入れて洗ってた。
画面とかボタンがチッカチッカいろんな色に点灯してて、それが凛ちゃんすごい楽しかったみたい・・・・私のっ、私の携帯ぃぃーーーっ。
周りを見たら義姉さんと私のバックの中身が散乱してた。
「きゃぁぁっ、凛っ、手ぇ、手ぇ離してぇ。お願いっ。」
義姉さんが慌てて取り上げようとするが、凛ちゃんが離してくれなくて、メッって言って取り上げたら、ギャーーッと泣き出してしまった。
「ごめんねぇっ、ごめんねぇっ、あぁ、どうしよう。これって直るのかしらっ。」おろおろしながら泣きわめく凛ちゃんを慰める義姉さん。
兄がべたべたになった携帯を水洗いするがチカチカが止まらない。
「・・・・これ、データ死んだかもしれん。バックアップとか取ってるか?」
・・・お兄ちゃん、バックアップってどうやるの・・・。
結局、私の携帯は死亡しました。
兄と義姉が謝ってきて、お金出すから新しい携帯買おうって事になったんだけど、元の番号継続させると結構高かった・・・新しい番号だと0円です~(ニコリ)と言う販売員さんの言葉に新しい番号にすることに決める。
彼との接点、なんも無くなっちゃった。
縁がなかったんだなぁ・・・。
そう思って心機一転、頑張ろうって決めた。
5月。
本社に新人研修に行くと彼がいました。
ビックリして顔を見つめてると、ふらふらと近寄ってきて・・こ、告白?された。
あまりのことに声も出せずにいると、いつの間にか挨拶が終わっていて、連れて行かれた総務(研修先)で質問責めにあいました(涙)
なんなの?あのミドリちゃんって・・・なんで皆、私の名前知ってるの?
ようやくお昼になったと思ったら、個室に連れていかれて弁当を2つ渡される。
そしたら彼が同僚に背中押されて部屋に入ってきた。
彼を見てると、ムカっとか、イラっとか、頬とかこけちゃってるけどカッコイイとか、なんでこの会社にいるのよ、とかいろいろと感情が沸いてきて、ついついキツメに質問をしてしまう。
そ、そしたら・・・「結婚しよう。翠。」って・・・・。
翠って、翠って呼んだ!
ごめん、その後、感情がぐるぐるしてて、なに口走ったかあまり覚えてない。
新人歓迎会で隣の席に座らされて、総一郎さんの事たくさん教えてもらった。
・・・・・本当、バカなんじゃないかな。
なんなんだろう・・・ご飯食べないって・・・そんなに・・そんなにわた、私のこと好きでいてくれたの?
あのメールのことも教えてもらったけど、本当バカだと思う。
総一郎さんも。私も。
勇気を出して新しいアドレス渡した。
なんかすごい勢いで赤外線交信してアドレス登録された。
新しいアパートとか実家の住所とか、家族構成まで尋問のように聞かれてんだけど・・つき合うってこういうことなのかな?
ようやく宿泊所に戻ると泥のように眠った。
なんか1日、すごい日だった。
研修まだまだあるのに・・私、体保つかなぁ。
翌日の昼。
総一郎さんの成長記録?を聞かされたんだけど、えーっと、つき合うってこういうことなのかな?
いままで見たことないくらいよく喋る総一郎さんの声を個人的情報満載な資料を手にボンヤリ聞くしかなくて、後で総務の先輩に聞こうと思う。
希望と要望があればこれに記入してくれって、紙渡されたんだけど、なに書けばいいんだろう。
研修終了日に総一郎さんにタブレットを渡される。
本当は指輪を先にあげたかったらしいのだが、隣にいた同僚に止められたらしい。
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グッジョブですっ!同僚さん。
えっ、ていうか買うこと決定なの?
私、聞いてないんですけど、っていうか、このタブレットも一体なんなの?
そう思ってタブレットをしげしげ見ていると使い方の説明をされる。
無料で顔見ながら電話ができる・・・ふむふむ。
これがSNS?
チャット?
よく分からないけど出来るらしい。・・・ふむ。
あ、メールアドレスは好きに決めればいいの?
え~っと、え~っと・・・【rinchan.love@docoda.ne.jp】これでよし、と。
グフッ、とか、ゴフッとか吹き出す声が聞こえて顔をあげると、ものすごい顔した総一郎さんがいた。
「リンちゃんって誰だ。」
「えっ、姪っこよ?3歳でかわいいのよ。そりゃもぅ天使なんだから!!」
凛ちゃんの可愛さを力説していると、隣の同僚さんに「そ。それも可愛いけど、そのアドレス後で俺らも交換したいから、で、できればもっとおとなしめなのにしない?」と提案された。
私の名前でいいのかな・・・。
登録すると、「んじゃ、これ俺の~。」とか、「これ私のアドレスね~。」と次々に登録された。
・・・このタブレット支給品・・・なのかな?
新人研修が終わった次の週末、総一郎さんからチャット?が飛んできた。
「今、新宿駅」
「上野通過」
「大宮通過」
「小山通過」
・
・
・
「仙台着」
・・・・お、お前はメリーさんかっっ。
怖くて思わず迎えに来ちゃったけどさっ、なんで来ちゃうの?
約束してないよね?
え・・・これから毎週来る・・・?
え・・・・・っ!?
え!?
*************************************************************
総務のベテラン女史「ねぇ、あのタブレット、変なアプリとか入れてないよね?」
同僚「GPSとか?メール転送アプリとか?盗撮アプリとか?それは絶対入れないよう見張ってたから大丈夫。」
総務のベテラン女史「それなら安心だけど。いつの間にか入れてそうで怖いわ。佐藤さん機械に弱そうだし。入れられても気づかないわよ。」
同僚「・・・・今後、変な行動しないか注意観察しておきます。
後悔しない為に
5月。
だらだらと身支度を整えて仕事へと出かける。
ぐぅ、と腹の虫が鳴るが、なにも食べる気がしないのでそのままだ。
あぁ、なんか楽しいことないかな。
満員電車の窓から見えた空が青い。
どうしよう。
これって現実?
夢とかじゃないよね!?
願望が上限突破して幻も見るようになっちゃった?俺。
何度瞬きしても、腕をつねったりしても目の前にいるあいつの姿は消えなくて、嬉しさと衝撃と混乱で脳味噌パーンってなって、あいつを見つめることしかできなかった。
9名の新人研修の中にあいつがいた。
「東北支店から来ました。佐藤 翠です。
一週間ご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします。」
綺麗にお辞儀をしたあいつと目が合う。
驚きに見開かれた目を見つめながら、あ、やっぱ俺、まだ寝てるんだな、と思った。
こんなラッキーなの現実な訳がない。
夢・・・夢ならいいかな。
ふらふらと自分の席から立ち上がり、あいつの前に立つ。
「小林 総一郎。営業一部所属。26歳。
貴女のことが大好きです。結婚を前提につきあって下さい。」
手を差し出したところで、後ろからスパーンッ!と頭を叩かれた。
「新人を口説くな!口説くなら仕事が終わってからにしろ。」
上司に叩かれた衝撃で、周りの音が聞こえるようになった。
え?現実?
え?夢じゃないの!?
気がつけば目の前にいたあいつはいなくなってて、代わりに見慣れたノートPCの画面があった。
無意識に仕事してた様子。
あれ?俺、白昼夢見てた?
・・・・俺、疲れてんのかな。
ぼんやりしながら機械的に文字を入力していると、12時になったらしく隣の同僚に飯だとせかされて、慌てて保存のキーを押す。
「ほれ。弁当奢ってやるから、愛しのミドリちゃんと話してこい。」
と、押されて入ったのはミーティングや商談に使う小さな個室。
個室の中には顔を真っ赤にしたあいつがいて、「お久しぶりです。」とか、「あんな大勢の前で告白とかバカですか。」とか、「あれから散々、みなさんに質問されて大変だったんですからね。」とか言ってプリプリ怒ってた。
可愛い。
幸せを噛みしめながらあいつの顔を見てると、あいつが心配そうに「こんなに痩せちゃって・・どうしちゃったんですか。」と、手を伸ばしてきたので、その手を握りしめて「結婚してくれ。翠。」と言ってしまった。
顔を真っ赤にして固まった翠。
ようやく硬直から治った翠は「なんなんですかっ、本当、なんなんですかっ、だいたいですねっ、貴方があんなメールなんて送るからいけないんですよ。もぅ2 度と会えることないとか思ってたのにこんな所で再会とか、衝撃的すぎてどうしていいのかわかんないのに、いきなり、こっ、告白とか、プ、プロポーズと かっっ。もうっ、私、訳分かんないですよっ、本当、なんなんですか貴方はっ、どうでもいいからご飯食べなさいよ、こんなに頬とかこけてるなんて信じられな いですよっ、バカーーっ。」
ゼィゼィと、肩で息をしながら涙目で見上げてきた翠。
可愛い。
翠にせかされて食べた弁当は・・・久々に味がした。
神様はいたんだ、と感謝をしながら午後の仕事を終え、翠を捕まえに行こうとする前に同僚達に捕まった。
「新人達の歓迎会すっぞ!安心しろ!!お前の愛しのミドリちゃんはちゃんとお前の隣の席にするからっ。」
そう言われて連れて行かれた先で俺は地獄を見た。
「こいつ、ミドリちゃんにひと目惚れして半年もコンビニ通ってたんだ。一歩間違ったらストーカーだよな。」
「ようやく告白してつき合ったから、紹介して貰おうと思ったら減るからダメ。見るなって言って、全然紹介してくれないんでやんの。」
「そしたら突然いなくなったとか言って、もぅこの世の終わりみたいな顔して会社来やがるし、俺らがどんだけ気をつかったことか!」
「ほっとんど飯も食わなくなったし、いやぁ、ミドリちゃん、頼むからこいつのこと見捨てないでやって?これでも出世株でウチの会社の超お得商品だよ。」
肩をバシバシ叩かれながらバラされた。
ついでとばかりに春の花見の席で号泣したこともバラされた・・・死にたい。
あれは・・・あれはあまり思い出したくない。
ハラハラと舞い散る桜を眺めながら、翠と一緒に見たかったなとか、春になったら弁当持って公園デートとかしたかったな、とか思ってたんだよね、感傷にふ けってるところに、あの女(くそっ、思い出すだけでも腹のたつ。こいつがあんなアドバイスなんてしやがるから翠がいなくなったのに)が「総一郎くぅ~ん。 飲んでるぅ~?日本酒おいしいよぉ?一緒にぃ、のもぉ?」と嫌に間延びしたしゃべり方で、酒を片手に隣に座ろうとするのだから、思わず「あんたのアドバイ スのせいで翠がいなくなった。あんたの顔も見たくない。」と口走ってしまった。
そしたら「ひっどぉぉ~いっ。なにそれ?ひどくないっ?超傷ついたんですけどぉ?せっかぁく、この私が可哀そうな総一郎君を慰めてあげよぅと思って声かけたのにぃ、マジひどくなぃ?」と大声で言いやがった。
まぁまぁ二人とも落ち着いて、と周囲の人に事情を聞かれている内に現実に打ちのめされて号泣しただけだ・・・。
・・・俺も酔ってたんだ・・・。
2人の子持ちでベテラン総務の主任女史に「バカねぇ、なんでこんな人にアドバイスなんて求めるのよ。短いスパンで別れるのって、恋多い訳じゃなくて長く続かないって証拠じゃないの。」という言葉にも追い打ちをかけられた。
あぁぁ・・あの花見は最悪だった。
次の日、会社の皆が優しくなってた。
あれからいろんな人に飴とか貰うようになった・・・穴があったら埋まりたい。
なにもかもバラされて打ちひしがれてる俺の横で、翠が顔を真っ赤にしながら同僚の話を聞いてた。
どうしよう、可愛い。
歓迎会早く終わらないかな。
長かった送迎会が終わって金の計算してると、翠につんつん、とつつかれた。
やばい、なんだこれ、くっそ可愛いなっ!と内心もだえてると小さくたたまれた紙を渡される。
「前の携帯・・・引っ越しの時に姪っこにジュースで洗われたの・・・。これ・・あの・・新しいアドレスだから。その・・ごめんね。連絡取れなくなって。」
うつむいてて顔が見れなかったけど、耳まで真っ赤になってる翠。
アドレスっっ。
慌てて自分の携帯を取り出して赤外線通信をする。
いやまて・・アドレスだけじゃ足りない。
実家とかアパートとか全部聞いとかなくちゃ。
思いつく限りを質問して手帳に書き込んでいくと、隣にいた同僚に頭をしばかれる。
「どうどうどう。落ち着けっ。ミドリちゃん研修でまだいるからっ。」
あぁぁ・・・研修一週間なんだよな。
なんとかして指導員になれたりしないのかな・・・。
その後、同僚に引きずられるようにして家路についた。
翠と話したかったのにっ、と抗議したら「性犯罪を阻止しただけだ。」と言われた。
・・・まぁ・・うん、止めてくれて助かった・・確かにちょっと理性吹っ飛んでた。
翌日の昼休み。
翠に俺の履歴書というか、釣書というか・・・そういったものを書類にして渡した。
翠のことを知りたい。
俺の事も知ってほしい。
そう考えての行動だ。
もぅ2度と同じヘマはしない。
だらだらと身支度を整えて仕事へと出かける。
ぐぅ、と腹の虫が鳴るが、なにも食べる気がしないのでそのままだ。
あぁ、なんか楽しいことないかな。
満員電車の窓から見えた空が青い。
どうしよう。
これって現実?
夢とかじゃないよね!?
願望が上限突破して幻も見るようになっちゃった?俺。
何度瞬きしても、腕をつねったりしても目の前にいるあいつの姿は消えなくて、嬉しさと衝撃と混乱で脳味噌パーンってなって、あいつを見つめることしかできなかった。
9名の新人研修の中にあいつがいた。
「東北支店から来ました。佐藤 翠です。
一週間ご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします。」
綺麗にお辞儀をしたあいつと目が合う。
驚きに見開かれた目を見つめながら、あ、やっぱ俺、まだ寝てるんだな、と思った。
こんなラッキーなの現実な訳がない。
夢・・・夢ならいいかな。
ふらふらと自分の席から立ち上がり、あいつの前に立つ。
「小林 総一郎。営業一部所属。26歳。
貴女のことが大好きです。結婚を前提につきあって下さい。」
手を差し出したところで、後ろからスパーンッ!と頭を叩かれた。
「新人を口説くな!口説くなら仕事が終わってからにしろ。」
上司に叩かれた衝撃で、周りの音が聞こえるようになった。
え?現実?
え?夢じゃないの!?
気がつけば目の前にいたあいつはいなくなってて、代わりに見慣れたノートPCの画面があった。
無意識に仕事してた様子。
あれ?俺、白昼夢見てた?
・・・・俺、疲れてんのかな。
ぼんやりしながら機械的に文字を入力していると、12時になったらしく隣の同僚に飯だとせかされて、慌てて保存のキーを押す。
「ほれ。弁当奢ってやるから、愛しのミドリちゃんと話してこい。」
と、押されて入ったのはミーティングや商談に使う小さな個室。
個室の中には顔を真っ赤にしたあいつがいて、「お久しぶりです。」とか、「あんな大勢の前で告白とかバカですか。」とか、「あれから散々、みなさんに質問されて大変だったんですからね。」とか言ってプリプリ怒ってた。
可愛い。
幸せを噛みしめながらあいつの顔を見てると、あいつが心配そうに「こんなに痩せちゃって・・どうしちゃったんですか。」と、手を伸ばしてきたので、その手を握りしめて「結婚してくれ。翠。」と言ってしまった。
顔を真っ赤にして固まった翠。
ようやく硬直から治った翠は「なんなんですかっ、本当、なんなんですかっ、だいたいですねっ、貴方があんなメールなんて送るからいけないんですよ。もぅ2 度と会えることないとか思ってたのにこんな所で再会とか、衝撃的すぎてどうしていいのかわかんないのに、いきなり、こっ、告白とか、プ、プロポーズと かっっ。もうっ、私、訳分かんないですよっ、本当、なんなんですか貴方はっ、どうでもいいからご飯食べなさいよ、こんなに頬とかこけてるなんて信じられな いですよっ、バカーーっ。」
ゼィゼィと、肩で息をしながら涙目で見上げてきた翠。
可愛い。
翠にせかされて食べた弁当は・・・久々に味がした。
神様はいたんだ、と感謝をしながら午後の仕事を終え、翠を捕まえに行こうとする前に同僚達に捕まった。
「新人達の歓迎会すっぞ!安心しろ!!お前の愛しのミドリちゃんはちゃんとお前の隣の席にするからっ。」
そう言われて連れて行かれた先で俺は地獄を見た。
「こいつ、ミドリちゃんにひと目惚れして半年もコンビニ通ってたんだ。一歩間違ったらストーカーだよな。」
「ようやく告白してつき合ったから、紹介して貰おうと思ったら減るからダメ。見るなって言って、全然紹介してくれないんでやんの。」
「そしたら突然いなくなったとか言って、もぅこの世の終わりみたいな顔して会社来やがるし、俺らがどんだけ気をつかったことか!」
「ほっとんど飯も食わなくなったし、いやぁ、ミドリちゃん、頼むからこいつのこと見捨てないでやって?これでも出世株でウチの会社の超お得商品だよ。」
肩をバシバシ叩かれながらバラされた。
ついでとばかりに春の花見の席で号泣したこともバラされた・・・死にたい。
あれは・・・あれはあまり思い出したくない。
ハラハラと舞い散る桜を眺めながら、翠と一緒に見たかったなとか、春になったら弁当持って公園デートとかしたかったな、とか思ってたんだよね、感傷にふ けってるところに、あの女(くそっ、思い出すだけでも腹のたつ。こいつがあんなアドバイスなんてしやがるから翠がいなくなったのに)が「総一郎くぅ~ん。 飲んでるぅ~?日本酒おいしいよぉ?一緒にぃ、のもぉ?」と嫌に間延びしたしゃべり方で、酒を片手に隣に座ろうとするのだから、思わず「あんたのアドバイ スのせいで翠がいなくなった。あんたの顔も見たくない。」と口走ってしまった。
そしたら「ひっどぉぉ~いっ。なにそれ?ひどくないっ?超傷ついたんですけどぉ?せっかぁく、この私が可哀そうな総一郎君を慰めてあげよぅと思って声かけたのにぃ、マジひどくなぃ?」と大声で言いやがった。
まぁまぁ二人とも落ち着いて、と周囲の人に事情を聞かれている内に現実に打ちのめされて号泣しただけだ・・・。
・・・俺も酔ってたんだ・・・。
2人の子持ちでベテラン総務の主任女史に「バカねぇ、なんでこんな人にアドバイスなんて求めるのよ。短いスパンで別れるのって、恋多い訳じゃなくて長く続かないって証拠じゃないの。」という言葉にも追い打ちをかけられた。
あぁぁ・・あの花見は最悪だった。
次の日、会社の皆が優しくなってた。
あれからいろんな人に飴とか貰うようになった・・・穴があったら埋まりたい。
なにもかもバラされて打ちひしがれてる俺の横で、翠が顔を真っ赤にしながら同僚の話を聞いてた。
どうしよう、可愛い。
歓迎会早く終わらないかな。
長かった送迎会が終わって金の計算してると、翠につんつん、とつつかれた。
やばい、なんだこれ、くっそ可愛いなっ!と内心もだえてると小さくたたまれた紙を渡される。
「前の携帯・・・引っ越しの時に姪っこにジュースで洗われたの・・・。これ・・あの・・新しいアドレスだから。その・・ごめんね。連絡取れなくなって。」
うつむいてて顔が見れなかったけど、耳まで真っ赤になってる翠。
アドレスっっ。
慌てて自分の携帯を取り出して赤外線通信をする。
いやまて・・アドレスだけじゃ足りない。
実家とかアパートとか全部聞いとかなくちゃ。
思いつく限りを質問して手帳に書き込んでいくと、隣にいた同僚に頭をしばかれる。
「どうどうどう。落ち着けっ。ミドリちゃん研修でまだいるからっ。」
あぁぁ・・・研修一週間なんだよな。
なんとかして指導員になれたりしないのかな・・・。
その後、同僚に引きずられるようにして家路についた。
翠と話したかったのにっ、と抗議したら「性犯罪を阻止しただけだ。」と言われた。
・・・まぁ・・うん、止めてくれて助かった・・確かにちょっと理性吹っ飛んでた。
翌日の昼休み。
翠に俺の履歴書というか、釣書というか・・・そういったものを書類にして渡した。
翠のことを知りたい。
俺の事も知ってほしい。
そう考えての行動だ。
もぅ2度と同じヘマはしない。
彼の後悔
「別れよう」
恋人の心が知りたくて、俺はメールを送った。
コンビニでバイトしてたあいつに一目惚れして、友人に背中押されて告白したのが1か月前。
あいつはビックリした顔してたが、笑顔で「自分でいいなら」と承諾してくれた。
仕事が忙しくてメールも電話もほとんど出来ない。
それにあいつもメールも電話も苦手なのかほとんどかかって来ない。
その代わり週末にあいつのアパートに行く。
にこにことご飯をよそってくれるあいつを見てるのが楽しくて、ついついいつも長居する。
・・・下心はあるけど、まだ付き合って1か月も経ってないのに手を出すなんてダメだよな。
あまり遅くまでいると自制が効かなくなるので、いつも後ろ髪ひかれる思いで帰ってること、あいつは知ってるのかな。
あいつの心を知りたいと悶々と考えてた。
会社でも有名な恋多き女が休憩室にいたので、どうしたらいいか尋ねてみると、「別れよう」メールで反応見ればいいじゃない、と言われたのでそうしてみた。
10分経っても返事がない。
20分経っても返事がない。
・・・・・・休憩時間が終わるまで待ってみたが、返事がこなかったので、きっと忙しくて見てないんだなと思い仕事に戻った。
アドバイス料として女にはコーヒーを渡したが、「そんなのより今度デートしてよぅ」と言われる。
語尾を伸ばした言い方にイラッっとしたが、会社で波風立たせるのはマズイと思い、笑いながら「いつかね」と言い机へと戻る。
その後、外回りに行ったり、発注ミスが発覚したりで、なんだかんだと忙しくなり会社から帰ってきたのは翌日の11時だった。
あまりにも疲れてたので、部屋につくなりベッドにダイブして睡眠を貪った。
・・・・・・メールの確認なんてすっかり忘れて。
ガバリと起きたのが日曜の昼。
Yシャツはよれよれの皺だらけ、髪もぼさぼさのまま、携帯に手を伸ばして時間を確認する。
-新着メールがあります-
あいつだ!
すっかり忘れてた、と慌てて画面を開く。
「了解」
・・・・たった2文字だけのメッセージに血の気が引く。
慌てて電話をかけるが、「電源が入っていないか、電波が届かないところにいます」という硬質なメッセージが聞こえてくるばかりだった。
何度かけ直しても、聞こえてくるのは同じメッセージ。
慌てて部屋を出ようとして財布に手を伸ばすが、鏡でよれよれの姿が見てしまい、これじゃダメだと思い返し風呂に入って身支度をする。
ヤバい。怒ってるのかな。
どうしたら機嫌直してくれるかな、と、動揺しながらも、心の底に喜びがあることを自覚してしまう。
いつもニコニコして怒ってる姿が想像できないあいつが、俺のこと怒ってる。
現状は最悪なのに、そう思ってしまいニヤつく顔が止められない。
どうしよう、なにかあいつの好きなの持って行って詫びればいいのかな。
ケーキではレアチーズが好きだって言ってた、と、あいつの好きなのを思い出しながら服を着替え、大急ぎで部屋を出た。
ケーキの包みを持った俺を出迎えてくれたのは、空っぽの部屋。
あいつがいない。
慌ててあいつに電話をするが何度かけてもすぐに切られてしまう。
数十回目かけ直した所でまたあの「電源が入っていないか、電波が届かないところにいます」というメッセージが繰り返されるばかりだった。
苛立ちのままに携帯を叩きつけたくなる衝動を必死に抑える。
ダメだ、今この携帯壊したら、あいつとの接点がなくなる、その一心で。
あいつの部屋の両サイドのドアを叩き、あいつのことを尋ねると、今朝、引っ越し業者が来て出て行ったらしい。
あいつの行った先を訪ねたが、分からないとしか言われなかった。
大家の電話番号を教えてもらい、実家の住所と電話番号を聞き出そうとしたが個人情報がどうのと教えてくれなかった。
あまりにも俺が鬼気迫る様子だったのか、隣の部屋の住人が「あんたなに?ストーカーなの?」と聞いてきた。
冗談じゃない。
「恋人だよっ」と苛立ちのままに返事すると「こわっ」と一言言われて、扉を閉められてしまった。
そうだ、コンビニ!と思い、慌てて駆け出した。
あいつのことを店員に尋ねると、学校を卒業するので実家に帰るとバイトを辞めたらしい。
「実家は!?」と尋ねると、「遠い地方だと言ってた気がする」という返事しかなかった。
住所などを聞いたが、「店長いないし分かんない」、と言われた。
八方塞がりのまま自分の部屋に帰る。
ハハ・・ハハハ・・俺、捨てられた?
引っ越すとか聞いてない。
実家もどこだか聞いてない。
何一つ・・知らないんだな。
ぽた、ぽた、と涙が床に垂れた。
何度も電話してもあいつは電話に出ない。
後日、またコンビニに行き、実家の住所と電話を教えてくれと店長を捕まえて頼み込んだ。
俺の必死な様子に、「本当はダメなんだけど履歴書確認するくらいなら」と言って確認してくれた。
・・・書かれていた住所はあいつが住んでたアパート。電話番号も携帯だけだった。
電話番号とメールアドレスしか連絡手段が残されていない。
何度電話しても、メール送っても、あいつは返事をくれない。
そのうち着信拒否にされたのか、電話もメールも送れなくなった。
・・・俺、バカだな。
なんであんなメール送ったんだろう。
道行く人の中に、あいつを探してしまう俺がいる。
よく似た人を見かけると、つい顔を確認してしまう。
メールが来るたびに、あいつからじゃないかと期待してしまう俺がいる。
・・・これって、ストーカーなのかな。
ひどく執着してることは自覚してる。
最近、元気がない俺に気をつかって同僚や友人達が酒に誘ってくれることが多くなった。
新しい恋でもしたら、と合コンに誘われることも多くなった。
・・・でもさ、胸にポッカリ穴が開いたような気がするんだ。
なんであんなメール・・・送っちゃったんだろうな。
恋人の心が知りたくて、俺はメールを送った。
コンビニでバイトしてたあいつに一目惚れして、友人に背中押されて告白したのが1か月前。
あいつはビックリした顔してたが、笑顔で「自分でいいなら」と承諾してくれた。
仕事が忙しくてメールも電話もほとんど出来ない。
それにあいつもメールも電話も苦手なのかほとんどかかって来ない。
その代わり週末にあいつのアパートに行く。
にこにことご飯をよそってくれるあいつを見てるのが楽しくて、ついついいつも長居する。
・・・下心はあるけど、まだ付き合って1か月も経ってないのに手を出すなんてダメだよな。
あまり遅くまでいると自制が効かなくなるので、いつも後ろ髪ひかれる思いで帰ってること、あいつは知ってるのかな。
あいつの心を知りたいと悶々と考えてた。
会社でも有名な恋多き女が休憩室にいたので、どうしたらいいか尋ねてみると、「別れよう」メールで反応見ればいいじゃない、と言われたのでそうしてみた。
10分経っても返事がない。
20分経っても返事がない。
・・・・・・休憩時間が終わるまで待ってみたが、返事がこなかったので、きっと忙しくて見てないんだなと思い仕事に戻った。
アドバイス料として女にはコーヒーを渡したが、「そんなのより今度デートしてよぅ」と言われる。
語尾を伸ばした言い方にイラッっとしたが、会社で波風立たせるのはマズイと思い、笑いながら「いつかね」と言い机へと戻る。
その後、外回りに行ったり、発注ミスが発覚したりで、なんだかんだと忙しくなり会社から帰ってきたのは翌日の11時だった。
あまりにも疲れてたので、部屋につくなりベッドにダイブして睡眠を貪った。
・・・・・・メールの確認なんてすっかり忘れて。
ガバリと起きたのが日曜の昼。
Yシャツはよれよれの皺だらけ、髪もぼさぼさのまま、携帯に手を伸ばして時間を確認する。
-新着メールがあります-
あいつだ!
すっかり忘れてた、と慌てて画面を開く。
「了解」
・・・・たった2文字だけのメッセージに血の気が引く。
慌てて電話をかけるが、「電源が入っていないか、電波が届かないところにいます」という硬質なメッセージが聞こえてくるばかりだった。
何度かけ直しても、聞こえてくるのは同じメッセージ。
慌てて部屋を出ようとして財布に手を伸ばすが、鏡でよれよれの姿が見てしまい、これじゃダメだと思い返し風呂に入って身支度をする。
ヤバい。怒ってるのかな。
どうしたら機嫌直してくれるかな、と、動揺しながらも、心の底に喜びがあることを自覚してしまう。
いつもニコニコして怒ってる姿が想像できないあいつが、俺のこと怒ってる。
現状は最悪なのに、そう思ってしまいニヤつく顔が止められない。
どうしよう、なにかあいつの好きなの持って行って詫びればいいのかな。
ケーキではレアチーズが好きだって言ってた、と、あいつの好きなのを思い出しながら服を着替え、大急ぎで部屋を出た。
ケーキの包みを持った俺を出迎えてくれたのは、空っぽの部屋。
あいつがいない。
慌ててあいつに電話をするが何度かけてもすぐに切られてしまう。
数十回目かけ直した所でまたあの「電源が入っていないか、電波が届かないところにいます」というメッセージが繰り返されるばかりだった。
苛立ちのままに携帯を叩きつけたくなる衝動を必死に抑える。
ダメだ、今この携帯壊したら、あいつとの接点がなくなる、その一心で。
あいつの部屋の両サイドのドアを叩き、あいつのことを尋ねると、今朝、引っ越し業者が来て出て行ったらしい。
あいつの行った先を訪ねたが、分からないとしか言われなかった。
大家の電話番号を教えてもらい、実家の住所と電話番号を聞き出そうとしたが個人情報がどうのと教えてくれなかった。
あまりにも俺が鬼気迫る様子だったのか、隣の部屋の住人が「あんたなに?ストーカーなの?」と聞いてきた。
冗談じゃない。
「恋人だよっ」と苛立ちのままに返事すると「こわっ」と一言言われて、扉を閉められてしまった。
そうだ、コンビニ!と思い、慌てて駆け出した。
あいつのことを店員に尋ねると、学校を卒業するので実家に帰るとバイトを辞めたらしい。
「実家は!?」と尋ねると、「遠い地方だと言ってた気がする」という返事しかなかった。
住所などを聞いたが、「店長いないし分かんない」、と言われた。
八方塞がりのまま自分の部屋に帰る。
ハハ・・ハハハ・・俺、捨てられた?
引っ越すとか聞いてない。
実家もどこだか聞いてない。
何一つ・・知らないんだな。
ぽた、ぽた、と涙が床に垂れた。
何度も電話してもあいつは電話に出ない。
後日、またコンビニに行き、実家の住所と電話を教えてくれと店長を捕まえて頼み込んだ。
俺の必死な様子に、「本当はダメなんだけど履歴書確認するくらいなら」と言って確認してくれた。
・・・書かれていた住所はあいつが住んでたアパート。電話番号も携帯だけだった。
電話番号とメールアドレスしか連絡手段が残されていない。
何度電話しても、メール送っても、あいつは返事をくれない。
そのうち着信拒否にされたのか、電話もメールも送れなくなった。
・・・俺、バカだな。
なんであんなメール送ったんだろう。
道行く人の中に、あいつを探してしまう俺がいる。
よく似た人を見かけると、つい顔を確認してしまう。
メールが来るたびに、あいつからじゃないかと期待してしまう俺がいる。
・・・これって、ストーカーなのかな。
ひどく執着してることは自覚してる。
最近、元気がない俺に気をつかって同僚や友人達が酒に誘ってくれることが多くなった。
新しい恋でもしたら、と合コンに誘われることも多くなった。
・・・でもさ、胸にポッカリ穴が開いたような気がするんだ。
なんであんなメール・・・送っちゃったんだろうな。
3月の出来事
彼女の決別
彼女の決別
明日は土曜日だし、きっと恋人も来るだろうから美味しいものでも作ってあげようと、買い物袋と財布に携帯を手にして店を目指してる途中、携帯が振動した。
恋人からのメール。
もしかしたら、今日来るとかかな?とちょっと気分が浮つく。
題名はない。
歩きながらメールを開くと一言だけのメッセージ。
「別れよう」
思考が止まる。
ついでに歩みも止まる。
「別れよう」ってあれか、別れの言葉か。
メールで?
しかも一言だけ?
ぐるぐるぐると世界が回った気がした。
喚きだしたくなる衝動をぐっと飲み込んで、近くの公園にふらつきながら入っていった。
はぁ・・・・。
ため息をつきつつ、携帯の画面を開く。
・・・マジか。
何度見ても変わらない文字。
冗談だよ、とか、嘘でした!などの追伸を期待して、何度もセンターに更新確認をしてしまう。
何度確認してもメールは来ない。
ハハッ・・・つい、乾いた笑いがこぼれた。
そういえばそうだよね。
私みたいに平凡な奴を、あんな素敵な人が好きになってくれるわけないか。
告白はあの人からだったけど、後ろに何人か友人らしきのがいたもんな。
きっと、罰ゲームとかだったんじゃないのかな。
・・・情けない。
浮かれてしまったこの1か月。
初めての恋人に、浮かれまくった私はなんて恥ずかしいんだろう。
あぁ、嫌だな。
もしかしたら陰で賭けとかされてたかもしれない。
週末、私のアパートに来るだけのあの人。
一緒にTV観て、ご飯食べて、ただそれだけで幸せだった。
・・・でも、あの人は苦痛だったのかもしれない。
そういえばいつもそんなに笑ってなかった気がする。
デートにも行ったことないや。
そっか、そうだよな。こんなのと歩いてるとこなんて見られてくなかったんだろうな。
あぁ、そういえば返事、返してないや。
「了解」・・・・と。
ポチッとボタンを押す。
・・・あぁ、そうだ。
ついでにあの人のアドレスも履歴も消してしまおう。
丁度良かったじゃないか・・・。
遠くに行かなくちゃいけない、遠距離恋愛になっちゃうね。って、どう切り出そうか悩んでたけど、その必要もないんだ・・。
・・あ~・・・なんか、どうでもいいや。
食欲なくなったし、帰って引っ越しの準備するかな。
明後日の朝には引っ越し業者が来るし。
ぽつ、ぽつ、と空から雨が落ちてきた。
私の代わりに泣いてよ、と暗い空を見上げてつぶやいた。
恋人からのメール。
もしかしたら、今日来るとかかな?とちょっと気分が浮つく。
題名はない。
歩きながらメールを開くと一言だけのメッセージ。
「別れよう」
思考が止まる。
ついでに歩みも止まる。
「別れよう」ってあれか、別れの言葉か。
メールで?
しかも一言だけ?
ぐるぐるぐると世界が回った気がした。
喚きだしたくなる衝動をぐっと飲み込んで、近くの公園にふらつきながら入っていった。
はぁ・・・・。
ため息をつきつつ、携帯の画面を開く。
・・・マジか。
何度見ても変わらない文字。
冗談だよ、とか、嘘でした!などの追伸を期待して、何度もセンターに更新確認をしてしまう。
何度確認してもメールは来ない。
ハハッ・・・つい、乾いた笑いがこぼれた。
そういえばそうだよね。
私みたいに平凡な奴を、あんな素敵な人が好きになってくれるわけないか。
告白はあの人からだったけど、後ろに何人か友人らしきのがいたもんな。
きっと、罰ゲームとかだったんじゃないのかな。
・・・情けない。
浮かれてしまったこの1か月。
初めての恋人に、浮かれまくった私はなんて恥ずかしいんだろう。
あぁ、嫌だな。
もしかしたら陰で賭けとかされてたかもしれない。
週末、私のアパートに来るだけのあの人。
一緒にTV観て、ご飯食べて、ただそれだけで幸せだった。
・・・でも、あの人は苦痛だったのかもしれない。
そういえばいつもそんなに笑ってなかった気がする。
デートにも行ったことないや。
そっか、そうだよな。こんなのと歩いてるとこなんて見られてくなかったんだろうな。
あぁ、そういえば返事、返してないや。
「了解」・・・・と。
ポチッとボタンを押す。
・・・あぁ、そうだ。
ついでにあの人のアドレスも履歴も消してしまおう。
丁度良かったじゃないか・・・。
遠くに行かなくちゃいけない、遠距離恋愛になっちゃうね。って、どう切り出そうか悩んでたけど、その必要もないんだ・・。
・・あ~・・・なんか、どうでもいいや。
食欲なくなったし、帰って引っ越しの準備するかな。
明後日の朝には引っ越し業者が来るし。
ぽつ、ぽつ、と空から雨が落ちてきた。
私の代わりに泣いてよ、と暗い空を見上げてつぶやいた。
妖精の騎士2
3日後
熱を出し、屋敷で養生していた私の元に、見舞いと、内々に謝罪をさせてほしいと、ガリブ殿下とファリハ殿下が屋敷に来訪した。
ガリブ殿下はファリハ殿下に元婚約者の意見を内密で聞きたいということで、ほんの数分だけ呼び出してほしいのだと頼んだのだそうだが、隣にいたノアを見ていたずら心が出てしまったのだと謝ってきた。
すまんすまんと、笑いながら謝るガリブ殿下をファリハ殿下はたおやかな細腕で叩きのめすが全くダメージを受けた様子がない・・おそらく常がそうなのだと思われる光景に、仲の良さを見て取れて、なんだか微笑ましく思ってしまった。
見舞いの品の代わりにと、人形劇は準備出来なかったから、絵心のある部下に描かせたいう紙芝居を片手に、自慢そうな顔をしたガリブ殿下は、浪々と耳触りの良いテノールの声で紙芝居をはじめた。
【妖精の騎士】
昔々、森深い泉の傍らに白磁の城がありました。
城の中には月の光を紡いだ髪、アメジストの瞳をした美しい妖精の姫が住んでおりました。
妖精姫は、一人の妖精の騎士に恋をしていました。
茶色の髪と緑の瞳。
兵士の間に紛れれば、どこにいるのかすぐ分からなくなる容姿なのですが、妖精姫にはどこにいてもすぐ分かります。
キラキラキラと妖精姫の目には、騎士の姿が光って見えるのですから。
いつもいつも、窓際で妖精姫は騎士の姿を見ておりました。
その姿を通りすがりの人間の国の王子様が見てしまいました。
月のように美しい妖精姫にひと目で心を奪われた王子様は、妖精王に妖精姫を嫁にくれるよう嘆願します。
しかしながら妖精王は頷いてはくれません。
王子様は、人攫いを雇って妖精姫を攫うことにしました。
城から攫われた妖精姫は王子様に求婚されますが、妖精姫は頑として頷こうとしません。
そのことに腹をたてた王子様は妖精姫を、遠い地の果てにある高い塔に閉じ込めることにしました。
一方、妖精姫が攫われた城は上へ下への大騒ぎとなりました。
城の中を探してもどこにもいません。
泉の中を探してもどこにもいません。
森の中を探してもどこにもいません。
妖精王は兵士達に妖精姫を探し出すよう通達を出します。
茶色の髪と緑の瞳の騎士も、昼夜を問わず探しました。
騎士もまた窓際に佇む美しい妖精姫に恋をしていたのでした。
幾日も幾日も野を越え、山を越え、砂漠を越えて恋しい妖精姫を探し続けました。
そうして、ようやく遠い地の果てで高い塔に閉じ込められた妖精姫を見つけ出します。
助けだされた妖精姫と騎士は、手に手をとって城へと飛んで帰り、城で幸せに暮らしたそうです。
おしまい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・この物語のモデルは私達だったりするのでしょうか?」
確認するのが怖い・・・、でも、確認しないことには・・。
意を決して問うと、ガリブ殿下が笑顔で肯定した。
「そうなんだよ。あの処刑場に国で有名な人形師ナスターシャがいてね。
君らの姿を見て、インスピレーションを受けたそうだ。
それがもぅ素晴らしい出来でね?
人形劇は連日、満員御礼、妖精姫や騎士の人気はすごいものだよ!?
絵本とかも出版されたんじゃなかったかな。
なにはともあれ、あの人形がものすごく傑作でね、まさしくシエラ殿の生き写しだよ。」
うんうんと頷きながらガリブ殿下は言う。
クラリと眩暈がする。
幸いベッドに横たわったままだったからいいものの・・・。
深いため息しか出ない私に、フェリア殿下がすまなそうに言ってきた。
「ごめんなさい・・劇を見たとたん、兄がシエラ様だと騒ぎ出しちゃって・・・それで騎士も見たいと言い出しまして・・・。
紙芝居ではいろいろ省いてしまってはいるけど、妖精の騎士の冒険はすごいのですわよ?
クラーケンとか、グリフォンとか、人食い熊とか、人狼とか倒して、今じゃ街の男の子の間のヒーローですわ。
妖精姫も大人気で人形とかも売られてるんじゃないかしら。」
・・・・・・・・熊・・・・狼・・・どうしましょう・・心当たりがありすぎるわ。
内心の動揺が声に出ていたのか、ガリブ殿下が身を乗り出して聞いてきた。
「もしかしてあるのか!? 人食い熊や人狼が?」
「ひ、人食い熊や人狼ではなく・・・普通の熊や狼なら・・ノアが狩ってきたのを通路に飾っていたと思います。」
あまりの食いつきようにビクビクしながら答えると、
「是非に見せて頂けないだろうか!」キランと目を輝かせたガリブ殿下が承諾を求めてきたので、執事に救けを求める視線を送る。
「失礼いたします。私で宜しければご案内いたします。」空気を読んだ執事が綺麗な礼をしながらガリブ殿下に申し上げる。
「おお。宜しく頼む。少し見てくる。ではまた、シエラ殿。」
嬉々として執事の後をついていくガリブ殿下。
・・・・・・・・。
なんだか衝撃的なことが多すぎて、上手く思考が回らない私にファリハ殿下が、本当に申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「おバカな兄で申し訳ないですわ。
普段はまともなのですけれど、あぁいう娯楽を見かけるとすぐに飛びついてしまって本当に困っておりますの。
しかも妖精の騎士にも実在のモデルがいるって聞いて・・・どうしても一緒に行くと言って聞かなかったのですわ。
私の婚約の為に来たはずなのに、まったく・・・。」
ふぅ、と深いため息をついてしまった。
ため息しか出ない二人に、開いた扉からガリブ王子の興奮した声が聞こえてきた。
「おお! 白狼やベアーまで。さすがは妖精の騎士。
しかも傷がほぼないとは、ほとんど一突きなのか。
ノア殿も本当は妖精なんじゃないか?
シエラ殿の背中に羽は無いようだが、あれだけ軽ければきっと飛べるだろうし。
実際のところどうなのだ?
食事は、花の蜜とかなのではないのか?」
どうやら執事にあれこれ聞いているようだ。
・・・・人間なので花の蜜では生きられないです・・ちょっと遠い目をしてしまった私である。
「本当に申し訳ございせん・・・。」
ファリハ殿下が顔を真っ赤にして、手で顔を覆ってしまった・・。
「い、いいのですよ・・。私もその人形劇を見たいものです。」
ニコリと、ぎこちないながらも笑みを浮かべファリハ殿下を慰める。
それを聞いたファリハ殿下がパァっと笑顔になり、
「えぇ、是非にいらして?
心より歓迎いたしますわ。
貴女をひと目見た時からお友達になりたいと思っていたのです。
昔から兄が妖精のようだと散々言っておりましたから、お会いできるのを楽しみにしておりました。
シエラ様、本当に妖精のように麗しくていつまでも見ていたいわ。」
うっとりという形容詞がつきそうな顔で、ファリハ殿下が言う。
そう言う貴女がお美しいです。
同性の美女から言われた言葉にも関わらず、頬が赤くなるのを感じる。
「あの・・・私も是非にお友達になってくださいな。
ファリハ殿下は・・・物語の中に出てくる女神様のようです。
私も、ついつい不躾に魅入ってしまいそうで、失礼だと思われてないか心配でした。」
そう心から、目の前にいる美の女神へ心からの賞賛をおくると、ファリハ殿下は数回、目を瞬いた後、ほわりと花がほころぶように笑い「嬉しい」とつぶやいた。
美女の微笑というのは、すさまじい破壊力があるのだと実感した瞬間でございました。
その後、しばらくして知らせを聞いたノアと父が屋敷へ帰宅してきた。
・・・・・・妖精王と妖精の騎士だと、喜色を隠せないガリブ殿下が大騒ぎしたのは余談である。
ディートハルト皇太子とファリハ殿下は婚約した。
ディートハルト皇太子が蒼白な顔をして屋敷に来たが、アリサに、にこやかに「おめでとうございます。」と言われてしまい、うなだれて帰って行った。
あまりの不憫さにノアがおくると言い、皇太子と一緒に出かけて行った。
父が「甘いね。」と酒杯を片手に見送っていた。
父に大丈夫でしょうかと尋ねたが、
「どうしても手に入れたいのなら、相手を逃がさないよう、がっちり囲い込んで、国を相手にしても一歩も引かない態度でいかないと、手に入るものも入らないのだよ。ノアが見本を示したはずなんだけどねぇ。」とにこやかに返された。
・・・なかなかに厳しい世界なのですね。殿方は大変そうです。
ガリブ殿下とファリハ殿下は、皇国に1か月ほど滞在して国へと帰って行った。
その間、ディートハルト皇太子とノアはお守り役というか、接待担当にされ・・・ガリブ殿下と共に山や森へ軍事演習に行った。
・・・・帰ってきた際、今まで1つか2つしか持ってこなかった毛皮を.・・・山のように持って帰ってきた。
少年のように目を輝かせて獲物をどのように得たのか説明しはじめた彼らに、
「血なまぐさいので、ちょっと離れて頂けますか?」とキッパリ言ったファリハ殿下の背後に後光が見えた。
・・・ありがとうございます。この場にいる皆の心を代弁してくださって。
この人が国の王妃となったあかつきには、絶対に支持しようと思います。
帰る際、ザシャハール国に新婚旅行に来ることを約束された私とノア。
・・・ものすごくイヤな予感がするが・・断れない。
ノアと結婚できるのは嬉しいが、その日が来ることが少しでも先になることをちょっぴり願ってしまいました。
ノアがものすごく嬉しそうに楽しみですね、と言っているけれど・・ノア・・分かって言ってるのかしら?
行けば確実に見世物になること決定なのよ?
しかも妖精姫や妖精の騎士なんて恥ずかしい呼び名もついてくるなんて・・・。
ファリハ殿下にお会いできるのは嬉しいけれど・・葛藤が・・・。
隣で父がノアに妖精姫の人形は一番出来のいいものから買ってこいと、念を押しているのが聞こえる。
・・・父よ、娘に似た人形なんて欲しいのですか?
ディートハルト皇太子はしばらく元気がなく、ノアが何度かヤケ酒に付き合っていた。
友人である他の公爵家嫡男達は国中に散らばって仕事をしていたので、酒を飲んでくれる相手がノアしかいなかった様子。
・・・不憫だと思うのだが、アリサとは縁がなかったのだと思って諦めてほしい。
アリサにもそれとなく皇太子の事を聞いてみたのだが、
「え。いろいろ貰ってたのって、お土産なんじゃないんですか?
それにしても、あんな美人で聡明なお嫁さん貰えるなんて良かったですよね!
シエラ様とファリハ王女が二人並んでると、ものすごい至福でしたよ!
あぁ、皇太子と結婚したら、また屋敷に遊びに来てくださいますかねぇ。」
と、うっとりした顔で自分の世界へと旅立ってしまった。
・・・ディートハルト皇太子・・不憫すぎて涙が・・・。
そういえば他の公爵家の嫡男達とはどうなのだろう、とアリサに尋ねると、
「・・・実はですね、シエラ様。
私達、皆で公開処刑を見せられたのです。
私達がきっかけで人が死ぬのだから、最後まできちんと見るべきだと。
・・たくさんの人が首を切られてですね・・その、父だった人も、ですね。
その後以来、一度も会っていません。
本当は、会って謝るべきなんでしょうけど・・・。」と・・・小さい背中を更に小さくしてしまった。
そうなの・・・と、あまり思い出したくないであろうことを無理に思い出させてしまった、どう慰めの言葉を言えばいいのか分からず狼狽えていると、アリサがふぃと顔を上げて見つめてきた。
「シエラ様、私、とても悪いことをしたと思っています。
死んで罪を償おうとはじめは思っていました。
でも私、生きて罪を償うことを決めたんです。死んだ人の分まで。」
なにか吹っ切れた顔をしたアリサ。
「えぇ、・・えぇ、そうね。
死んでしまってはなにもできないものね。
苦しむことも、幸せになることも。
アリサ・・私も共犯者です。貴女の罪の半分は私が負いましょう。
だから、貴女もちゃんと自分の幸せを探すのよ?」
私の罪、アリサの罪。
もはや裁かれはしないであろうが、罪として心に残っている。
それでも幸せを願うことをやめることが出来ない。
生きていく為には希望が必要なのだから。
それを聞いたアリサは驚いた顔をしたが、「もぅ十分に幸せです。」と言い、ふふっと笑った。
「シエラ様の結婚式を見ることが私の幸せなので、全力で頑張らせていただきます。
楽しみですね。結婚式。」
「・・・・・・・そ、そうね。とても楽しみだわ。」
思ってた以上に逞しいアリサに、ちょっとばかりビックリしたが、まぁでも、楽しそうで安心した。
来月、私とノアは式を挙げる。
熱を出し、屋敷で養生していた私の元に、見舞いと、内々に謝罪をさせてほしいと、ガリブ殿下とファリハ殿下が屋敷に来訪した。
ガリブ殿下はファリハ殿下に元婚約者の意見を内密で聞きたいということで、ほんの数分だけ呼び出してほしいのだと頼んだのだそうだが、隣にいたノアを見ていたずら心が出てしまったのだと謝ってきた。
すまんすまんと、笑いながら謝るガリブ殿下をファリハ殿下はたおやかな細腕で叩きのめすが全くダメージを受けた様子がない・・おそらく常がそうなのだと思われる光景に、仲の良さを見て取れて、なんだか微笑ましく思ってしまった。
見舞いの品の代わりにと、人形劇は準備出来なかったから、絵心のある部下に描かせたいう紙芝居を片手に、自慢そうな顔をしたガリブ殿下は、浪々と耳触りの良いテノールの声で紙芝居をはじめた。
【妖精の騎士】
昔々、森深い泉の傍らに白磁の城がありました。
城の中には月の光を紡いだ髪、アメジストの瞳をした美しい妖精の姫が住んでおりました。
妖精姫は、一人の妖精の騎士に恋をしていました。
茶色の髪と緑の瞳。
兵士の間に紛れれば、どこにいるのかすぐ分からなくなる容姿なのですが、妖精姫にはどこにいてもすぐ分かります。
キラキラキラと妖精姫の目には、騎士の姿が光って見えるのですから。
いつもいつも、窓際で妖精姫は騎士の姿を見ておりました。
その姿を通りすがりの人間の国の王子様が見てしまいました。
月のように美しい妖精姫にひと目で心を奪われた王子様は、妖精王に妖精姫を嫁にくれるよう嘆願します。
しかしながら妖精王は頷いてはくれません。
王子様は、人攫いを雇って妖精姫を攫うことにしました。
城から攫われた妖精姫は王子様に求婚されますが、妖精姫は頑として頷こうとしません。
そのことに腹をたてた王子様は妖精姫を、遠い地の果てにある高い塔に閉じ込めることにしました。
一方、妖精姫が攫われた城は上へ下への大騒ぎとなりました。
城の中を探してもどこにもいません。
泉の中を探してもどこにもいません。
森の中を探してもどこにもいません。
妖精王は兵士達に妖精姫を探し出すよう通達を出します。
茶色の髪と緑の瞳の騎士も、昼夜を問わず探しました。
騎士もまた窓際に佇む美しい妖精姫に恋をしていたのでした。
幾日も幾日も野を越え、山を越え、砂漠を越えて恋しい妖精姫を探し続けました。
そうして、ようやく遠い地の果てで高い塔に閉じ込められた妖精姫を見つけ出します。
助けだされた妖精姫と騎士は、手に手をとって城へと飛んで帰り、城で幸せに暮らしたそうです。
おしまい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・この物語のモデルは私達だったりするのでしょうか?」
確認するのが怖い・・・、でも、確認しないことには・・。
意を決して問うと、ガリブ殿下が笑顔で肯定した。
「そうなんだよ。あの処刑場に国で有名な人形師ナスターシャがいてね。
君らの姿を見て、インスピレーションを受けたそうだ。
それがもぅ素晴らしい出来でね?
人形劇は連日、満員御礼、妖精姫や騎士の人気はすごいものだよ!?
絵本とかも出版されたんじゃなかったかな。
なにはともあれ、あの人形がものすごく傑作でね、まさしくシエラ殿の生き写しだよ。」
うんうんと頷きながらガリブ殿下は言う。
クラリと眩暈がする。
幸いベッドに横たわったままだったからいいものの・・・。
深いため息しか出ない私に、フェリア殿下がすまなそうに言ってきた。
「ごめんなさい・・劇を見たとたん、兄がシエラ様だと騒ぎ出しちゃって・・・それで騎士も見たいと言い出しまして・・・。
紙芝居ではいろいろ省いてしまってはいるけど、妖精の騎士の冒険はすごいのですわよ?
クラーケンとか、グリフォンとか、人食い熊とか、人狼とか倒して、今じゃ街の男の子の間のヒーローですわ。
妖精姫も大人気で人形とかも売られてるんじゃないかしら。」
・・・・・・・・熊・・・・狼・・・どうしましょう・・心当たりがありすぎるわ。
内心の動揺が声に出ていたのか、ガリブ殿下が身を乗り出して聞いてきた。
「もしかしてあるのか!? 人食い熊や人狼が?」
「ひ、人食い熊や人狼ではなく・・・普通の熊や狼なら・・ノアが狩ってきたのを通路に飾っていたと思います。」
あまりの食いつきようにビクビクしながら答えると、
「是非に見せて頂けないだろうか!」キランと目を輝かせたガリブ殿下が承諾を求めてきたので、執事に救けを求める視線を送る。
「失礼いたします。私で宜しければご案内いたします。」空気を読んだ執事が綺麗な礼をしながらガリブ殿下に申し上げる。
「おお。宜しく頼む。少し見てくる。ではまた、シエラ殿。」
嬉々として執事の後をついていくガリブ殿下。
・・・・・・・・。
なんだか衝撃的なことが多すぎて、上手く思考が回らない私にファリハ殿下が、本当に申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「おバカな兄で申し訳ないですわ。
普段はまともなのですけれど、あぁいう娯楽を見かけるとすぐに飛びついてしまって本当に困っておりますの。
しかも妖精の騎士にも実在のモデルがいるって聞いて・・・どうしても一緒に行くと言って聞かなかったのですわ。
私の婚約の為に来たはずなのに、まったく・・・。」
ふぅ、と深いため息をついてしまった。
ため息しか出ない二人に、開いた扉からガリブ王子の興奮した声が聞こえてきた。
「おお! 白狼やベアーまで。さすがは妖精の騎士。
しかも傷がほぼないとは、ほとんど一突きなのか。
ノア殿も本当は妖精なんじゃないか?
シエラ殿の背中に羽は無いようだが、あれだけ軽ければきっと飛べるだろうし。
実際のところどうなのだ?
食事は、花の蜜とかなのではないのか?」
どうやら執事にあれこれ聞いているようだ。
・・・・人間なので花の蜜では生きられないです・・ちょっと遠い目をしてしまった私である。
「本当に申し訳ございせん・・・。」
ファリハ殿下が顔を真っ赤にして、手で顔を覆ってしまった・・。
「い、いいのですよ・・。私もその人形劇を見たいものです。」
ニコリと、ぎこちないながらも笑みを浮かべファリハ殿下を慰める。
それを聞いたファリハ殿下がパァっと笑顔になり、
「えぇ、是非にいらして?
心より歓迎いたしますわ。
貴女をひと目見た時からお友達になりたいと思っていたのです。
昔から兄が妖精のようだと散々言っておりましたから、お会いできるのを楽しみにしておりました。
シエラ様、本当に妖精のように麗しくていつまでも見ていたいわ。」
うっとりという形容詞がつきそうな顔で、ファリハ殿下が言う。
そう言う貴女がお美しいです。
同性の美女から言われた言葉にも関わらず、頬が赤くなるのを感じる。
「あの・・・私も是非にお友達になってくださいな。
ファリハ殿下は・・・物語の中に出てくる女神様のようです。
私も、ついつい不躾に魅入ってしまいそうで、失礼だと思われてないか心配でした。」
そう心から、目の前にいる美の女神へ心からの賞賛をおくると、ファリハ殿下は数回、目を瞬いた後、ほわりと花がほころぶように笑い「嬉しい」とつぶやいた。
美女の微笑というのは、すさまじい破壊力があるのだと実感した瞬間でございました。
その後、しばらくして知らせを聞いたノアと父が屋敷へ帰宅してきた。
・・・・・・妖精王と妖精の騎士だと、喜色を隠せないガリブ殿下が大騒ぎしたのは余談である。
ディートハルト皇太子とファリハ殿下は婚約した。
ディートハルト皇太子が蒼白な顔をして屋敷に来たが、アリサに、にこやかに「おめでとうございます。」と言われてしまい、うなだれて帰って行った。
あまりの不憫さにノアがおくると言い、皇太子と一緒に出かけて行った。
父が「甘いね。」と酒杯を片手に見送っていた。
父に大丈夫でしょうかと尋ねたが、
「どうしても手に入れたいのなら、相手を逃がさないよう、がっちり囲い込んで、国を相手にしても一歩も引かない態度でいかないと、手に入るものも入らないのだよ。ノアが見本を示したはずなんだけどねぇ。」とにこやかに返された。
・・・なかなかに厳しい世界なのですね。殿方は大変そうです。
ガリブ殿下とファリハ殿下は、皇国に1か月ほど滞在して国へと帰って行った。
その間、ディートハルト皇太子とノアはお守り役というか、接待担当にされ・・・ガリブ殿下と共に山や森へ軍事演習に行った。
・・・・帰ってきた際、今まで1つか2つしか持ってこなかった毛皮を.・・・山のように持って帰ってきた。
少年のように目を輝かせて獲物をどのように得たのか説明しはじめた彼らに、
「血なまぐさいので、ちょっと離れて頂けますか?」とキッパリ言ったファリハ殿下の背後に後光が見えた。
・・・ありがとうございます。この場にいる皆の心を代弁してくださって。
この人が国の王妃となったあかつきには、絶対に支持しようと思います。
帰る際、ザシャハール国に新婚旅行に来ることを約束された私とノア。
・・・ものすごくイヤな予感がするが・・断れない。
ノアと結婚できるのは嬉しいが、その日が来ることが少しでも先になることをちょっぴり願ってしまいました。
ノアがものすごく嬉しそうに楽しみですね、と言っているけれど・・ノア・・分かって言ってるのかしら?
行けば確実に見世物になること決定なのよ?
しかも妖精姫や妖精の騎士なんて恥ずかしい呼び名もついてくるなんて・・・。
ファリハ殿下にお会いできるのは嬉しいけれど・・葛藤が・・・。
隣で父がノアに妖精姫の人形は一番出来のいいものから買ってこいと、念を押しているのが聞こえる。
・・・父よ、娘に似た人形なんて欲しいのですか?
ディートハルト皇太子はしばらく元気がなく、ノアが何度かヤケ酒に付き合っていた。
友人である他の公爵家嫡男達は国中に散らばって仕事をしていたので、酒を飲んでくれる相手がノアしかいなかった様子。
・・・不憫だと思うのだが、アリサとは縁がなかったのだと思って諦めてほしい。
アリサにもそれとなく皇太子の事を聞いてみたのだが、
「え。いろいろ貰ってたのって、お土産なんじゃないんですか?
それにしても、あんな美人で聡明なお嫁さん貰えるなんて良かったですよね!
シエラ様とファリハ王女が二人並んでると、ものすごい至福でしたよ!
あぁ、皇太子と結婚したら、また屋敷に遊びに来てくださいますかねぇ。」
と、うっとりした顔で自分の世界へと旅立ってしまった。
・・・ディートハルト皇太子・・不憫すぎて涙が・・・。
そういえば他の公爵家の嫡男達とはどうなのだろう、とアリサに尋ねると、
「・・・実はですね、シエラ様。
私達、皆で公開処刑を見せられたのです。
私達がきっかけで人が死ぬのだから、最後まできちんと見るべきだと。
・・たくさんの人が首を切られてですね・・その、父だった人も、ですね。
その後以来、一度も会っていません。
本当は、会って謝るべきなんでしょうけど・・・。」と・・・小さい背中を更に小さくしてしまった。
そうなの・・・と、あまり思い出したくないであろうことを無理に思い出させてしまった、どう慰めの言葉を言えばいいのか分からず狼狽えていると、アリサがふぃと顔を上げて見つめてきた。
「シエラ様、私、とても悪いことをしたと思っています。
死んで罪を償おうとはじめは思っていました。
でも私、生きて罪を償うことを決めたんです。死んだ人の分まで。」
なにか吹っ切れた顔をしたアリサ。
「えぇ、・・えぇ、そうね。
死んでしまってはなにもできないものね。
苦しむことも、幸せになることも。
アリサ・・私も共犯者です。貴女の罪の半分は私が負いましょう。
だから、貴女もちゃんと自分の幸せを探すのよ?」
私の罪、アリサの罪。
もはや裁かれはしないであろうが、罪として心に残っている。
それでも幸せを願うことをやめることが出来ない。
生きていく為には希望が必要なのだから。
それを聞いたアリサは驚いた顔をしたが、「もぅ十分に幸せです。」と言い、ふふっと笑った。
「シエラ様の結婚式を見ることが私の幸せなので、全力で頑張らせていただきます。
楽しみですね。結婚式。」
「・・・・・・・そ、そうね。とても楽しみだわ。」
思ってた以上に逞しいアリサに、ちょっとばかりビックリしたが、まぁでも、楽しそうで安心した。
来月、私とノアは式を挙げる。
プロフィール
HN:
塩飴
性別:
非公開
自己紹介:
日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
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