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5月だけど炬燵は片付けない
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アパートに着いて炬燵に入って暖をとる。
コーヒーを渡しながら、タブレットを見せて質問する。
「このメールを送ってきた人たちって会社の人?お友達になった方がいいのかな?」
メールにどんどん来るのだけど、見覚えのない名前だし、メールの内容も意味不明でどう返事していいのか分からなくて困っていたのだ。
「誰だ?」
眉をしかめて総一郎さんがタブレットの画面を確認する。
「・・・これは・・なりすましメールだな。」
なりすまし?と聞き返すと、「あぁ、出会い系サイトとかに誘導して金とろうとするメールだ。」と、総一郎さんはそれらのメールをポチポチ削除していく。
「キリがないな。翠、捨ててもいいフリーメール持ってないか?」
・・・名前呼び、な、慣れないな。
「えっと、携帯と、ソレと、会社のだけよ?」
「わかった。適当に作る。」そう言って鞄の中から小さなキーボードを取り出してポチポチ打ち出した。
大きな手にすっぽり埋まるようなキーボードをちまちま打ってる姿が、ちょっと可愛いと思う。
「あと、グチッターとブログやらないかって、会社のコに誘われてるんだけど楽しいのかな。」
「グチッターは勧めないかな。以前、同僚が飲み屋で写真つきでグチったら、元カノが飲み屋を特定してな。飲み屋の前でケンカを始められて困った。他の女性 の同僚もストーカーにつきまとわれて警察沙汰になったし。ブログは日記代わりにやってもいいが、パスワード制か、検索避けは入れてくれ。入れておかないと 写真なりデータなりが簡単にネットに流れるから、一度流れると回収できない。」
「なにそれ・・怖いね。でも、誰も私のことなんてわざわざ探さないだろうし、大丈夫でしょ。」
画面から顔をあげた総一郎さんは真剣な顔をして「なにを言う。俺は翠は可愛いと思うし、ストーカーがつきそうで怖い。それに、なにかあったらすぐに救けに来れる距離じゃないから用心に用心を重ねるべきだ。」と言う。
え~・・・。
怪訝そうな顔をしたのが分かったのだろう、総一郎さんが続けて「顔写真、名前、年齢、職業、住所、行動、友人、家族、その他諸々ネットには載せないように。」と約束させられた。
絶対だ、と指切りまでされた。
「あとこれ、翠の誕生日だろう?パスワード。それも替えておけ?すぐバレるぞ。あと自撮のアイコンもNGだ。」と、コーヒーの入ったマグカップをパシャリと撮る。
・・・えぇぇ?なんだかもぅ、面倒くさいなぁ。
返されたタブレットを手に禁止事項を確認してると、「翠、これとかどうだ?一緒に冒険できる。」とゲームを紹介してくれた。
キャラクターが可愛いのと操作が簡単なので承諾すると、一緒にアバターを決める。
髪の毛は白、目は紫が可愛いかな。なんとなくウサギっぽくて。
名前はどうしよう。
本棚を見渡してお気に入りの小説を眺める。
そうだなぁ、シエラにしよう。
総一郎さんは茶色い犬っぽい感じのアバターにしてた。
「ウチで昔飼ってた犬に似せてみた。」と、ニコリと笑う。
ふへへ。ゲームかぁ。楽しみだなぁ。
コーヒーを渡しながら、タブレットを見せて質問する。
「このメールを送ってきた人たちって会社の人?お友達になった方がいいのかな?」
メールにどんどん来るのだけど、見覚えのない名前だし、メールの内容も意味不明でどう返事していいのか分からなくて困っていたのだ。
「誰だ?」
眉をしかめて総一郎さんがタブレットの画面を確認する。
「・・・これは・・なりすましメールだな。」
なりすまし?と聞き返すと、「あぁ、出会い系サイトとかに誘導して金とろうとするメールだ。」と、総一郎さんはそれらのメールをポチポチ削除していく。
「キリがないな。翠、捨ててもいいフリーメール持ってないか?」
・・・名前呼び、な、慣れないな。
「えっと、携帯と、ソレと、会社のだけよ?」
「わかった。適当に作る。」そう言って鞄の中から小さなキーボードを取り出してポチポチ打ち出した。
大きな手にすっぽり埋まるようなキーボードをちまちま打ってる姿が、ちょっと可愛いと思う。
「あと、グチッターとブログやらないかって、会社のコに誘われてるんだけど楽しいのかな。」
「グチッターは勧めないかな。以前、同僚が飲み屋で写真つきでグチったら、元カノが飲み屋を特定してな。飲み屋の前でケンカを始められて困った。他の女性 の同僚もストーカーにつきまとわれて警察沙汰になったし。ブログは日記代わりにやってもいいが、パスワード制か、検索避けは入れてくれ。入れておかないと 写真なりデータなりが簡単にネットに流れるから、一度流れると回収できない。」
「なにそれ・・怖いね。でも、誰も私のことなんてわざわざ探さないだろうし、大丈夫でしょ。」
画面から顔をあげた総一郎さんは真剣な顔をして「なにを言う。俺は翠は可愛いと思うし、ストーカーがつきそうで怖い。それに、なにかあったらすぐに救けに来れる距離じゃないから用心に用心を重ねるべきだ。」と言う。
え~・・・。
怪訝そうな顔をしたのが分かったのだろう、総一郎さんが続けて「顔写真、名前、年齢、職業、住所、行動、友人、家族、その他諸々ネットには載せないように。」と約束させられた。
絶対だ、と指切りまでされた。
「あとこれ、翠の誕生日だろう?パスワード。それも替えておけ?すぐバレるぞ。あと自撮のアイコンもNGだ。」と、コーヒーの入ったマグカップをパシャリと撮る。
・・・えぇぇ?なんだかもぅ、面倒くさいなぁ。
返されたタブレットを手に禁止事項を確認してると、「翠、これとかどうだ?一緒に冒険できる。」とゲームを紹介してくれた。
キャラクターが可愛いのと操作が簡単なので承諾すると、一緒にアバターを決める。
髪の毛は白、目は紫が可愛いかな。なんとなくウサギっぽくて。
名前はどうしよう。
本棚を見渡してお気に入りの小説を眺める。
そうだなぁ、シエラにしよう。
総一郎さんは茶色い犬っぽい感じのアバターにしてた。
「ウチで昔飼ってた犬に似せてみた。」と、ニコリと笑う。
ふへへ。ゲームかぁ。楽しみだなぁ。
********************************************************
総一郎「ほれ、土産のずんだ餅。」
同僚「なに?ミドリちゃんとこ行ってきたの!?新幹線で?」
総一郎「あぁ、来週もそうするって言ったら翠がすごい怒ってな。今、安い夜行バス探してるとこ。」
同僚「うはぁ・・よぅやるわ。ところでミドリちゃんのRAIN、僕拒否られてんだけど。」
総一郎「当たり前だ。ブロックしてきたからな。」
同僚「心せまっ、せまいよっ、小林君。」
総一郎「ついでにあの女のもブロックしてきた。いつの間にか入ってたからな。」
同僚「なに?ミドリちゃんとこ行ってきたの!?新幹線で?」
総一郎「あぁ、来週もそうするって言ったら翠がすごい怒ってな。今、安い夜行バス探してるとこ。」
同僚「うはぁ・・よぅやるわ。ところでミドリちゃんのRAIN、僕拒否られてんだけど。」
総一郎「当たり前だ。ブロックしてきたからな。」
同僚「心せまっ、せまいよっ、小林君。」
総一郎「ついでにあの女のもブロックしてきた。いつの間にか入ってたからな。」
その男、バカ真面目
新幹線でやってきた総一郎さん。
「翠、会いたかった。」
そう言って駅構内で抱きしめてきた。
ちょっ、人っ、周りに人がいるからっっ、やーーめーーてーーっ。
あわてて引き離そうとしたけど、体格差がありすぎて微動だにしない・・・。
総一郎さん、背おっきいし、でかい。
でも骨格が綺麗だからスラっとしてる。
コンビニで買い物してる時から思ってたんだけど、どんな服着ても似合いそう。
いや、うん、スーツ姿しか見たことないんですけどね。
ほとんどのお客さんが無言の中、毎回「ありがとう」って言ってくれる総一郎さんの好感度はバツグンだった。
強面さんなのに「ありがとう」って言っちゃう!
そのギャップがいい。
・・・・すいません。現実逃避してました。
だって離してくれないんだもの。
「ん。満足。」
たっぷり5分ほど抱きしめられてたんじゃないかな・・ようやく離してくれた頃には私、口から魂出てた。
「どうして急に来たんです?なにか用事ですか?」疑問を口にのせる。
「翠のご両親に挨拶しに行こうと思って。」ニコリと総一郎さんが答えた。
「え。」
・・・私の両親は震災でいなくなってしまった。
大学進学の為に他県にいた私と、転勤でいなかった兄夫婦は無事だったけど、両親は飼い犬のポンタと黒猫のクロタと一緒に家ともろとも消えてしまった。
大学を休学してあちこち探しまくったけど、アルバムとかそういった物も見つけることもできなかった。
今、墓の中にあるのは震災の前に家族で写した家族写真を焼き増ししたもの。
たったそれだけが私の両親がいたという証拠になってしまった。
「翠を俺にくださいって、お願いしに来たんだ。」
にこにこと笑う総一郎さんを見てると・・・なんかもぅ、なんと言っていいのか分からなくなる。
・・・バカだなぁ、この人。バカがつくくらいに真面目だ。
「・・・ありがとう。きっと喜ぶ。」
泣き顔を見られたくなくて、ついつい下を見てしまう。
でも、車で行かないと行けない距離だよ?と言うとレンタカー借りようって。
えっと・・新幹線でウン万円レンタカー代で・・えっと・・・この人、いくら使う気!?
あわてて兄に電話して車を借りていいか尋ねる。
用事ないから別にいいよって返事だったので、兄のアパートまで一緒に行くことにした。
着いてから気が付いたんだけど、私、家族に恋人を紹介しなくちゃいけないんじゃない!?
え。ちょっと待って、いきなりハードル高い。
兄夫婦のアパートの前で固まってると、総一郎さんが「ここ?」とドアフォン押してしまった。
「はいはーい。翠ちゃん~?」と扉を開いたのは義姉さん。
総一郎さんはにこりと「こんにちは。はじめまして。翠さんとお付き合いさせていただいております。小林 総一郎と申します。」と挨拶をする。
ピシリと固まった義姉さんは、数秒後、「きゃぁぁ、葵君っ、葵君っ、翠ちゃんが彼氏連れてきたよっっ!」と部屋の中へ駆けて行った。
お兄ちゃんもビックリした顔で出てきて、立ち話もなんだしと中に入ることになった。
そこからは・・まぁ、総一郎さんの独壇場でして・・・。
この人って、営業でいい成績出してるっていうのは本当なんですね、と実感しました。
その間、私は現実逃避に凛ちゃんとお手てつないでをして遊んでました。
聞こえなーい。なーんも聞こえなーい。
なんか理解しちゃったら口から砂吐けそうなんだもの。なーんも聞こえなーい。
なんとか話が終わって車で墓へと向かう。
あ、運転は総一郎さんがやってくれました。
私はナビです。っていってもタブレット持ってただけだけど。
「すごいねぇ、いろんな機能があるんだねぇ」と感心してたら「好きなゲームでも入れたらいいよ。」と言われた。
「え、でも、備品でしょ?」と尋ねると「いや?俺が翠にあげたものだよ?」と言われて混乱する。
「こんな高いの貰えないよ!」と返そうとするが、「翠ごと貰うから問題ないよ。」言われてしまう。
ちょっ・・・なんなの・・・誰か助けて・・・父さん、母さん・・・私、私・・心臓がもたないよ。
ようやく墓に到着する。
途中で買ってきた花と線香を供えて、両親に手を合わせる。
お父さん、お母さん、私、この人と幸せになるからね。
だから、どうか安心して眠ってね。
「翠、会いたかった。」
そう言って駅構内で抱きしめてきた。
ちょっ、人っ、周りに人がいるからっっ、やーーめーーてーーっ。
あわてて引き離そうとしたけど、体格差がありすぎて微動だにしない・・・。
総一郎さん、背おっきいし、でかい。
でも骨格が綺麗だからスラっとしてる。
コンビニで買い物してる時から思ってたんだけど、どんな服着ても似合いそう。
いや、うん、スーツ姿しか見たことないんですけどね。
ほとんどのお客さんが無言の中、毎回「ありがとう」って言ってくれる総一郎さんの好感度はバツグンだった。
強面さんなのに「ありがとう」って言っちゃう!
そのギャップがいい。
・・・・すいません。現実逃避してました。
だって離してくれないんだもの。
「ん。満足。」
たっぷり5分ほど抱きしめられてたんじゃないかな・・ようやく離してくれた頃には私、口から魂出てた。
「どうして急に来たんです?なにか用事ですか?」疑問を口にのせる。
「翠のご両親に挨拶しに行こうと思って。」ニコリと総一郎さんが答えた。
「え。」
・・・私の両親は震災でいなくなってしまった。
大学進学の為に他県にいた私と、転勤でいなかった兄夫婦は無事だったけど、両親は飼い犬のポンタと黒猫のクロタと一緒に家ともろとも消えてしまった。
大学を休学してあちこち探しまくったけど、アルバムとかそういった物も見つけることもできなかった。
今、墓の中にあるのは震災の前に家族で写した家族写真を焼き増ししたもの。
たったそれだけが私の両親がいたという証拠になってしまった。
「翠を俺にくださいって、お願いしに来たんだ。」
にこにこと笑う総一郎さんを見てると・・・なんかもぅ、なんと言っていいのか分からなくなる。
・・・バカだなぁ、この人。バカがつくくらいに真面目だ。
「・・・ありがとう。きっと喜ぶ。」
泣き顔を見られたくなくて、ついつい下を見てしまう。
でも、車で行かないと行けない距離だよ?と言うとレンタカー借りようって。
えっと・・新幹線でウン万円レンタカー代で・・えっと・・・この人、いくら使う気!?
あわてて兄に電話して車を借りていいか尋ねる。
用事ないから別にいいよって返事だったので、兄のアパートまで一緒に行くことにした。
着いてから気が付いたんだけど、私、家族に恋人を紹介しなくちゃいけないんじゃない!?
え。ちょっと待って、いきなりハードル高い。
兄夫婦のアパートの前で固まってると、総一郎さんが「ここ?」とドアフォン押してしまった。
「はいはーい。翠ちゃん~?」と扉を開いたのは義姉さん。
総一郎さんはにこりと「こんにちは。はじめまして。翠さんとお付き合いさせていただいております。小林 総一郎と申します。」と挨拶をする。
ピシリと固まった義姉さんは、数秒後、「きゃぁぁ、葵君っ、葵君っ、翠ちゃんが彼氏連れてきたよっっ!」と部屋の中へ駆けて行った。
お兄ちゃんもビックリした顔で出てきて、立ち話もなんだしと中に入ることになった。
そこからは・・まぁ、総一郎さんの独壇場でして・・・。
この人って、営業でいい成績出してるっていうのは本当なんですね、と実感しました。
その間、私は現実逃避に凛ちゃんとお手てつないでをして遊んでました。
聞こえなーい。なーんも聞こえなーい。
なんか理解しちゃったら口から砂吐けそうなんだもの。なーんも聞こえなーい。
なんとか話が終わって車で墓へと向かう。
あ、運転は総一郎さんがやってくれました。
私はナビです。っていってもタブレット持ってただけだけど。
「すごいねぇ、いろんな機能があるんだねぇ」と感心してたら「好きなゲームでも入れたらいいよ。」と言われた。
「え、でも、備品でしょ?」と尋ねると「いや?俺が翠にあげたものだよ?」と言われて混乱する。
「こんな高いの貰えないよ!」と返そうとするが、「翠ごと貰うから問題ないよ。」言われてしまう。
ちょっ・・・なんなの・・・誰か助けて・・・父さん、母さん・・・私、私・・心臓がもたないよ。
ようやく墓に到着する。
途中で買ってきた花と線香を供えて、両親に手を合わせる。
お父さん、お母さん、私、この人と幸せになるからね。
だから、どうか安心して眠ってね。
彼女の引っ越しやその他の事情
私の代りに泣いてよって言ったけどさ・・・ぽつぽつと降り始めた雨はすぐに豪雨になって、アパートに帰り着く頃には、ぐっしょりの濡れ鼠になった。
これがゲリラ豪雨ってやつか・・・都会って怖い。
肌に張り付いて脱ぎにくい服をどうにか剥いで、シャワーを浴びてると悲しくなって泣いた。
気が済むまでわんわん泣いたらなんかスッキリした。
長く風呂に浸かってたせいで指はしわしわ、目も腫れぼったいけど。
冷蔵庫から牛乳をラッパ飲みして一息つく。
「よっし、引っ越し頑張るぞ!」
押入れの奥にたたんであった段ボールを組みたてる。
大学入学の時に引っ越してきた時のだから、うっすらホコリがついてる段ボールだけど使えるからいいんだ。
服に、本に、食器道具、食品・・は限りなく減らしてたから大丈夫。
TVは引っ越し屋業者が梱包材持ってくるって言ってたからいいとして、冷蔵庫と洗濯機は備え付けのものだから問題ない。
布団は朝、圧縮袋に入れるとして・・ついでにカーテンも入れて圧縮しよう。
粗方の物を段ボールに入れるとあまりにもガランとした部屋に呆然となる。
大学の思い出の品ってものもほとんどないし、元々物欲もすくないから物もあまりない。
写真も・・・あまり好きじゃなくて撮ってない。
・・・一枚くらい思い出に撮っておくべきだったな・・・・。
彼の顔を思い出して涙腺が緩みそうになる。
だけど携帯は鳴らないし・・・お別れって一瞬なんだな、と思ってしまうと涙がこぼれた。
引っ越し先のアパートに着いたのが日曜の昼前。
手伝いをお願いしてた兄と義姉も到着してして、ほうきとかかけてくれてた。
3歳になる姪の凛ちゃんも来てて、おもちゃのピアノで楽しそうに遊んでるのを見ると和む。
あぁ、可愛いっ。可愛いな。
ぷくぷくのほっぺも、輪ゴムのついたような手足も可愛い。
拭き掃除とかしてると引っ越し業者さんが到着して、凛ちゃんを安全地帯に隔離しての作業(台所の隅に段ボールで区切ってのだけど)。
皆で荷物を運んで配置どうしようかと話ししてると、突然凛ちゃんがキャーキャー大きな声あげた。
何事!?と慌てて駆け寄ると凛ちゃんが私の携帯をジュースの中に入れて洗ってた。
画面とかボタンがチッカチッカいろんな色に点灯してて、それが凛ちゃんすごい楽しかったみたい・・・・私のっ、私の携帯ぃぃーーーっ。
周りを見たら義姉さんと私のバックの中身が散乱してた。
「きゃぁぁっ、凛っ、手ぇ、手ぇ離してぇ。お願いっ。」
義姉さんが慌てて取り上げようとするが、凛ちゃんが離してくれなくて、メッって言って取り上げたら、ギャーーッと泣き出してしまった。
「ごめんねぇっ、ごめんねぇっ、あぁ、どうしよう。これって直るのかしらっ。」おろおろしながら泣きわめく凛ちゃんを慰める義姉さん。
兄がべたべたになった携帯を水洗いするがチカチカが止まらない。
「・・・・これ、データ死んだかもしれん。バックアップとか取ってるか?」
・・・お兄ちゃん、バックアップってどうやるの・・・。
結局、私の携帯は死亡しました。
兄と義姉が謝ってきて、お金出すから新しい携帯買おうって事になったんだけど、元の番号継続させると結構高かった・・・新しい番号だと0円です~(ニコリ)と言う販売員さんの言葉に新しい番号にすることに決める。
彼との接点、なんも無くなっちゃった。
縁がなかったんだなぁ・・・。
そう思って心機一転、頑張ろうって決めた。
5月。
本社に新人研修に行くと彼がいました。
ビックリして顔を見つめてると、ふらふらと近寄ってきて・・こ、告白?された。
あまりのことに声も出せずにいると、いつの間にか挨拶が終わっていて、連れて行かれた総務(研修先)で質問責めにあいました(涙)
なんなの?あのミドリちゃんって・・・なんで皆、私の名前知ってるの?
ようやくお昼になったと思ったら、個室に連れていかれて弁当を2つ渡される。
そしたら彼が同僚に背中押されて部屋に入ってきた。
彼を見てると、ムカっとか、イラっとか、頬とかこけちゃってるけどカッコイイとか、なんでこの会社にいるのよ、とかいろいろと感情が沸いてきて、ついついキツメに質問をしてしまう。
そ、そしたら・・・「結婚しよう。翠。」って・・・・。
翠って、翠って呼んだ!
ごめん、その後、感情がぐるぐるしてて、なに口走ったかあまり覚えてない。
新人歓迎会で隣の席に座らされて、総一郎さんの事たくさん教えてもらった。
・・・・・本当、バカなんじゃないかな。
なんなんだろう・・・ご飯食べないって・・・そんなに・・そんなにわた、私のこと好きでいてくれたの?
あのメールのことも教えてもらったけど、本当バカだと思う。
総一郎さんも。私も。
勇気を出して新しいアドレス渡した。
なんかすごい勢いで赤外線交信してアドレス登録された。
新しいアパートとか実家の住所とか、家族構成まで尋問のように聞かれてんだけど・・つき合うってこういうことなのかな?
ようやく宿泊所に戻ると泥のように眠った。
なんか1日、すごい日だった。
研修まだまだあるのに・・私、体保つかなぁ。
翌日の昼。
総一郎さんの成長記録?を聞かされたんだけど、えーっと、つき合うってこういうことなのかな?
いままで見たことないくらいよく喋る総一郎さんの声を個人的情報満載な資料を手にボンヤリ聞くしかなくて、後で総務の先輩に聞こうと思う。
希望と要望があればこれに記入してくれって、紙渡されたんだけど、なに書けばいいんだろう。
研修終了日に総一郎さんにタブレットを渡される。
本当は指輪を先にあげたかったらしいのだが、隣にいた同僚に止められたらしい。
「サイズも好みも分からないのに買うな。一緒にいって選んで買え!」とのことです。
グッジョブですっ!同僚さん。
えっ、ていうか買うこと決定なの?
私、聞いてないんですけど、っていうか、このタブレットも一体なんなの?
そう思ってタブレットをしげしげ見ていると使い方の説明をされる。
無料で顔見ながら電話ができる・・・ふむふむ。
これがSNS?
チャット?
よく分からないけど出来るらしい。・・・ふむ。
あ、メールアドレスは好きに決めればいいの?
え~っと、え~っと・・・【rinchan.love@docoda.ne.jp】これでよし、と。
グフッ、とか、ゴフッとか吹き出す声が聞こえて顔をあげると、ものすごい顔した総一郎さんがいた。
「リンちゃんって誰だ。」
「えっ、姪っこよ?3歳でかわいいのよ。そりゃもぅ天使なんだから!!」
凛ちゃんの可愛さを力説していると、隣の同僚さんに「そ。それも可愛いけど、そのアドレス後で俺らも交換したいから、で、できればもっとおとなしめなのにしない?」と提案された。
私の名前でいいのかな・・・。
登録すると、「んじゃ、これ俺の~。」とか、「これ私のアドレスね~。」と次々に登録された。
・・・このタブレット支給品・・・なのかな?
新人研修が終わった次の週末、総一郎さんからチャット?が飛んできた。
「今、新宿駅」
「上野通過」
「大宮通過」
「小山通過」
・
・
・
「仙台着」
・・・・お、お前はメリーさんかっっ。
怖くて思わず迎えに来ちゃったけどさっ、なんで来ちゃうの?
約束してないよね?
え・・・これから毎週来る・・・?
え・・・・・っ!?
え!?
*************************************************************
総務のベテラン女史「ねぇ、あのタブレット、変なアプリとか入れてないよね?」
同僚「GPSとか?メール転送アプリとか?盗撮アプリとか?それは絶対入れないよう見張ってたから大丈夫。」
総務のベテラン女史「それなら安心だけど。いつの間にか入れてそうで怖いわ。佐藤さん機械に弱そうだし。入れられても気づかないわよ。」
同僚「・・・・今後、変な行動しないか注意観察しておきます。
これがゲリラ豪雨ってやつか・・・都会って怖い。
肌に張り付いて脱ぎにくい服をどうにか剥いで、シャワーを浴びてると悲しくなって泣いた。
気が済むまでわんわん泣いたらなんかスッキリした。
長く風呂に浸かってたせいで指はしわしわ、目も腫れぼったいけど。
冷蔵庫から牛乳をラッパ飲みして一息つく。
「よっし、引っ越し頑張るぞ!」
押入れの奥にたたんであった段ボールを組みたてる。
大学入学の時に引っ越してきた時のだから、うっすらホコリがついてる段ボールだけど使えるからいいんだ。
服に、本に、食器道具、食品・・は限りなく減らしてたから大丈夫。
TVは引っ越し屋業者が梱包材持ってくるって言ってたからいいとして、冷蔵庫と洗濯機は備え付けのものだから問題ない。
布団は朝、圧縮袋に入れるとして・・ついでにカーテンも入れて圧縮しよう。
粗方の物を段ボールに入れるとあまりにもガランとした部屋に呆然となる。
大学の思い出の品ってものもほとんどないし、元々物欲もすくないから物もあまりない。
写真も・・・あまり好きじゃなくて撮ってない。
・・・一枚くらい思い出に撮っておくべきだったな・・・・。
彼の顔を思い出して涙腺が緩みそうになる。
だけど携帯は鳴らないし・・・お別れって一瞬なんだな、と思ってしまうと涙がこぼれた。
引っ越し先のアパートに着いたのが日曜の昼前。
手伝いをお願いしてた兄と義姉も到着してして、ほうきとかかけてくれてた。
3歳になる姪の凛ちゃんも来てて、おもちゃのピアノで楽しそうに遊んでるのを見ると和む。
あぁ、可愛いっ。可愛いな。
ぷくぷくのほっぺも、輪ゴムのついたような手足も可愛い。
拭き掃除とかしてると引っ越し業者さんが到着して、凛ちゃんを安全地帯に隔離しての作業(台所の隅に段ボールで区切ってのだけど)。
皆で荷物を運んで配置どうしようかと話ししてると、突然凛ちゃんがキャーキャー大きな声あげた。
何事!?と慌てて駆け寄ると凛ちゃんが私の携帯をジュースの中に入れて洗ってた。
画面とかボタンがチッカチッカいろんな色に点灯してて、それが凛ちゃんすごい楽しかったみたい・・・・私のっ、私の携帯ぃぃーーーっ。
周りを見たら義姉さんと私のバックの中身が散乱してた。
「きゃぁぁっ、凛っ、手ぇ、手ぇ離してぇ。お願いっ。」
義姉さんが慌てて取り上げようとするが、凛ちゃんが離してくれなくて、メッって言って取り上げたら、ギャーーッと泣き出してしまった。
「ごめんねぇっ、ごめんねぇっ、あぁ、どうしよう。これって直るのかしらっ。」おろおろしながら泣きわめく凛ちゃんを慰める義姉さん。
兄がべたべたになった携帯を水洗いするがチカチカが止まらない。
「・・・・これ、データ死んだかもしれん。バックアップとか取ってるか?」
・・・お兄ちゃん、バックアップってどうやるの・・・。
結局、私の携帯は死亡しました。
兄と義姉が謝ってきて、お金出すから新しい携帯買おうって事になったんだけど、元の番号継続させると結構高かった・・・新しい番号だと0円です~(ニコリ)と言う販売員さんの言葉に新しい番号にすることに決める。
彼との接点、なんも無くなっちゃった。
縁がなかったんだなぁ・・・。
そう思って心機一転、頑張ろうって決めた。
5月。
本社に新人研修に行くと彼がいました。
ビックリして顔を見つめてると、ふらふらと近寄ってきて・・こ、告白?された。
あまりのことに声も出せずにいると、いつの間にか挨拶が終わっていて、連れて行かれた総務(研修先)で質問責めにあいました(涙)
なんなの?あのミドリちゃんって・・・なんで皆、私の名前知ってるの?
ようやくお昼になったと思ったら、個室に連れていかれて弁当を2つ渡される。
そしたら彼が同僚に背中押されて部屋に入ってきた。
彼を見てると、ムカっとか、イラっとか、頬とかこけちゃってるけどカッコイイとか、なんでこの会社にいるのよ、とかいろいろと感情が沸いてきて、ついついキツメに質問をしてしまう。
そ、そしたら・・・「結婚しよう。翠。」って・・・・。
翠って、翠って呼んだ!
ごめん、その後、感情がぐるぐるしてて、なに口走ったかあまり覚えてない。
新人歓迎会で隣の席に座らされて、総一郎さんの事たくさん教えてもらった。
・・・・・本当、バカなんじゃないかな。
なんなんだろう・・・ご飯食べないって・・・そんなに・・そんなにわた、私のこと好きでいてくれたの?
あのメールのことも教えてもらったけど、本当バカだと思う。
総一郎さんも。私も。
勇気を出して新しいアドレス渡した。
なんかすごい勢いで赤外線交信してアドレス登録された。
新しいアパートとか実家の住所とか、家族構成まで尋問のように聞かれてんだけど・・つき合うってこういうことなのかな?
ようやく宿泊所に戻ると泥のように眠った。
なんか1日、すごい日だった。
研修まだまだあるのに・・私、体保つかなぁ。
翌日の昼。
総一郎さんの成長記録?を聞かされたんだけど、えーっと、つき合うってこういうことなのかな?
いままで見たことないくらいよく喋る総一郎さんの声を個人的情報満載な資料を手にボンヤリ聞くしかなくて、後で総務の先輩に聞こうと思う。
希望と要望があればこれに記入してくれって、紙渡されたんだけど、なに書けばいいんだろう。
研修終了日に総一郎さんにタブレットを渡される。
本当は指輪を先にあげたかったらしいのだが、隣にいた同僚に止められたらしい。
「サイズも好みも分からないのに買うな。一緒にいって選んで買え!」とのことです。
グッジョブですっ!同僚さん。
えっ、ていうか買うこと決定なの?
私、聞いてないんですけど、っていうか、このタブレットも一体なんなの?
そう思ってタブレットをしげしげ見ていると使い方の説明をされる。
無料で顔見ながら電話ができる・・・ふむふむ。
これがSNS?
チャット?
よく分からないけど出来るらしい。・・・ふむ。
あ、メールアドレスは好きに決めればいいの?
え~っと、え~っと・・・【rinchan.love@docoda.ne.jp】これでよし、と。
グフッ、とか、ゴフッとか吹き出す声が聞こえて顔をあげると、ものすごい顔した総一郎さんがいた。
「リンちゃんって誰だ。」
「えっ、姪っこよ?3歳でかわいいのよ。そりゃもぅ天使なんだから!!」
凛ちゃんの可愛さを力説していると、隣の同僚さんに「そ。それも可愛いけど、そのアドレス後で俺らも交換したいから、で、できればもっとおとなしめなのにしない?」と提案された。
私の名前でいいのかな・・・。
登録すると、「んじゃ、これ俺の~。」とか、「これ私のアドレスね~。」と次々に登録された。
・・・このタブレット支給品・・・なのかな?
新人研修が終わった次の週末、総一郎さんからチャット?が飛んできた。
「今、新宿駅」
「上野通過」
「大宮通過」
「小山通過」
・
・
・
「仙台着」
・・・・お、お前はメリーさんかっっ。
怖くて思わず迎えに来ちゃったけどさっ、なんで来ちゃうの?
約束してないよね?
え・・・これから毎週来る・・・?
え・・・・・っ!?
え!?
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総務のベテラン女史「ねぇ、あのタブレット、変なアプリとか入れてないよね?」
同僚「GPSとか?メール転送アプリとか?盗撮アプリとか?それは絶対入れないよう見張ってたから大丈夫。」
総務のベテラン女史「それなら安心だけど。いつの間にか入れてそうで怖いわ。佐藤さん機械に弱そうだし。入れられても気づかないわよ。」
同僚「・・・・今後、変な行動しないか注意観察しておきます。
後悔しない為に
5月。
だらだらと身支度を整えて仕事へと出かける。
ぐぅ、と腹の虫が鳴るが、なにも食べる気がしないのでそのままだ。
あぁ、なんか楽しいことないかな。
満員電車の窓から見えた空が青い。
どうしよう。
これって現実?
夢とかじゃないよね!?
願望が上限突破して幻も見るようになっちゃった?俺。
何度瞬きしても、腕をつねったりしても目の前にいるあいつの姿は消えなくて、嬉しさと衝撃と混乱で脳味噌パーンってなって、あいつを見つめることしかできなかった。
9名の新人研修の中にあいつがいた。
「東北支店から来ました。佐藤 翠です。
一週間ご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします。」
綺麗にお辞儀をしたあいつと目が合う。
驚きに見開かれた目を見つめながら、あ、やっぱ俺、まだ寝てるんだな、と思った。
こんなラッキーなの現実な訳がない。
夢・・・夢ならいいかな。
ふらふらと自分の席から立ち上がり、あいつの前に立つ。
「小林 総一郎。営業一部所属。26歳。
貴女のことが大好きです。結婚を前提につきあって下さい。」
手を差し出したところで、後ろからスパーンッ!と頭を叩かれた。
「新人を口説くな!口説くなら仕事が終わってからにしろ。」
上司に叩かれた衝撃で、周りの音が聞こえるようになった。
え?現実?
え?夢じゃないの!?
気がつけば目の前にいたあいつはいなくなってて、代わりに見慣れたノートPCの画面があった。
無意識に仕事してた様子。
あれ?俺、白昼夢見てた?
・・・・俺、疲れてんのかな。
ぼんやりしながら機械的に文字を入力していると、12時になったらしく隣の同僚に飯だとせかされて、慌てて保存のキーを押す。
「ほれ。弁当奢ってやるから、愛しのミドリちゃんと話してこい。」
と、押されて入ったのはミーティングや商談に使う小さな個室。
個室の中には顔を真っ赤にしたあいつがいて、「お久しぶりです。」とか、「あんな大勢の前で告白とかバカですか。」とか、「あれから散々、みなさんに質問されて大変だったんですからね。」とか言ってプリプリ怒ってた。
可愛い。
幸せを噛みしめながらあいつの顔を見てると、あいつが心配そうに「こんなに痩せちゃって・・どうしちゃったんですか。」と、手を伸ばしてきたので、その手を握りしめて「結婚してくれ。翠。」と言ってしまった。
顔を真っ赤にして固まった翠。
ようやく硬直から治った翠は「なんなんですかっ、本当、なんなんですかっ、だいたいですねっ、貴方があんなメールなんて送るからいけないんですよ。もぅ2 度と会えることないとか思ってたのにこんな所で再会とか、衝撃的すぎてどうしていいのかわかんないのに、いきなり、こっ、告白とか、プ、プロポーズと かっっ。もうっ、私、訳分かんないですよっ、本当、なんなんですか貴方はっ、どうでもいいからご飯食べなさいよ、こんなに頬とかこけてるなんて信じられな いですよっ、バカーーっ。」
ゼィゼィと、肩で息をしながら涙目で見上げてきた翠。
可愛い。
翠にせかされて食べた弁当は・・・久々に味がした。
神様はいたんだ、と感謝をしながら午後の仕事を終え、翠を捕まえに行こうとする前に同僚達に捕まった。
「新人達の歓迎会すっぞ!安心しろ!!お前の愛しのミドリちゃんはちゃんとお前の隣の席にするからっ。」
そう言われて連れて行かれた先で俺は地獄を見た。
「こいつ、ミドリちゃんにひと目惚れして半年もコンビニ通ってたんだ。一歩間違ったらストーカーだよな。」
「ようやく告白してつき合ったから、紹介して貰おうと思ったら減るからダメ。見るなって言って、全然紹介してくれないんでやんの。」
「そしたら突然いなくなったとか言って、もぅこの世の終わりみたいな顔して会社来やがるし、俺らがどんだけ気をつかったことか!」
「ほっとんど飯も食わなくなったし、いやぁ、ミドリちゃん、頼むからこいつのこと見捨てないでやって?これでも出世株でウチの会社の超お得商品だよ。」
肩をバシバシ叩かれながらバラされた。
ついでとばかりに春の花見の席で号泣したこともバラされた・・・死にたい。
あれは・・・あれはあまり思い出したくない。
ハラハラと舞い散る桜を眺めながら、翠と一緒に見たかったなとか、春になったら弁当持って公園デートとかしたかったな、とか思ってたんだよね、感傷にふ けってるところに、あの女(くそっ、思い出すだけでも腹のたつ。こいつがあんなアドバイスなんてしやがるから翠がいなくなったのに)が「総一郎くぅ~ん。 飲んでるぅ~?日本酒おいしいよぉ?一緒にぃ、のもぉ?」と嫌に間延びしたしゃべり方で、酒を片手に隣に座ろうとするのだから、思わず「あんたのアドバイ スのせいで翠がいなくなった。あんたの顔も見たくない。」と口走ってしまった。
そしたら「ひっどぉぉ~いっ。なにそれ?ひどくないっ?超傷ついたんですけどぉ?せっかぁく、この私が可哀そうな総一郎君を慰めてあげよぅと思って声かけたのにぃ、マジひどくなぃ?」と大声で言いやがった。
まぁまぁ二人とも落ち着いて、と周囲の人に事情を聞かれている内に現実に打ちのめされて号泣しただけだ・・・。
・・・俺も酔ってたんだ・・・。
2人の子持ちでベテラン総務の主任女史に「バカねぇ、なんでこんな人にアドバイスなんて求めるのよ。短いスパンで別れるのって、恋多い訳じゃなくて長く続かないって証拠じゃないの。」という言葉にも追い打ちをかけられた。
あぁぁ・・あの花見は最悪だった。
次の日、会社の皆が優しくなってた。
あれからいろんな人に飴とか貰うようになった・・・穴があったら埋まりたい。
なにもかもバラされて打ちひしがれてる俺の横で、翠が顔を真っ赤にしながら同僚の話を聞いてた。
どうしよう、可愛い。
歓迎会早く終わらないかな。
長かった送迎会が終わって金の計算してると、翠につんつん、とつつかれた。
やばい、なんだこれ、くっそ可愛いなっ!と内心もだえてると小さくたたまれた紙を渡される。
「前の携帯・・・引っ越しの時に姪っこにジュースで洗われたの・・・。これ・・あの・・新しいアドレスだから。その・・ごめんね。連絡取れなくなって。」
うつむいてて顔が見れなかったけど、耳まで真っ赤になってる翠。
アドレスっっ。
慌てて自分の携帯を取り出して赤外線通信をする。
いやまて・・アドレスだけじゃ足りない。
実家とかアパートとか全部聞いとかなくちゃ。
思いつく限りを質問して手帳に書き込んでいくと、隣にいた同僚に頭をしばかれる。
「どうどうどう。落ち着けっ。ミドリちゃん研修でまだいるからっ。」
あぁぁ・・・研修一週間なんだよな。
なんとかして指導員になれたりしないのかな・・・。
その後、同僚に引きずられるようにして家路についた。
翠と話したかったのにっ、と抗議したら「性犯罪を阻止しただけだ。」と言われた。
・・・まぁ・・うん、止めてくれて助かった・・確かにちょっと理性吹っ飛んでた。
翌日の昼休み。
翠に俺の履歴書というか、釣書というか・・・そういったものを書類にして渡した。
翠のことを知りたい。
俺の事も知ってほしい。
そう考えての行動だ。
もぅ2度と同じヘマはしない。
だらだらと身支度を整えて仕事へと出かける。
ぐぅ、と腹の虫が鳴るが、なにも食べる気がしないのでそのままだ。
あぁ、なんか楽しいことないかな。
満員電車の窓から見えた空が青い。
どうしよう。
これって現実?
夢とかじゃないよね!?
願望が上限突破して幻も見るようになっちゃった?俺。
何度瞬きしても、腕をつねったりしても目の前にいるあいつの姿は消えなくて、嬉しさと衝撃と混乱で脳味噌パーンってなって、あいつを見つめることしかできなかった。
9名の新人研修の中にあいつがいた。
「東北支店から来ました。佐藤 翠です。
一週間ご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします。」
綺麗にお辞儀をしたあいつと目が合う。
驚きに見開かれた目を見つめながら、あ、やっぱ俺、まだ寝てるんだな、と思った。
こんなラッキーなの現実な訳がない。
夢・・・夢ならいいかな。
ふらふらと自分の席から立ち上がり、あいつの前に立つ。
「小林 総一郎。営業一部所属。26歳。
貴女のことが大好きです。結婚を前提につきあって下さい。」
手を差し出したところで、後ろからスパーンッ!と頭を叩かれた。
「新人を口説くな!口説くなら仕事が終わってからにしろ。」
上司に叩かれた衝撃で、周りの音が聞こえるようになった。
え?現実?
え?夢じゃないの!?
気がつけば目の前にいたあいつはいなくなってて、代わりに見慣れたノートPCの画面があった。
無意識に仕事してた様子。
あれ?俺、白昼夢見てた?
・・・・俺、疲れてんのかな。
ぼんやりしながら機械的に文字を入力していると、12時になったらしく隣の同僚に飯だとせかされて、慌てて保存のキーを押す。
「ほれ。弁当奢ってやるから、愛しのミドリちゃんと話してこい。」
と、押されて入ったのはミーティングや商談に使う小さな個室。
個室の中には顔を真っ赤にしたあいつがいて、「お久しぶりです。」とか、「あんな大勢の前で告白とかバカですか。」とか、「あれから散々、みなさんに質問されて大変だったんですからね。」とか言ってプリプリ怒ってた。
可愛い。
幸せを噛みしめながらあいつの顔を見てると、あいつが心配そうに「こんなに痩せちゃって・・どうしちゃったんですか。」と、手を伸ばしてきたので、その手を握りしめて「結婚してくれ。翠。」と言ってしまった。
顔を真っ赤にして固まった翠。
ようやく硬直から治った翠は「なんなんですかっ、本当、なんなんですかっ、だいたいですねっ、貴方があんなメールなんて送るからいけないんですよ。もぅ2 度と会えることないとか思ってたのにこんな所で再会とか、衝撃的すぎてどうしていいのかわかんないのに、いきなり、こっ、告白とか、プ、プロポーズと かっっ。もうっ、私、訳分かんないですよっ、本当、なんなんですか貴方はっ、どうでもいいからご飯食べなさいよ、こんなに頬とかこけてるなんて信じられな いですよっ、バカーーっ。」
ゼィゼィと、肩で息をしながら涙目で見上げてきた翠。
可愛い。
翠にせかされて食べた弁当は・・・久々に味がした。
神様はいたんだ、と感謝をしながら午後の仕事を終え、翠を捕まえに行こうとする前に同僚達に捕まった。
「新人達の歓迎会すっぞ!安心しろ!!お前の愛しのミドリちゃんはちゃんとお前の隣の席にするからっ。」
そう言われて連れて行かれた先で俺は地獄を見た。
「こいつ、ミドリちゃんにひと目惚れして半年もコンビニ通ってたんだ。一歩間違ったらストーカーだよな。」
「ようやく告白してつき合ったから、紹介して貰おうと思ったら減るからダメ。見るなって言って、全然紹介してくれないんでやんの。」
「そしたら突然いなくなったとか言って、もぅこの世の終わりみたいな顔して会社来やがるし、俺らがどんだけ気をつかったことか!」
「ほっとんど飯も食わなくなったし、いやぁ、ミドリちゃん、頼むからこいつのこと見捨てないでやって?これでも出世株でウチの会社の超お得商品だよ。」
肩をバシバシ叩かれながらバラされた。
ついでとばかりに春の花見の席で号泣したこともバラされた・・・死にたい。
あれは・・・あれはあまり思い出したくない。
ハラハラと舞い散る桜を眺めながら、翠と一緒に見たかったなとか、春になったら弁当持って公園デートとかしたかったな、とか思ってたんだよね、感傷にふ けってるところに、あの女(くそっ、思い出すだけでも腹のたつ。こいつがあんなアドバイスなんてしやがるから翠がいなくなったのに)が「総一郎くぅ~ん。 飲んでるぅ~?日本酒おいしいよぉ?一緒にぃ、のもぉ?」と嫌に間延びしたしゃべり方で、酒を片手に隣に座ろうとするのだから、思わず「あんたのアドバイ スのせいで翠がいなくなった。あんたの顔も見たくない。」と口走ってしまった。
そしたら「ひっどぉぉ~いっ。なにそれ?ひどくないっ?超傷ついたんですけどぉ?せっかぁく、この私が可哀そうな総一郎君を慰めてあげよぅと思って声かけたのにぃ、マジひどくなぃ?」と大声で言いやがった。
まぁまぁ二人とも落ち着いて、と周囲の人に事情を聞かれている内に現実に打ちのめされて号泣しただけだ・・・。
・・・俺も酔ってたんだ・・・。
2人の子持ちでベテラン総務の主任女史に「バカねぇ、なんでこんな人にアドバイスなんて求めるのよ。短いスパンで別れるのって、恋多い訳じゃなくて長く続かないって証拠じゃないの。」という言葉にも追い打ちをかけられた。
あぁぁ・・あの花見は最悪だった。
次の日、会社の皆が優しくなってた。
あれからいろんな人に飴とか貰うようになった・・・穴があったら埋まりたい。
なにもかもバラされて打ちひしがれてる俺の横で、翠が顔を真っ赤にしながら同僚の話を聞いてた。
どうしよう、可愛い。
歓迎会早く終わらないかな。
長かった送迎会が終わって金の計算してると、翠につんつん、とつつかれた。
やばい、なんだこれ、くっそ可愛いなっ!と内心もだえてると小さくたたまれた紙を渡される。
「前の携帯・・・引っ越しの時に姪っこにジュースで洗われたの・・・。これ・・あの・・新しいアドレスだから。その・・ごめんね。連絡取れなくなって。」
うつむいてて顔が見れなかったけど、耳まで真っ赤になってる翠。
アドレスっっ。
慌てて自分の携帯を取り出して赤外線通信をする。
いやまて・・アドレスだけじゃ足りない。
実家とかアパートとか全部聞いとかなくちゃ。
思いつく限りを質問して手帳に書き込んでいくと、隣にいた同僚に頭をしばかれる。
「どうどうどう。落ち着けっ。ミドリちゃん研修でまだいるからっ。」
あぁぁ・・・研修一週間なんだよな。
なんとかして指導員になれたりしないのかな・・・。
その後、同僚に引きずられるようにして家路についた。
翠と話したかったのにっ、と抗議したら「性犯罪を阻止しただけだ。」と言われた。
・・・まぁ・・うん、止めてくれて助かった・・確かにちょっと理性吹っ飛んでた。
翌日の昼休み。
翠に俺の履歴書というか、釣書というか・・・そういったものを書類にして渡した。
翠のことを知りたい。
俺の事も知ってほしい。
そう考えての行動だ。
もぅ2度と同じヘマはしない。
彼の後悔
「別れよう」
恋人の心が知りたくて、俺はメールを送った。
コンビニでバイトしてたあいつに一目惚れして、友人に背中押されて告白したのが1か月前。
あいつはビックリした顔してたが、笑顔で「自分でいいなら」と承諾してくれた。
仕事が忙しくてメールも電話もほとんど出来ない。
それにあいつもメールも電話も苦手なのかほとんどかかって来ない。
その代わり週末にあいつのアパートに行く。
にこにことご飯をよそってくれるあいつを見てるのが楽しくて、ついついいつも長居する。
・・・下心はあるけど、まだ付き合って1か月も経ってないのに手を出すなんてダメだよな。
あまり遅くまでいると自制が効かなくなるので、いつも後ろ髪ひかれる思いで帰ってること、あいつは知ってるのかな。
あいつの心を知りたいと悶々と考えてた。
会社でも有名な恋多き女が休憩室にいたので、どうしたらいいか尋ねてみると、「別れよう」メールで反応見ればいいじゃない、と言われたのでそうしてみた。
10分経っても返事がない。
20分経っても返事がない。
・・・・・・休憩時間が終わるまで待ってみたが、返事がこなかったので、きっと忙しくて見てないんだなと思い仕事に戻った。
アドバイス料として女にはコーヒーを渡したが、「そんなのより今度デートしてよぅ」と言われる。
語尾を伸ばした言い方にイラッっとしたが、会社で波風立たせるのはマズイと思い、笑いながら「いつかね」と言い机へと戻る。
その後、外回りに行ったり、発注ミスが発覚したりで、なんだかんだと忙しくなり会社から帰ってきたのは翌日の11時だった。
あまりにも疲れてたので、部屋につくなりベッドにダイブして睡眠を貪った。
・・・・・・メールの確認なんてすっかり忘れて。
ガバリと起きたのが日曜の昼。
Yシャツはよれよれの皺だらけ、髪もぼさぼさのまま、携帯に手を伸ばして時間を確認する。
-新着メールがあります-
あいつだ!
すっかり忘れてた、と慌てて画面を開く。
「了解」
・・・・たった2文字だけのメッセージに血の気が引く。
慌てて電話をかけるが、「電源が入っていないか、電波が届かないところにいます」という硬質なメッセージが聞こえてくるばかりだった。
何度かけ直しても、聞こえてくるのは同じメッセージ。
慌てて部屋を出ようとして財布に手を伸ばすが、鏡でよれよれの姿が見てしまい、これじゃダメだと思い返し風呂に入って身支度をする。
ヤバい。怒ってるのかな。
どうしたら機嫌直してくれるかな、と、動揺しながらも、心の底に喜びがあることを自覚してしまう。
いつもニコニコして怒ってる姿が想像できないあいつが、俺のこと怒ってる。
現状は最悪なのに、そう思ってしまいニヤつく顔が止められない。
どうしよう、なにかあいつの好きなの持って行って詫びればいいのかな。
ケーキではレアチーズが好きだって言ってた、と、あいつの好きなのを思い出しながら服を着替え、大急ぎで部屋を出た。
ケーキの包みを持った俺を出迎えてくれたのは、空っぽの部屋。
あいつがいない。
慌ててあいつに電話をするが何度かけてもすぐに切られてしまう。
数十回目かけ直した所でまたあの「電源が入っていないか、電波が届かないところにいます」というメッセージが繰り返されるばかりだった。
苛立ちのままに携帯を叩きつけたくなる衝動を必死に抑える。
ダメだ、今この携帯壊したら、あいつとの接点がなくなる、その一心で。
あいつの部屋の両サイドのドアを叩き、あいつのことを尋ねると、今朝、引っ越し業者が来て出て行ったらしい。
あいつの行った先を訪ねたが、分からないとしか言われなかった。
大家の電話番号を教えてもらい、実家の住所と電話番号を聞き出そうとしたが個人情報がどうのと教えてくれなかった。
あまりにも俺が鬼気迫る様子だったのか、隣の部屋の住人が「あんたなに?ストーカーなの?」と聞いてきた。
冗談じゃない。
「恋人だよっ」と苛立ちのままに返事すると「こわっ」と一言言われて、扉を閉められてしまった。
そうだ、コンビニ!と思い、慌てて駆け出した。
あいつのことを店員に尋ねると、学校を卒業するので実家に帰るとバイトを辞めたらしい。
「実家は!?」と尋ねると、「遠い地方だと言ってた気がする」という返事しかなかった。
住所などを聞いたが、「店長いないし分かんない」、と言われた。
八方塞がりのまま自分の部屋に帰る。
ハハ・・ハハハ・・俺、捨てられた?
引っ越すとか聞いてない。
実家もどこだか聞いてない。
何一つ・・知らないんだな。
ぽた、ぽた、と涙が床に垂れた。
何度も電話してもあいつは電話に出ない。
後日、またコンビニに行き、実家の住所と電話を教えてくれと店長を捕まえて頼み込んだ。
俺の必死な様子に、「本当はダメなんだけど履歴書確認するくらいなら」と言って確認してくれた。
・・・書かれていた住所はあいつが住んでたアパート。電話番号も携帯だけだった。
電話番号とメールアドレスしか連絡手段が残されていない。
何度電話しても、メール送っても、あいつは返事をくれない。
そのうち着信拒否にされたのか、電話もメールも送れなくなった。
・・・俺、バカだな。
なんであんなメール送ったんだろう。
道行く人の中に、あいつを探してしまう俺がいる。
よく似た人を見かけると、つい顔を確認してしまう。
メールが来るたびに、あいつからじゃないかと期待してしまう俺がいる。
・・・これって、ストーカーなのかな。
ひどく執着してることは自覚してる。
最近、元気がない俺に気をつかって同僚や友人達が酒に誘ってくれることが多くなった。
新しい恋でもしたら、と合コンに誘われることも多くなった。
・・・でもさ、胸にポッカリ穴が開いたような気がするんだ。
なんであんなメール・・・送っちゃったんだろうな。
恋人の心が知りたくて、俺はメールを送った。
コンビニでバイトしてたあいつに一目惚れして、友人に背中押されて告白したのが1か月前。
あいつはビックリした顔してたが、笑顔で「自分でいいなら」と承諾してくれた。
仕事が忙しくてメールも電話もほとんど出来ない。
それにあいつもメールも電話も苦手なのかほとんどかかって来ない。
その代わり週末にあいつのアパートに行く。
にこにことご飯をよそってくれるあいつを見てるのが楽しくて、ついついいつも長居する。
・・・下心はあるけど、まだ付き合って1か月も経ってないのに手を出すなんてダメだよな。
あまり遅くまでいると自制が効かなくなるので、いつも後ろ髪ひかれる思いで帰ってること、あいつは知ってるのかな。
あいつの心を知りたいと悶々と考えてた。
会社でも有名な恋多き女が休憩室にいたので、どうしたらいいか尋ねてみると、「別れよう」メールで反応見ればいいじゃない、と言われたのでそうしてみた。
10分経っても返事がない。
20分経っても返事がない。
・・・・・・休憩時間が終わるまで待ってみたが、返事がこなかったので、きっと忙しくて見てないんだなと思い仕事に戻った。
アドバイス料として女にはコーヒーを渡したが、「そんなのより今度デートしてよぅ」と言われる。
語尾を伸ばした言い方にイラッっとしたが、会社で波風立たせるのはマズイと思い、笑いながら「いつかね」と言い机へと戻る。
その後、外回りに行ったり、発注ミスが発覚したりで、なんだかんだと忙しくなり会社から帰ってきたのは翌日の11時だった。
あまりにも疲れてたので、部屋につくなりベッドにダイブして睡眠を貪った。
・・・・・・メールの確認なんてすっかり忘れて。
ガバリと起きたのが日曜の昼。
Yシャツはよれよれの皺だらけ、髪もぼさぼさのまま、携帯に手を伸ばして時間を確認する。
-新着メールがあります-
あいつだ!
すっかり忘れてた、と慌てて画面を開く。
「了解」
・・・・たった2文字だけのメッセージに血の気が引く。
慌てて電話をかけるが、「電源が入っていないか、電波が届かないところにいます」という硬質なメッセージが聞こえてくるばかりだった。
何度かけ直しても、聞こえてくるのは同じメッセージ。
慌てて部屋を出ようとして財布に手を伸ばすが、鏡でよれよれの姿が見てしまい、これじゃダメだと思い返し風呂に入って身支度をする。
ヤバい。怒ってるのかな。
どうしたら機嫌直してくれるかな、と、動揺しながらも、心の底に喜びがあることを自覚してしまう。
いつもニコニコして怒ってる姿が想像できないあいつが、俺のこと怒ってる。
現状は最悪なのに、そう思ってしまいニヤつく顔が止められない。
どうしよう、なにかあいつの好きなの持って行って詫びればいいのかな。
ケーキではレアチーズが好きだって言ってた、と、あいつの好きなのを思い出しながら服を着替え、大急ぎで部屋を出た。
ケーキの包みを持った俺を出迎えてくれたのは、空っぽの部屋。
あいつがいない。
慌ててあいつに電話をするが何度かけてもすぐに切られてしまう。
数十回目かけ直した所でまたあの「電源が入っていないか、電波が届かないところにいます」というメッセージが繰り返されるばかりだった。
苛立ちのままに携帯を叩きつけたくなる衝動を必死に抑える。
ダメだ、今この携帯壊したら、あいつとの接点がなくなる、その一心で。
あいつの部屋の両サイドのドアを叩き、あいつのことを尋ねると、今朝、引っ越し業者が来て出て行ったらしい。
あいつの行った先を訪ねたが、分からないとしか言われなかった。
大家の電話番号を教えてもらい、実家の住所と電話番号を聞き出そうとしたが個人情報がどうのと教えてくれなかった。
あまりにも俺が鬼気迫る様子だったのか、隣の部屋の住人が「あんたなに?ストーカーなの?」と聞いてきた。
冗談じゃない。
「恋人だよっ」と苛立ちのままに返事すると「こわっ」と一言言われて、扉を閉められてしまった。
そうだ、コンビニ!と思い、慌てて駆け出した。
あいつのことを店員に尋ねると、学校を卒業するので実家に帰るとバイトを辞めたらしい。
「実家は!?」と尋ねると、「遠い地方だと言ってた気がする」という返事しかなかった。
住所などを聞いたが、「店長いないし分かんない」、と言われた。
八方塞がりのまま自分の部屋に帰る。
ハハ・・ハハハ・・俺、捨てられた?
引っ越すとか聞いてない。
実家もどこだか聞いてない。
何一つ・・知らないんだな。
ぽた、ぽた、と涙が床に垂れた。
何度も電話してもあいつは電話に出ない。
後日、またコンビニに行き、実家の住所と電話を教えてくれと店長を捕まえて頼み込んだ。
俺の必死な様子に、「本当はダメなんだけど履歴書確認するくらいなら」と言って確認してくれた。
・・・書かれていた住所はあいつが住んでたアパート。電話番号も携帯だけだった。
電話番号とメールアドレスしか連絡手段が残されていない。
何度電話しても、メール送っても、あいつは返事をくれない。
そのうち着信拒否にされたのか、電話もメールも送れなくなった。
・・・俺、バカだな。
なんであんなメール送ったんだろう。
道行く人の中に、あいつを探してしまう俺がいる。
よく似た人を見かけると、つい顔を確認してしまう。
メールが来るたびに、あいつからじゃないかと期待してしまう俺がいる。
・・・これって、ストーカーなのかな。
ひどく執着してることは自覚してる。
最近、元気がない俺に気をつかって同僚や友人達が酒に誘ってくれることが多くなった。
新しい恋でもしたら、と合コンに誘われることも多くなった。
・・・でもさ、胸にポッカリ穴が開いたような気がするんだ。
なんであんなメール・・・送っちゃったんだろうな。
プロフィール
HN:
塩飴
性別:
非公開
自己紹介:
日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
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