とある皇太子の悔恨
「俺はアメリア以外と結婚しない!!」
バンッと音を立てて、釣書の束を宰相の机に叩きつける。
怒りに顔を上気させる皇太子に宰相はニコニコと声をかける。
「や、それは無理ですよ?」
「なぜだっ!」声を荒げて皇太子は問う。
「なぜ?」不思議そうに宰相は首をかしげる。
「彼女は処刑された人間です。
新しい名を与えられても過去を知る者は彼女の顔も罪も覚えています。
罪人を王宮に入れることは出来ません。」
「罪人などではない!あれは父親に利用されただけのことだ。彼女に罪はない」
と皇太子。
「それでもシエラ嬢を陥れたのは彼女です。
無実の公爵令嬢を処刑台へと送った罪は免れません。」
淡々と宰相は言う。
「それなら俺も同罪だろう!?」
「貴方は皇太子という身分故にその罪を軽減されました。被害者であるシエラ嬢の恩情願いも大きいです。」
「それでも!」
皇太子はなおも食い下がる。
「くどい」
廊下にまで聞こえていた騒ぎに、会話の内容を把握したラドシール公爵が、扉を開きながら皇太子の言葉をぶった切る。
「殿下には然るべき身分の女性を娶って頂きます。それが殿下の義務であり役割です。」
静かな声で告げるラドシール公爵。
「そんな役割など望んでいないっ」
「望む、望まないなど関係ないのですよ。貴方の衣食住すべて、国民が汗水たらして納めて出来た血税で賄われています。
貴方はその国民の為に役立たねばならないのです。
婚姻による国の利益や安定は、貴方が産まれて育った意味であり、義務です。
貴方はいったいこれまで何を学んでいたのですか・・。」
ため息をつきつつ宰相が声をかける。
「それなら・・シエラ嬢はどうなるっ・・・彼女はノア兄と婚約したじゃないか。愛する者同士で結婚できるじゃないか。」
うなだれ、声を震わせながら皇太子は言う。
「ノアは公爵家を継ぐという役を負います。
その為に私みずから教育しました。また、ノアも私の期待以上に成長してくれました。
能力的にも、身分的にもノアではダメだと異議を唱えられる者は少ないでしょうし、
シエルの嫁ぎ先候補として筆頭であった殿下や他の公爵家はアメリア・シーリスの件で文句は言えないでしょう。」
「・・・アメリアの件がなければ俺とシエラ嬢は結婚していたのだろう?ノア兄との結婚なんて無理じゃないか・・・。」うなだれたままに言う皇太子。
「それはないですね。」
しれっと答える宰相。
よほど予想外の答えだったのか、ぽかんと口を開けて固まる皇太子に、宰相は言葉を続ける。
「国王とは幼少期にすでに話はついているのですよ。貴方とシエラ嬢の婚姻はあくまで名目上。王妃毒殺事件後、シエラ嬢は滅多に王宮に来なくなったでしょう?
シエラ嬢、王宮に来るとですね、2~3日、食事が摂れなくなるそうなんですよ。」
「え!?」口を開けたまま間抜けな声を上げる皇太子。
「あの事件がトラウマになったのだろう・・・シエラは王宮に来るたびに食べれなくなる。そんな娘が王宮で暮らしていけると思いますか?」
娘のことを苦々しげに語るラドシール公爵。
「そんなこと一度も聞いたことないぞ・・・。」
「そんな弱み晒せるわけないじゃないですか。
貴方がもっとシエラ嬢と話していれば、もしかしたら教えてくれてたかもしれませんけどね。一応、名目上は婚約者だったのですし。」
さらりと言う宰相。
うなだれるしかない皇太子に宰相は言葉を続ける。
「シエラ嬢を婚約者としていた理由ですが、貴方の婚約者という立場を巡って各家の争いが起こることを恐れた為です。
現在、貴方の婚約者の席が空いたということで、ちらほらと騒動が起きている現状です。
穏健派の貴族ですらそうなのですよ?
処分した過激派の貴族達ならどうでしょうかね?令嬢の1人や2人、闇に消される可能性が非常に高かったのです。あの頃、水面下での足の引っ張り合いのえげつなさは、とてもじゃないですが酷いものでした。
だからこそ公爵家令嬢であるシエラ嬢との婚約は解消されませんでした。
貴方がたが適齢期になったら、婚約を解消し、隣国の姫を皇太子妃として迎える予定でした。その際、貴方に愛する方がいれば、側室の1人として迎えることも可能だったかもしれません。」
がばりと顔を上げる皇太子。
「あくまで仮定の話ですよ。今ではとてもじゃありませんが、その手段は取れません。」
「・・・俺の・・・俺のせいなのか・・・?」
「そうですね。貴方が貴族達の口車にのってシエラ嬢を処刑台へ送らなければ、叶えられたかもしれない未来です。」
黙り込んだ皇太子にラドシール公爵は声をかける。
「諦められないのですか。」
書類を手に立ち上がりつつ、ラドシール公爵は言う。
「諦められないなら足掻くといい・・・その為にどのような代償でも払う覚悟があるのなら。」
そう言い残して、部屋を出て行ってしまった。
バンッと音を立てて、釣書の束を宰相の机に叩きつける。
怒りに顔を上気させる皇太子に宰相はニコニコと声をかける。
「や、それは無理ですよ?」
「なぜだっ!」声を荒げて皇太子は問う。
「なぜ?」不思議そうに宰相は首をかしげる。
「彼女は処刑された人間です。
新しい名を与えられても過去を知る者は彼女の顔も罪も覚えています。
罪人を王宮に入れることは出来ません。」
「罪人などではない!あれは父親に利用されただけのことだ。彼女に罪はない」
と皇太子。
「それでもシエラ嬢を陥れたのは彼女です。
無実の公爵令嬢を処刑台へと送った罪は免れません。」
淡々と宰相は言う。
「それなら俺も同罪だろう!?」
「貴方は皇太子という身分故にその罪を軽減されました。被害者であるシエラ嬢の恩情願いも大きいです。」
「それでも!」
皇太子はなおも食い下がる。
「くどい」
廊下にまで聞こえていた騒ぎに、会話の内容を把握したラドシール公爵が、扉を開きながら皇太子の言葉をぶった切る。
「殿下には然るべき身分の女性を娶って頂きます。それが殿下の義務であり役割です。」
静かな声で告げるラドシール公爵。
「そんな役割など望んでいないっ」
「望む、望まないなど関係ないのですよ。貴方の衣食住すべて、国民が汗水たらして納めて出来た血税で賄われています。
貴方はその国民の為に役立たねばならないのです。
婚姻による国の利益や安定は、貴方が産まれて育った意味であり、義務です。
貴方はいったいこれまで何を学んでいたのですか・・。」
ため息をつきつつ宰相が声をかける。
「それなら・・シエラ嬢はどうなるっ・・・彼女はノア兄と婚約したじゃないか。愛する者同士で結婚できるじゃないか。」
うなだれ、声を震わせながら皇太子は言う。
「ノアは公爵家を継ぐという役を負います。
その為に私みずから教育しました。また、ノアも私の期待以上に成長してくれました。
能力的にも、身分的にもノアではダメだと異議を唱えられる者は少ないでしょうし、
シエルの嫁ぎ先候補として筆頭であった殿下や他の公爵家はアメリア・シーリスの件で文句は言えないでしょう。」
「・・・アメリアの件がなければ俺とシエラ嬢は結婚していたのだろう?ノア兄との結婚なんて無理じゃないか・・・。」うなだれたままに言う皇太子。
「それはないですね。」
しれっと答える宰相。
よほど予想外の答えだったのか、ぽかんと口を開けて固まる皇太子に、宰相は言葉を続ける。
「国王とは幼少期にすでに話はついているのですよ。貴方とシエラ嬢の婚姻はあくまで名目上。王妃毒殺事件後、シエラ嬢は滅多に王宮に来なくなったでしょう?
シエラ嬢、王宮に来るとですね、2~3日、食事が摂れなくなるそうなんですよ。」
「え!?」口を開けたまま間抜けな声を上げる皇太子。
「あの事件がトラウマになったのだろう・・・シエラは王宮に来るたびに食べれなくなる。そんな娘が王宮で暮らしていけると思いますか?」
娘のことを苦々しげに語るラドシール公爵。
「そんなこと一度も聞いたことないぞ・・・。」
「そんな弱み晒せるわけないじゃないですか。
貴方がもっとシエラ嬢と話していれば、もしかしたら教えてくれてたかもしれませんけどね。一応、名目上は婚約者だったのですし。」
さらりと言う宰相。
うなだれるしかない皇太子に宰相は言葉を続ける。
「シエラ嬢を婚約者としていた理由ですが、貴方の婚約者という立場を巡って各家の争いが起こることを恐れた為です。
現在、貴方の婚約者の席が空いたということで、ちらほらと騒動が起きている現状です。
穏健派の貴族ですらそうなのですよ?
処分した過激派の貴族達ならどうでしょうかね?令嬢の1人や2人、闇に消される可能性が非常に高かったのです。あの頃、水面下での足の引っ張り合いのえげつなさは、とてもじゃないですが酷いものでした。
だからこそ公爵家令嬢であるシエラ嬢との婚約は解消されませんでした。
貴方がたが適齢期になったら、婚約を解消し、隣国の姫を皇太子妃として迎える予定でした。その際、貴方に愛する方がいれば、側室の1人として迎えることも可能だったかもしれません。」
がばりと顔を上げる皇太子。
「あくまで仮定の話ですよ。今ではとてもじゃありませんが、その手段は取れません。」
「・・・俺の・・・俺のせいなのか・・・?」
「そうですね。貴方が貴族達の口車にのってシエラ嬢を処刑台へ送らなければ、叶えられたかもしれない未来です。」
黙り込んだ皇太子にラドシール公爵は声をかける。
「諦められないのですか。」
書類を手に立ち上がりつつ、ラドシール公爵は言う。
「諦められないなら足掻くといい・・・その為にどのような代償でも払う覚悟があるのなら。」
そう言い残して、部屋を出て行ってしまった。
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日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
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著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
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