後悔しない為に
5月。
だらだらと身支度を整えて仕事へと出かける。
ぐぅ、と腹の虫が鳴るが、なにも食べる気がしないのでそのままだ。
あぁ、なんか楽しいことないかな。
満員電車の窓から見えた空が青い。
どうしよう。
これって現実?
夢とかじゃないよね!?
願望が上限突破して幻も見るようになっちゃった?俺。
何度瞬きしても、腕をつねったりしても目の前にいるあいつの姿は消えなくて、嬉しさと衝撃と混乱で脳味噌パーンってなって、あいつを見つめることしかできなかった。
9名の新人研修の中にあいつがいた。
「東北支店から来ました。佐藤 翠です。
一週間ご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします。」
綺麗にお辞儀をしたあいつと目が合う。
驚きに見開かれた目を見つめながら、あ、やっぱ俺、まだ寝てるんだな、と思った。
こんなラッキーなの現実な訳がない。
夢・・・夢ならいいかな。
ふらふらと自分の席から立ち上がり、あいつの前に立つ。
「小林 総一郎。営業一部所属。26歳。
貴女のことが大好きです。結婚を前提につきあって下さい。」
手を差し出したところで、後ろからスパーンッ!と頭を叩かれた。
「新人を口説くな!口説くなら仕事が終わってからにしろ。」
上司に叩かれた衝撃で、周りの音が聞こえるようになった。
え?現実?
え?夢じゃないの!?
気がつけば目の前にいたあいつはいなくなってて、代わりに見慣れたノートPCの画面があった。
無意識に仕事してた様子。
あれ?俺、白昼夢見てた?
・・・・俺、疲れてんのかな。
ぼんやりしながら機械的に文字を入力していると、12時になったらしく隣の同僚に飯だとせかされて、慌てて保存のキーを押す。
「ほれ。弁当奢ってやるから、愛しのミドリちゃんと話してこい。」
と、押されて入ったのはミーティングや商談に使う小さな個室。
個室の中には顔を真っ赤にしたあいつがいて、「お久しぶりです。」とか、「あんな大勢の前で告白とかバカですか。」とか、「あれから散々、みなさんに質問されて大変だったんですからね。」とか言ってプリプリ怒ってた。
可愛い。
幸せを噛みしめながらあいつの顔を見てると、あいつが心配そうに「こんなに痩せちゃって・・どうしちゃったんですか。」と、手を伸ばしてきたので、その手を握りしめて「結婚してくれ。翠。」と言ってしまった。
顔を真っ赤にして固まった翠。
ようやく硬直から治った翠は「なんなんですかっ、本当、なんなんですかっ、だいたいですねっ、貴方があんなメールなんて送るからいけないんですよ。もぅ2 度と会えることないとか思ってたのにこんな所で再会とか、衝撃的すぎてどうしていいのかわかんないのに、いきなり、こっ、告白とか、プ、プロポーズと かっっ。もうっ、私、訳分かんないですよっ、本当、なんなんですか貴方はっ、どうでもいいからご飯食べなさいよ、こんなに頬とかこけてるなんて信じられな いですよっ、バカーーっ。」
ゼィゼィと、肩で息をしながら涙目で見上げてきた翠。
可愛い。
翠にせかされて食べた弁当は・・・久々に味がした。
神様はいたんだ、と感謝をしながら午後の仕事を終え、翠を捕まえに行こうとする前に同僚達に捕まった。
「新人達の歓迎会すっぞ!安心しろ!!お前の愛しのミドリちゃんはちゃんとお前の隣の席にするからっ。」
そう言われて連れて行かれた先で俺は地獄を見た。
「こいつ、ミドリちゃんにひと目惚れして半年もコンビニ通ってたんだ。一歩間違ったらストーカーだよな。」
「ようやく告白してつき合ったから、紹介して貰おうと思ったら減るからダメ。見るなって言って、全然紹介してくれないんでやんの。」
「そしたら突然いなくなったとか言って、もぅこの世の終わりみたいな顔して会社来やがるし、俺らがどんだけ気をつかったことか!」
「ほっとんど飯も食わなくなったし、いやぁ、ミドリちゃん、頼むからこいつのこと見捨てないでやって?これでも出世株でウチの会社の超お得商品だよ。」
肩をバシバシ叩かれながらバラされた。
ついでとばかりに春の花見の席で号泣したこともバラされた・・・死にたい。
あれは・・・あれはあまり思い出したくない。
ハラハラと舞い散る桜を眺めながら、翠と一緒に見たかったなとか、春になったら弁当持って公園デートとかしたかったな、とか思ってたんだよね、感傷にふ けってるところに、あの女(くそっ、思い出すだけでも腹のたつ。こいつがあんなアドバイスなんてしやがるから翠がいなくなったのに)が「総一郎くぅ~ん。 飲んでるぅ~?日本酒おいしいよぉ?一緒にぃ、のもぉ?」と嫌に間延びしたしゃべり方で、酒を片手に隣に座ろうとするのだから、思わず「あんたのアドバイ スのせいで翠がいなくなった。あんたの顔も見たくない。」と口走ってしまった。
そしたら「ひっどぉぉ~いっ。なにそれ?ひどくないっ?超傷ついたんですけどぉ?せっかぁく、この私が可哀そうな総一郎君を慰めてあげよぅと思って声かけたのにぃ、マジひどくなぃ?」と大声で言いやがった。
まぁまぁ二人とも落ち着いて、と周囲の人に事情を聞かれている内に現実に打ちのめされて号泣しただけだ・・・。
・・・俺も酔ってたんだ・・・。
2人の子持ちでベテラン総務の主任女史に「バカねぇ、なんでこんな人にアドバイスなんて求めるのよ。短いスパンで別れるのって、恋多い訳じゃなくて長く続かないって証拠じゃないの。」という言葉にも追い打ちをかけられた。
あぁぁ・・あの花見は最悪だった。
次の日、会社の皆が優しくなってた。
あれからいろんな人に飴とか貰うようになった・・・穴があったら埋まりたい。
なにもかもバラされて打ちひしがれてる俺の横で、翠が顔を真っ赤にしながら同僚の話を聞いてた。
どうしよう、可愛い。
歓迎会早く終わらないかな。
長かった送迎会が終わって金の計算してると、翠につんつん、とつつかれた。
やばい、なんだこれ、くっそ可愛いなっ!と内心もだえてると小さくたたまれた紙を渡される。
「前の携帯・・・引っ越しの時に姪っこにジュースで洗われたの・・・。これ・・あの・・新しいアドレスだから。その・・ごめんね。連絡取れなくなって。」
うつむいてて顔が見れなかったけど、耳まで真っ赤になってる翠。
アドレスっっ。
慌てて自分の携帯を取り出して赤外線通信をする。
いやまて・・アドレスだけじゃ足りない。
実家とかアパートとか全部聞いとかなくちゃ。
思いつく限りを質問して手帳に書き込んでいくと、隣にいた同僚に頭をしばかれる。
「どうどうどう。落ち着けっ。ミドリちゃん研修でまだいるからっ。」
あぁぁ・・・研修一週間なんだよな。
なんとかして指導員になれたりしないのかな・・・。
その後、同僚に引きずられるようにして家路についた。
翠と話したかったのにっ、と抗議したら「性犯罪を阻止しただけだ。」と言われた。
・・・まぁ・・うん、止めてくれて助かった・・確かにちょっと理性吹っ飛んでた。
翌日の昼休み。
翠に俺の履歴書というか、釣書というか・・・そういったものを書類にして渡した。
翠のことを知りたい。
俺の事も知ってほしい。
そう考えての行動だ。
もぅ2度と同じヘマはしない。
だらだらと身支度を整えて仕事へと出かける。
ぐぅ、と腹の虫が鳴るが、なにも食べる気がしないのでそのままだ。
あぁ、なんか楽しいことないかな。
満員電車の窓から見えた空が青い。
どうしよう。
これって現実?
夢とかじゃないよね!?
願望が上限突破して幻も見るようになっちゃった?俺。
何度瞬きしても、腕をつねったりしても目の前にいるあいつの姿は消えなくて、嬉しさと衝撃と混乱で脳味噌パーンってなって、あいつを見つめることしかできなかった。
9名の新人研修の中にあいつがいた。
「東北支店から来ました。佐藤 翠です。
一週間ご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします。」
綺麗にお辞儀をしたあいつと目が合う。
驚きに見開かれた目を見つめながら、あ、やっぱ俺、まだ寝てるんだな、と思った。
こんなラッキーなの現実な訳がない。
夢・・・夢ならいいかな。
ふらふらと自分の席から立ち上がり、あいつの前に立つ。
「小林 総一郎。営業一部所属。26歳。
貴女のことが大好きです。結婚を前提につきあって下さい。」
手を差し出したところで、後ろからスパーンッ!と頭を叩かれた。
「新人を口説くな!口説くなら仕事が終わってからにしろ。」
上司に叩かれた衝撃で、周りの音が聞こえるようになった。
え?現実?
え?夢じゃないの!?
気がつけば目の前にいたあいつはいなくなってて、代わりに見慣れたノートPCの画面があった。
無意識に仕事してた様子。
あれ?俺、白昼夢見てた?
・・・・俺、疲れてんのかな。
ぼんやりしながら機械的に文字を入力していると、12時になったらしく隣の同僚に飯だとせかされて、慌てて保存のキーを押す。
「ほれ。弁当奢ってやるから、愛しのミドリちゃんと話してこい。」
と、押されて入ったのはミーティングや商談に使う小さな個室。
個室の中には顔を真っ赤にしたあいつがいて、「お久しぶりです。」とか、「あんな大勢の前で告白とかバカですか。」とか、「あれから散々、みなさんに質問されて大変だったんですからね。」とか言ってプリプリ怒ってた。
可愛い。
幸せを噛みしめながらあいつの顔を見てると、あいつが心配そうに「こんなに痩せちゃって・・どうしちゃったんですか。」と、手を伸ばしてきたので、その手を握りしめて「結婚してくれ。翠。」と言ってしまった。
顔を真っ赤にして固まった翠。
ようやく硬直から治った翠は「なんなんですかっ、本当、なんなんですかっ、だいたいですねっ、貴方があんなメールなんて送るからいけないんですよ。もぅ2 度と会えることないとか思ってたのにこんな所で再会とか、衝撃的すぎてどうしていいのかわかんないのに、いきなり、こっ、告白とか、プ、プロポーズと かっっ。もうっ、私、訳分かんないですよっ、本当、なんなんですか貴方はっ、どうでもいいからご飯食べなさいよ、こんなに頬とかこけてるなんて信じられな いですよっ、バカーーっ。」
ゼィゼィと、肩で息をしながら涙目で見上げてきた翠。
可愛い。
翠にせかされて食べた弁当は・・・久々に味がした。
神様はいたんだ、と感謝をしながら午後の仕事を終え、翠を捕まえに行こうとする前に同僚達に捕まった。
「新人達の歓迎会すっぞ!安心しろ!!お前の愛しのミドリちゃんはちゃんとお前の隣の席にするからっ。」
そう言われて連れて行かれた先で俺は地獄を見た。
「こいつ、ミドリちゃんにひと目惚れして半年もコンビニ通ってたんだ。一歩間違ったらストーカーだよな。」
「ようやく告白してつき合ったから、紹介して貰おうと思ったら減るからダメ。見るなって言って、全然紹介してくれないんでやんの。」
「そしたら突然いなくなったとか言って、もぅこの世の終わりみたいな顔して会社来やがるし、俺らがどんだけ気をつかったことか!」
「ほっとんど飯も食わなくなったし、いやぁ、ミドリちゃん、頼むからこいつのこと見捨てないでやって?これでも出世株でウチの会社の超お得商品だよ。」
肩をバシバシ叩かれながらバラされた。
ついでとばかりに春の花見の席で号泣したこともバラされた・・・死にたい。
あれは・・・あれはあまり思い出したくない。
ハラハラと舞い散る桜を眺めながら、翠と一緒に見たかったなとか、春になったら弁当持って公園デートとかしたかったな、とか思ってたんだよね、感傷にふ けってるところに、あの女(くそっ、思い出すだけでも腹のたつ。こいつがあんなアドバイスなんてしやがるから翠がいなくなったのに)が「総一郎くぅ~ん。 飲んでるぅ~?日本酒おいしいよぉ?一緒にぃ、のもぉ?」と嫌に間延びしたしゃべり方で、酒を片手に隣に座ろうとするのだから、思わず「あんたのアドバイ スのせいで翠がいなくなった。あんたの顔も見たくない。」と口走ってしまった。
そしたら「ひっどぉぉ~いっ。なにそれ?ひどくないっ?超傷ついたんですけどぉ?せっかぁく、この私が可哀そうな総一郎君を慰めてあげよぅと思って声かけたのにぃ、マジひどくなぃ?」と大声で言いやがった。
まぁまぁ二人とも落ち着いて、と周囲の人に事情を聞かれている内に現実に打ちのめされて号泣しただけだ・・・。
・・・俺も酔ってたんだ・・・。
2人の子持ちでベテラン総務の主任女史に「バカねぇ、なんでこんな人にアドバイスなんて求めるのよ。短いスパンで別れるのって、恋多い訳じゃなくて長く続かないって証拠じゃないの。」という言葉にも追い打ちをかけられた。
あぁぁ・・あの花見は最悪だった。
次の日、会社の皆が優しくなってた。
あれからいろんな人に飴とか貰うようになった・・・穴があったら埋まりたい。
なにもかもバラされて打ちひしがれてる俺の横で、翠が顔を真っ赤にしながら同僚の話を聞いてた。
どうしよう、可愛い。
歓迎会早く終わらないかな。
長かった送迎会が終わって金の計算してると、翠につんつん、とつつかれた。
やばい、なんだこれ、くっそ可愛いなっ!と内心もだえてると小さくたたまれた紙を渡される。
「前の携帯・・・引っ越しの時に姪っこにジュースで洗われたの・・・。これ・・あの・・新しいアドレスだから。その・・ごめんね。連絡取れなくなって。」
うつむいてて顔が見れなかったけど、耳まで真っ赤になってる翠。
アドレスっっ。
慌てて自分の携帯を取り出して赤外線通信をする。
いやまて・・アドレスだけじゃ足りない。
実家とかアパートとか全部聞いとかなくちゃ。
思いつく限りを質問して手帳に書き込んでいくと、隣にいた同僚に頭をしばかれる。
「どうどうどう。落ち着けっ。ミドリちゃん研修でまだいるからっ。」
あぁぁ・・・研修一週間なんだよな。
なんとかして指導員になれたりしないのかな・・・。
その後、同僚に引きずられるようにして家路についた。
翠と話したかったのにっ、と抗議したら「性犯罪を阻止しただけだ。」と言われた。
・・・まぁ・・うん、止めてくれて助かった・・確かにちょっと理性吹っ飛んでた。
翌日の昼休み。
翠に俺の履歴書というか、釣書というか・・・そういったものを書類にして渡した。
翠のことを知りたい。
俺の事も知ってほしい。
そう考えての行動だ。
もぅ2度と同じヘマはしない。
PR
この記事へのコメント
プロフィール
HN:
塩飴
性別:
非公開
自己紹介:
日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
最新記事
P R