とある隊員の報告

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『シーリス男爵を捜索しろ』

扉を勢いよく開けて入ってきた宰相は開口一番、こう告げた。

「アメリア・シーリスの経緯を調べろ。子ネズミが証拠を持ちだしたようだ。
シーリス男爵の館捜索には第一隊を使え！
第二隊は周囲を包囲。
関連性のある場所も閉鎖させろ。
ネズミ一匹逃すな！
それから貴族共には気取られるな！！　いいな！」





シーリス男爵の館に突入した隊員たちは、そこで地獄ともいえる光景を目にすることになる。
巧妙に隠された地下への扉の向こうには、鎖に繋がれた娘たちが口から泡を吹き、わめきちらしながらも苦しみもがく姿が溢れ、部屋の隅に放置された遺骸の山に、たまらずに吐き出す者が続出した。

シーリス男爵は、寝室の奥に隠された部屋の隅で発見された。
豚のように肥え太ったシーリス男爵は、「あの娘は、このことを教えなかったぞ！あの役立たずめっ！！なんの為に引き取ってやったと思っている！」と口角泡を飛ばしながら、罵りの言葉と共に捕縛された。

館の地下室には、薬の製造工場と思われる部屋があり、異様な臭気に包まれていた。
そこで働いていた幽鬼のような人達は、隊員たちの呼びかけにも一切反応せず、黙々と同じ作業を繰り返しており、捕縛された後、しばらくすると狂ったように苦しみはじめた。
苦しみはじめて、数時間後、糸が切れたようにこと切れる者がほとんどであった。



投獄後、シーリス男爵は頑なに口を開こうとはしなかったが、書斎の暖炉裏に隠された顧客名簿を前に口を割らざるえなくなった。
王妃殺害を裏で指示していたのは、やはりシーリス男爵であった。
賢妃として名高い王妃は、裏ではびこる貴族の闇を嫌悪し、排除しようとしていたのが目障りだったようだ。
お茶会に参加していたのが、同じように目障りであったラドシール公爵の妻子であったことも殺害を決行させた要因だとも供述した。



【隊士報告書より一部抜粋】

王妃が殺害された際、徹底した調査が行われたが、王への報告は改ざんや手抜き、隠ぺいが見られ、王宮内部に多くの反乱分子がいることが判明した。
当初、犯行に使われたシアルモア毒そのものが、元々希少と呼ばれるもので犯人への糸口は簡単に見つかるかと思われたにも関わらず、代わりに集まったのは、ラノアの媚薬と呼ばれる薬のことばかりであった。
王宮の薬剤師が、ラノアの媚薬とシアルモア毒を調べたところ、ラノアの媚薬はシアルモア毒の毒性を極端に薄め、意識白濁、快楽を高める作用があり、依存性が高い、という、シアルモア毒より派生した薬だということが判明した。
毒性を極端に薄めたとはいえ、毒は毒。
服用者は食欲の減退、全身の倦怠感、意識が薄弱になるという症状がでて、最後は幽鬼のような姿になり死に至るという悪辣な薬であった。が、依存性の高さ故に辞めきれずにずるずると服用を繰り返してしまうらしい。

ラノアの媚薬は主に貴族の間で流通されており、反乱分子と目された多くの者が服用していたことが判明した。
反乱分子とラノアの媚薬との関連性を見出した後、執拗な粛清を行うが捕まるのは枝葉の者ばかりで、大元がどうしても捕まらなかった。
逮捕者の供述によると、先見と呼ばれる預言者が、物事を先に教えてくれるらしい。
眉唾ものだと思われたが、実際にそうだと思うしかないほどに、こちらの行動は阻害された。

ラノアの媚薬はその危険性が問題視され、国王の命により服用の禁止、所持も逮捕の対象となる旨が国内に通告された。


粛清の際、最も執拗、且つ苛烈に行動したのが当時、執務室付き文官であったアルベルト・カーライルである。
彼は己の妻をシアルモア毒によって殺され、寝食を忘れるほどにこの事件を追い求めた。
粛清された反乱分子のほとんどが貴族だった為、アルベルト・カーライルは多くの恨みを買い、多数の刺客を差し向けられることになる。
しかしながら、同じようにシアルモア毒によって妻を亡くしたラドシール公爵の助力を持って、彼は着実に反乱分子を排除していく。
十数年あまり反乱分子を排除していくうちに彼は宰相職へとのぼりつめるが、
本人は「そのせいで息子と一緒に暮らせなくなったのは痛かったです」と言って笑うばかりであった。