塩飴の倉庫 令嬢と護衛の話17 忍者ブログ
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とあるヒロインの懺悔



「シエラ様、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
夕食の後ソファーに座り読書をしていた私に、メイド長をしているマーサが声をかけてきた。

「えぇ、いいわよ?どうかしたのです?」
読んでいた本から顔をあげてマーサに返事をする。

「実はですね・・・。」
と、マーサは言いにくそうに話をきりだしてきた。


マーサの話によると、数日前に休日をもらって外出した後からアリサの様子がおかしいらしい。
眠れないのか目の下にクマができ、食事もほとんど食べないらしく、皆が心配して声をかけるが「ごめんなさい」としか言わないのだ、と。
年齢の近いシエラなら、もしかしたら聞き出せるかと想い、失礼を承知で相談に来たそうだ。

「そうなの・・私が聞いてみるわ。後でお茶をお願いしてもいいかしら?」
そう言い、アリサの部屋へと足を運んだ。


コンコン、とノックをするが返事がない。
「アリサ? いないの?」

中でガタン、と音がする。
「・・・シエラ・・様?」
カチリ、と扉の隙間からアリサが顔を出した。
泣いていたのか・・目元が赤い。
「入ってもいい?」ニコリと微笑んで、薄暗い室内へと体を滑らす。

「え・・と・・あの・・?」
どうしてシエラが部屋にやってきたのか意図がつかめずに狼狽えるアリサに、勝手にベッドに腰掛け灯りを灯したシエラは「まぁまぁ、座りなさいよ。」と、隣をポンポンと叩きながらアリサに声をかける。

「は・・はぃ・・?」不思議そうにしながら、それでも素直に座るアリサに屋敷には慣れたか、なにか不足なものはないか、と次々と質問を投げかける。
アリサは言葉をつっかえながらも、ふわりと笑って大丈夫です、皆、優しいと返してきた。

「・・ならどうして泣いているの?」
じっと目を見て問いかけると、アリサは大きく目を開いたあと・・苦しそうに顔をしかめた。


「この前、お母さんに会いに行ったんです・・・。」
しばらくしてアリサがぽつりと話はじめた。

アリサは語る。
母が男爵の手下であったこと。
耳となり王宮で働きながら情報を流していたこと。
稀にラノアの媚薬を客に渡す役目を負っていたこと。
自分が語ったゲームの内容が悪事を働く者には予言となり、その救けとなっていたこと。
シーリス男爵は本当の父ではなく、父は職場の同僚であったこと。
投獄され、やつれ果てた母はアリサに泣きながら謝ったのだと言う。


「・・・でも、本当に悪いのは・・私ですよね・・。」
ぽたりぽたりと涙が零れ落ちる。
「私がゲームだと思ったまま、いろんなこと話しちゃったから・・・。
だから・・たくさんの人を苦しめて、たくさんの人が死んだんですよね・・・。
・・・私・・このまま生きてていいんですかね・・あの時、処刑されとけば・・ううん・・そもそも産まれてこなければよかったのに・・・。」
嗚咽を含んだ声は震え、握りしめた手は真っ白になりながらアリサは続ける。
「ごめんなさい。シエラ様。何度謝っても足りないくらい申し訳ないことしたと思ってます。本当に・・本当に・・ごめんなさい・・。」

涙でぐちゃぐちゃの頬にそっと触ると、アリサはビクリと肩を震わせる。
「・・そう・・貴女はたくさんのことを覚えていたのね・・・・でも・・ごめんなさいね。私も貴女に謝らなくてはいけないわ。」
なにを言われたのか理解できていない顔をしたアリサに微笑みかけて言葉を続ける。

「私にも前世というのかしら、記憶があるのよ。えぇと・・なんていうタイトルだったかしら・・『王子様に囲まれて』?『学園で捕まえて』?ちょっと、よく覚えてないのだけれど、そんなタイトルの乙女ゲームの世界によく似ているのよね?」

驚きのあまり、目をまんまるにしたアリサが「え・・えと『王子様に捕らわれて-花園の陰で恋唄を-』です。」と訂正を入れる。


「そうそう、そういったタイトルだったわね。

・・・前世の私ね、末期がんだったのよ。
病室で寝てるしかない私に娘がゲームを勧めてくれたわ。
お母さん、暇でしょ?これでもやりなさいって。
ふふ、家からゲーム機運んでくれてね。主人公のコ、ちょっと私に似てるでしょ?だから私が幸せになるように頑張ってよねって笑いながら説明してくれたわ。
治療の合間にやっていたわ。でも、薬でぼんやりしながらだったからあまり内容を覚えていなくて・・。かろうじて覚えてるのは名前とか、ちょっとしたストーリーくらいなものだったのよ。
だから初めはずっと夢を見てるんだと思っていたわ。
薬のせいで変な夢みてるのねって思っていたのだけど、何日たっても夢からさめなくて・・。
・・・夢じゃないと気が付いたのは、王宮で母が毒に倒れた時よ。
・・私が、もっと早く現実だと気が付けば・・母はきっと死ななかったかもしれないわ。王妃も、ノアのお母様もね。」
つぅ・・と涙が頬を伝う。

「・・・私の・・私のせいで・・・。」

カタカタと震えるアリサを抱きしめながら言う。
「貴女のせいじゃない。たとえ貴女が何を教えたにしてもね?誰かが実行しなければ事は起こらなかったのよ。
それにね?アリサ、この世界はゲームと一緒じゃないわ。」

「え?」

「貴女のお父様がシーモア男爵ではなかったと言ったじゃない。それに私は学園追放ではなく処刑台送りだったでしょう?
たぶん・・なのだけどね?
あのゲームとよく似てる世界なのだと思うわ。
歴史も住んでいる人もよく似ている。だからゲームとよく似た出来事が起きる。けど、完全に一致はしないわ。
だって、皆、意志をもってこの世界に生きているのだから。皆、自分の意志で考えて行動してるのよ?だから違って当然なのよ。」

「・・違う?」

「えぇ・・違うわ。
だから、未来なんて誰も分からないわ。
予想は出来るかもしれない。でも、それなら対策すればいいだけの事でしょう?

・・・ねぇ、アリサ。お願いだから生きてくれないかしら。
私、娘に似ている貴女に死んで欲しくないのよ。
お願いだから・・私に娘の成長した姿を見せて頂戴?」
眼を見てゆっくりと話すと、アリサは大粒の涙をこぼしながら言う。

「い、生きてていいんですかね・・私。」

「えぇ、お願いだから生きて頂戴?
娘にシフォンケーキの焼き方を教える約束をしていたの・・でも、叶えられなかったわ。
代わりに叶えてもらえないかしら? アリサ。」
嗚咽を噛みしめて泣くアリサの背をポンポンと叩いたあと、スッと立ちあがり扉に近づく。

「それにね?貴女のことを心配している人はたくさんいるのよ?」
カチリと扉を開くと、そこに数人のメイドやお茶の配膳を持ったマーサが心配げにたたずんでいた。

「だから元気だして、いつもの笑顔を見せて頂戴?」
メイド達がアリサに話しかけるのを聴きながら、後はお願いね?とマーサに声をかけ、玄関へと急ぐ。父とノアが帰ってきたようで、なにやら騒がしい声が聞こえる。

私の居場所。
そう、彼女にも心から思える場所がいつか出来るといい・・そう思いながら。
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