塩飴の倉庫 令嬢と護衛の話21 忍者ブログ
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妖精の騎士2



3日後
熱を出し、屋敷で養生していた私の元に、見舞いと、内々に謝罪をさせてほしいと、ガリブ殿下とファリハ殿下が屋敷に来訪した。
ガリブ殿下はファリハ殿下に元婚約者の意見を内密で聞きたいということで、ほんの数分だけ呼び出してほしいのだと頼んだのだそうだが、隣にいたノアを見ていたずら心が出てしまったのだと謝ってきた。
すまんすまんと、笑いながら謝るガリブ殿下をファリハ殿下はたおやかな細腕で叩きのめすが全くダメージを受けた様子がない・・おそらく常がそうなのだと思われる光景に、仲の良さを見て取れて、なんだか微笑ましく思ってしまった。
見舞いの品の代わりにと、人形劇は準備出来なかったから、絵心のある部下に描かせたいう紙芝居を片手に、自慢そうな顔をしたガリブ殿下は、浪々と耳触りの良いテノールの声で紙芝居をはじめた。

【妖精の騎士】

昔々、森深い泉の傍らに白磁の城がありました。
城の中には月の光を紡いだ髪、アメジストの瞳をした美しい妖精の姫が住んでおりました。

妖精姫は、一人の妖精の騎士に恋をしていました。
茶色の髪と緑の瞳。
兵士の間に紛れれば、どこにいるのかすぐ分からなくなる容姿なのですが、妖精姫にはどこにいてもすぐ分かります。
キラキラキラと妖精姫の目には、騎士の姿が光って見えるのですから。

いつもいつも、窓際で妖精姫は騎士の姿を見ておりました。

その姿を通りすがりの人間の国の王子様が見てしまいました。
月のように美しい妖精姫にひと目で心を奪われた王子様は、妖精王に妖精姫を嫁にくれるよう嘆願します。
しかしながら妖精王は頷いてはくれません。

王子様は、人攫いを雇って妖精姫を攫うことにしました。
城から攫われた妖精姫は王子様に求婚されますが、妖精姫は頑として頷こうとしません。
そのことに腹をたてた王子様は妖精姫を、遠い地の果てにある高い塔に閉じ込めることにしました。

一方、妖精姫が攫われた城は上へ下への大騒ぎとなりました。
城の中を探してもどこにもいません。
泉の中を探してもどこにもいません。
森の中を探してもどこにもいません。
妖精王は兵士達に妖精姫を探し出すよう通達を出します。

茶色の髪と緑の瞳の騎士も、昼夜を問わず探しました。
騎士もまた窓際に佇む美しい妖精姫に恋をしていたのでした。
幾日も幾日も野を越え、山を越え、砂漠を越えて恋しい妖精姫を探し続けました。
そうして、ようやく遠い地の果てで高い塔に閉じ込められた妖精姫を見つけ出します。

助けだされた妖精姫と騎士は、手に手をとって城へと飛んで帰り、城で幸せに暮らしたそうです。

おしまい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。




「・・・・この物語のモデルは私達だったりするのでしょうか?」
確認するのが怖い・・・、でも、確認しないことには・・。
意を決して問うと、ガリブ殿下が笑顔で肯定した。

「そうなんだよ。あの処刑場に国で有名な人形師ナスターシャがいてね。
君らの姿を見て、インスピレーションを受けたそうだ。
それがもぅ素晴らしい出来でね?
人形劇は連日、満員御礼、妖精姫や騎士の人気はすごいものだよ!?
絵本とかも出版されたんじゃなかったかな。
なにはともあれ、あの人形がものすごく傑作でね、まさしくシエラ殿の生き写しだよ。」
うんうんと頷きながらガリブ殿下は言う。


クラリと眩暈がする。
幸いベッドに横たわったままだったからいいものの・・・。
深いため息しか出ない私に、フェリア殿下がすまなそうに言ってきた。

「ごめんなさい・・劇を見たとたん、兄がシエラ様だと騒ぎ出しちゃって・・・それで騎士も見たいと言い出しまして・・・。
紙芝居ではいろいろ省いてしまってはいるけど、妖精の騎士の冒険はすごいのですわよ?
クラーケンとか、グリフォンとか、人食い熊とか、人狼とか倒して、今じゃ街の男の子の間のヒーローですわ。
妖精姫も大人気で人形とかも売られてるんじゃないかしら。」

・・・・・・・・熊・・・・狼・・・どうしましょう・・心当たりがありすぎるわ。
内心の動揺が声に出ていたのか、ガリブ殿下が身を乗り出して聞いてきた。

「もしかしてあるのか!? 人食い熊や人狼が?」

「ひ、人食い熊や人狼ではなく・・・普通の熊や狼なら・・ノアが狩ってきたのを通路に飾っていたと思います。」
あまりの食いつきようにビクビクしながら答えると、

「是非に見せて頂けないだろうか!」キランと目を輝かせたガリブ殿下が承諾を求めてきたので、執事に救けを求める視線を送る。

「失礼いたします。私で宜しければご案内いたします。」空気を読んだ執事が綺麗な礼をしながらガリブ殿下に申し上げる。

「おお。宜しく頼む。少し見てくる。ではまた、シエラ殿。」
嬉々として執事の後をついていくガリブ殿下。



・・・・・・・・。
なんだか衝撃的なことが多すぎて、上手く思考が回らない私にファリハ殿下が、本当に申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。

「おバカな兄で申し訳ないですわ。
普段はまともなのですけれど、あぁいう娯楽を見かけるとすぐに飛びついてしまって本当に困っておりますの。
しかも妖精の騎士にも実在のモデルがいるって聞いて・・・どうしても一緒に行くと言って聞かなかったのですわ。
私の婚約の為に来たはずなのに、まったく・・・。」
ふぅ、と深いため息をついてしまった。

ため息しか出ない二人に、開いた扉からガリブ王子の興奮した声が聞こえてきた。
「おお! 白狼やベアーまで。さすがは妖精の騎士。
しかも傷がほぼないとは、ほとんど一突きなのか。
ノア殿も本当は妖精なんじゃないか?
シエラ殿の背中に羽は無いようだが、あれだけ軽ければきっと飛べるだろうし。
実際のところどうなのだ?
食事は、花の蜜とかなのではないのか?」

どうやら執事にあれこれ聞いているようだ。
・・・・人間なので花の蜜では生きられないです・・ちょっと遠い目をしてしまった私である。


「本当に申し訳ございせん・・・。」
ファリハ殿下が顔を真っ赤にして、手で顔を覆ってしまった・・。

「い、いいのですよ・・。私もその人形劇を見たいものです。」
ニコリと、ぎこちないながらも笑みを浮かべファリハ殿下を慰める。
それを聞いたファリハ殿下がパァっと笑顔になり、

「えぇ、是非にいらして?
心より歓迎いたしますわ。
貴女をひと目見た時からお友達になりたいと思っていたのです。
昔から兄が妖精のようだと散々言っておりましたから、お会いできるのを楽しみにしておりました。
シエラ様、本当に妖精のように麗しくていつまでも見ていたいわ。」
うっとりという形容詞がつきそうな顔で、ファリハ殿下が言う。

そう言う貴女がお美しいです。
同性の美女から言われた言葉にも関わらず、頬が赤くなるのを感じる。
「あの・・・私も是非にお友達になってくださいな。
ファリハ殿下は・・・物語の中に出てくる女神様のようです。
私も、ついつい不躾に魅入ってしまいそうで、失礼だと思われてないか心配でした。」

そう心から、目の前にいる美の女神へ心からの賞賛をおくると、ファリハ殿下は数回、目を瞬いた後、ほわりと花がほころぶように笑い「嬉しい」とつぶやいた。

美女の微笑というのは、すさまじい破壊力があるのだと実感した瞬間でございました。



その後、しばらくして知らせを聞いたノアと父が屋敷へ帰宅してきた。
・・・・・・妖精王と妖精の騎士だと、喜色を隠せないガリブ殿下が大騒ぎしたのは余談である。



ディートハルト皇太子とファリハ殿下は婚約した。

ディートハルト皇太子が蒼白な顔をして屋敷に来たが、アリサに、にこやかに「おめでとうございます。」と言われてしまい、うなだれて帰って行った。
あまりの不憫さにノアがおくると言い、皇太子と一緒に出かけて行った。
父が「甘いね。」と酒杯を片手に見送っていた。
父に大丈夫でしょうかと尋ねたが、
「どうしても手に入れたいのなら、相手を逃がさないよう、がっちり囲い込んで、国を相手にしても一歩も引かない態度でいかないと、手に入るものも入らないのだよ。ノアが見本を示したはずなんだけどねぇ。」とにこやかに返された。
・・・なかなかに厳しい世界なのですね。殿方は大変そうです。


ガリブ殿下とファリハ殿下は、皇国に1か月ほど滞在して国へと帰って行った。

その間、ディートハルト皇太子とノアはお守り役というか、接待担当にされ・・・ガリブ殿下と共に山や森へ軍事演習に行った。
・・・・帰ってきた際、今まで1つか2つしか持ってこなかった毛皮を.・・・山のように持って帰ってきた。
少年のように目を輝かせて獲物をどのように得たのか説明しはじめた彼らに、
「血なまぐさいので、ちょっと離れて頂けますか?」とキッパリ言ったファリハ殿下の背後に後光が見えた。
・・・ありがとうございます。この場にいる皆の心を代弁してくださって。
この人が国の王妃となったあかつきには、絶対に支持しようと思います。



帰る際、ザシャハール国に新婚旅行に来ることを約束された私とノア。
・・・ものすごくイヤな予感がするが・・断れない。
ノアと結婚できるのは嬉しいが、その日が来ることが少しでも先になることをちょっぴり願ってしまいました。
ノアがものすごく嬉しそうに楽しみですね、と言っているけれど・・ノア・・分かって言ってるのかしら?
行けば確実に見世物になること決定なのよ?
しかも妖精姫や妖精の騎士なんて恥ずかしい呼び名もついてくるなんて・・・。
ファリハ殿下にお会いできるのは嬉しいけれど・・葛藤が・・・。
隣で父がノアに妖精姫の人形は一番出来のいいものから買ってこいと、念を押しているのが聞こえる。
・・・父よ、娘に似た人形なんて欲しいのですか?

ディートハルト皇太子はしばらく元気がなく、ノアが何度かヤケ酒に付き合っていた。
友人である他の公爵家嫡男達は国中に散らばって仕事をしていたので、酒を飲んでくれる相手がノアしかいなかった様子。
・・・不憫だと思うのだが、アリサとは縁がなかったのだと思って諦めてほしい。
アリサにもそれとなく皇太子の事を聞いてみたのだが、
「え。いろいろ貰ってたのって、お土産なんじゃないんですか?
それにしても、あんな美人で聡明なお嫁さん貰えるなんて良かったですよね!
シエラ様とファリハ王女が二人並んでると、ものすごい至福でしたよ!
あぁ、皇太子と結婚したら、また屋敷に遊びに来てくださいますかねぇ。」
と、うっとりした顔で自分の世界へと旅立ってしまった。
・・・ディートハルト皇太子・・不憫すぎて涙が・・・。

そういえば他の公爵家の嫡男達とはどうなのだろう、とアリサに尋ねると、
「・・・実はですね、シエラ様。
私達、皆で公開処刑を見せられたのです。
私達がきっかけで人が死ぬのだから、最後まできちんと見るべきだと。
・・たくさんの人が首を切られてですね・・その、父だった人も、ですね。
その後以来、一度も会っていません。
本当は、会って謝るべきなんでしょうけど・・・。」と・・・小さい背中を更に小さくしてしまった。

そうなの・・・と、あまり思い出したくないであろうことを無理に思い出させてしまった、どう慰めの言葉を言えばいいのか分からず狼狽えていると、アリサがふぃと顔を上げて見つめてきた。

「シエラ様、私、とても悪いことをしたと思っています。
死んで罪を償おうとはじめは思っていました。
でも私、生きて罪を償うことを決めたんです。死んだ人の分まで。」
なにか吹っ切れた顔をしたアリサ。

「えぇ、・・えぇ、そうね。
死んでしまってはなにもできないものね。
苦しむことも、幸せになることも。
アリサ・・私も共犯者です。貴女の罪の半分は私が負いましょう。
だから、貴女もちゃんと自分の幸せを探すのよ?」
私の罪、アリサの罪。
もはや裁かれはしないであろうが、罪として心に残っている。
それでも幸せを願うことをやめることが出来ない。
生きていく為には希望が必要なのだから。

それを聞いたアリサは驚いた顔をしたが、「もぅ十分に幸せです。」と言い、ふふっと笑った。
「シエラ様の結婚式を見ることが私の幸せなので、全力で頑張らせていただきます。
楽しみですね。結婚式。」

「・・・・・・・そ、そうね。とても楽しみだわ。」
思ってた以上に逞しいアリサに、ちょっとばかりビックリしたが、まぁでも、楽しそうで安心した。



来月、私とノアは式を挙げる。
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