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9月。ヤスを探せ
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「やだっ、小林君ったらミドリちゃんを監視!?」
通りすがりに俺の画面を見た同僚がおどけて言う。
「気持ち悪いこと言うな。・・・翠が掲示板に晒されているんだ。」
一瞬にしていつもへらへらしてる同僚の顔から表情が抜け落ちる。
「本人が書きこんでるってことはないよね。」
「無いな。携帯はキッズモードだし、タブレットに関しては俺がたまに見てる。」
「そか・・・分かった。」そう言って同僚は翠を検索していく。
無言で検索をかけていくと、しばらくして同僚が「HITした・・・出会い系だね。」
さすが定期的に自身を検索しているだけあって早い。
以前、元カノにネットで中傷を受けた同僚はあれから過剰に警戒するようになった。
翠にいろいろと注意したのは同僚を見て学んでいたからである。
「・・・これ、庶務の前田さんじゃない?」
掲載されている画像を拡大する。
「うまく顔隠してあるけど、この時計、前にカレシに買ってもらったって食堂で自慢してたやつだよね。」
ラインストーンでゴテゴテに飾られたスマフォを持つ腕に特徴的なロゴの時計。
・・・・あの女。
「見て見て!こないだのデートで〇〇〇の新作の時計買って貰っちゃったぁ!」
「えーーっ。すっごーい。いいなぁ。見せて、見せてー。」
少し離れた席から聞こえてくる声に上司が苦笑いしながら「あの時計、30万するんだよねぇ。」と言う。
「うはっ、高っ、なんで値段知ってるんですか!?」
「嫁にね、結婚記念日にコレ欲しいってねだられちゃって。おかげでお財布が軽いよ~。」
「う~わぁ・・・ご愁傷様です。」
「でも嫁さん喜んでたからねぇ。しかし、今のご時世はデートのプレゼントレベルなんだねぇ。頑張ってね、独身の諸君!」
「いやいやいや、そんな高額なプレゼントほいほいあげれないっスよ。」
そんな上司と同僚の会話を聞きながら飯を食っていたのを思い出した。
「・・・ミドリちゃんの顔写真出てる。これって社員証のかな。名前と最寄駅も晒されてる・・・悪質だね。」
「証拠ssは撮れるか?」
「撮ってる。プロバイダに発信者情報開示請求と削除申請出した方がいいね。時間帯が勤務時間のもあるから会社PCのログも取ったほうがいいよ。」
「すまんな。イヤなこと思い出させて。」
休憩室で同僚に缶コーヒーを渡す。
同僚は誹謗中傷の他にゲイサイトにまで書きこみされていた。
『恋人募集!』という書き込みに反応したゲイに路地裏に連れ込まれそうになって、某カンフースターのマネをして難を逃れた。
「フー様の完コピしてなかったら、僕のケツ死んでたかもしれん。」と蒼白な顔で報告してきたのが一昨年前の夏。
今では忘年会などで黄色いトラックスーツを着てアチョー!などと言いながら笑いを取れるまで回復したと思っていたのだが。
「いやいや、大丈夫だよ~。それに小林君のことカレシって言って逃げてたことあるし。恩は返せる時に返さないとね。」
「!?」
通りすがりに俺の画面を見た同僚がおどけて言う。
「気持ち悪いこと言うな。・・・翠が掲示板に晒されているんだ。」
一瞬にしていつもへらへらしてる同僚の顔から表情が抜け落ちる。
「本人が書きこんでるってことはないよね。」
「無いな。携帯はキッズモードだし、タブレットに関しては俺がたまに見てる。」
「そか・・・分かった。」そう言って同僚は翠を検索していく。
無言で検索をかけていくと、しばらくして同僚が「HITした・・・出会い系だね。」
さすが定期的に自身を検索しているだけあって早い。
以前、元カノにネットで中傷を受けた同僚はあれから過剰に警戒するようになった。
翠にいろいろと注意したのは同僚を見て学んでいたからである。
「・・・これ、庶務の前田さんじゃない?」
掲載されている画像を拡大する。
「うまく顔隠してあるけど、この時計、前にカレシに買ってもらったって食堂で自慢してたやつだよね。」
ラインストーンでゴテゴテに飾られたスマフォを持つ腕に特徴的なロゴの時計。
・・・・あの女。
「見て見て!こないだのデートで〇〇〇の新作の時計買って貰っちゃったぁ!」
「えーーっ。すっごーい。いいなぁ。見せて、見せてー。」
少し離れた席から聞こえてくる声に上司が苦笑いしながら「あの時計、30万するんだよねぇ。」と言う。
「うはっ、高っ、なんで値段知ってるんですか!?」
「嫁にね、結婚記念日にコレ欲しいってねだられちゃって。おかげでお財布が軽いよ~。」
「う~わぁ・・・ご愁傷様です。」
「でも嫁さん喜んでたからねぇ。しかし、今のご時世はデートのプレゼントレベルなんだねぇ。頑張ってね、独身の諸君!」
「いやいやいや、そんな高額なプレゼントほいほいあげれないっスよ。」
そんな上司と同僚の会話を聞きながら飯を食っていたのを思い出した。
「・・・ミドリちゃんの顔写真出てる。これって社員証のかな。名前と最寄駅も晒されてる・・・悪質だね。」
「証拠ssは撮れるか?」
「撮ってる。プロバイダに発信者情報開示請求と削除申請出した方がいいね。時間帯が勤務時間のもあるから会社PCのログも取ったほうがいいよ。」
「すまんな。イヤなこと思い出させて。」
休憩室で同僚に缶コーヒーを渡す。
同僚は誹謗中傷の他にゲイサイトにまで書きこみされていた。
『恋人募集!』という書き込みに反応したゲイに路地裏に連れ込まれそうになって、某カンフースターのマネをして難を逃れた。
「フー様の完コピしてなかったら、僕のケツ死んでたかもしれん。」と蒼白な顔で報告してきたのが一昨年前の夏。
今では忘年会などで黄色いトラックスーツを着てアチョー!などと言いながら笑いを取れるまで回復したと思っていたのだが。
「いやいや、大丈夫だよ~。それに小林君のことカレシって言って逃げてたことあるし。恩は返せる時に返さないとね。」
「!?」
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同僚「ミドリちゃん、キッズケータイなんだ。」
総一郎「通話とメールしか使わないからいいらしい。デザインが可愛い上にライト付。防犯ブザーで安全。落としてもイマドコサーチで安心。なにより防水なのだと力説していた。」
総一郎「通話とメールしか使わないからいいらしい。デザインが可愛い上にライト付。防犯ブザーで安全。落としてもイマドコサーチで安心。なにより防水なのだと力説していた。」
お盆。掛け軸の裏に回転扉はない
盆に翠とシャインスターを実家に連れて行くと、出迎えたお袋と弟に「え。どっちがカノジョなの。」と驚かれる。
どう見ても翠しかいないだろうが。
実家に着くとシャインスターのテンションがだだ上がりで、「Japanese classical house! ニンジャ!ニンジャハ ドコニイマスカ!!」と、天袋や畳まで開けようとするので落ち着かせるのが大変だった。
うちには隠し扉も隠し階段もない。
掛け軸を何度めくっても回転扉どころか、御札もないぞ。
翠はひたすら恐縮していたが、お袋にあれこれと絡まれているうちに2人でキャッキャッと仲良く飯を作りはじめてた。和む。
うちの家族は父、母、俺、妹、弟の5人。
お袋が150㎝台でちんまりしているのだが、他の家族は揃って170㎝越えと、なかなかに威圧感があることは自覚している。
そんな中でお袋より少し身長の高い翠がお袋と仲良くおしゃべりしているのを見ていると、ついつい頬が緩む。
親父を見ると、俺と同じようにニヤニヤしていた。
「お前にしてはいい嫁見つけてきたじゃないか。」と珍しく褒められた。
院生の妹が夜遅くに帰ってきたのだが、妹を一目見たシャインスターが大騒ぎした。
「オーシャンブルー!?オーシャンブルー!!What? ダークネスファング is sister? Oh my God! I can't belive it! I met my fate.」
「なんなの?このチャラい外国人。」
妹の目がまるで虫を見るようだった。
気持ちは分かるが、せめて人として扱ってくれ。これでも人間としては良い分類だと思う。
翠に対しては一目見るなり「可愛い!お兄ちゃん!よくやったわ!きゃああ、すっごい好みなんですけど!一緒に服買いに行こう!?デートしよう!」と、はしゃぎまくっていた。
おい・・・妹よ・・・それは俺のだ。
弟に肩をぽんぽんと叩かれて慰められた。
休みの間、翠は俺の部屋に寝る予定だったが、お袋と妹に「女同士でいいじゃん。」と客間に布団を並べられ寝ることになった。
そして客間に寝る予定だったシャインスターが俺の部屋で寝ることになった。
・・・シャインスターの妹に関する質問がうざい。
全て「本人に聞いてくれ。」と答えていると、これは運命だの、日本に来て良かっただの、神様に感謝するだの熱に浮かされたようにぼやきはじめたので無視して寝た。
翌日、シャインスターが妹の後をついてまわるので、妹がキレた。
「うるさい、うざい、しつこい!私、コミケとか行かないから。それになんなのよ。オーシャンブルーって、変な名前で呼ばないでよねっ。」
妹にどれだけ冷たくされても、無視されても、罵倒されても懲りずについてまわるシャインスター。
さすがヒーロー、メンタル強い。
墓参りの日、シャインスターはコミケに行く為に、あちこちに羽根のついた真っ白なスーツを着て、お袋に化粧を施されていた。
「宝塚みたいねぇ。楽しいわぁ。」と、お袋もノリノリである。
俺と翠にも一緒にコミケに行こう!と誘っていたが、翠用の衣装だというやたらとフリルのついたセーラー服を見て、即却下した。
俺の分といって渡されたのは、黒耳付きのカチューシャ。
「コレ着ケテ、上着ヌゲバperfect!」って・・・・俺は変態かよ。
やたらとでかいキャリーバック持ってきてるなと思っていたのだが、中身は全てコスプレ道具だった。
子どものオモチャにしか見えないカラフルな小物を翠と妹が「可愛いねぇ。」と、楽しそうに眺めているが・・・シャインスターのパンツとかも見えてるんだがなぁ。
富士山柄のパンツとかどこに売ってるんだろう。
どう見ても翠しかいないだろうが。
実家に着くとシャインスターのテンションがだだ上がりで、「Japanese classical house! ニンジャ!ニンジャハ ドコニイマスカ!!」と、天袋や畳まで開けようとするので落ち着かせるのが大変だった。
うちには隠し扉も隠し階段もない。
掛け軸を何度めくっても回転扉どころか、御札もないぞ。
翠はひたすら恐縮していたが、お袋にあれこれと絡まれているうちに2人でキャッキャッと仲良く飯を作りはじめてた。和む。
うちの家族は父、母、俺、妹、弟の5人。
お袋が150㎝台でちんまりしているのだが、他の家族は揃って170㎝越えと、なかなかに威圧感があることは自覚している。
そんな中でお袋より少し身長の高い翠がお袋と仲良くおしゃべりしているのを見ていると、ついつい頬が緩む。
親父を見ると、俺と同じようにニヤニヤしていた。
「お前にしてはいい嫁見つけてきたじゃないか。」と珍しく褒められた。
院生の妹が夜遅くに帰ってきたのだが、妹を一目見たシャインスターが大騒ぎした。
「オーシャンブルー!?オーシャンブルー!!What? ダークネスファング is sister? Oh my God! I can't belive it! I met my fate.」
「なんなの?このチャラい外国人。」
妹の目がまるで虫を見るようだった。
気持ちは分かるが、せめて人として扱ってくれ。これでも人間としては良い分類だと思う。
翠に対しては一目見るなり「可愛い!お兄ちゃん!よくやったわ!きゃああ、すっごい好みなんですけど!一緒に服買いに行こう!?デートしよう!」と、はしゃぎまくっていた。
おい・・・妹よ・・・それは俺のだ。
弟に肩をぽんぽんと叩かれて慰められた。
休みの間、翠は俺の部屋に寝る予定だったが、お袋と妹に「女同士でいいじゃん。」と客間に布団を並べられ寝ることになった。
そして客間に寝る予定だったシャインスターが俺の部屋で寝ることになった。
・・・シャインスターの妹に関する質問がうざい。
全て「本人に聞いてくれ。」と答えていると、これは運命だの、日本に来て良かっただの、神様に感謝するだの熱に浮かされたようにぼやきはじめたので無視して寝た。
翌日、シャインスターが妹の後をついてまわるので、妹がキレた。
「うるさい、うざい、しつこい!私、コミケとか行かないから。それになんなのよ。オーシャンブルーって、変な名前で呼ばないでよねっ。」
妹にどれだけ冷たくされても、無視されても、罵倒されても懲りずについてまわるシャインスター。
さすがヒーロー、メンタル強い。
墓参りの日、シャインスターはコミケに行く為に、あちこちに羽根のついた真っ白なスーツを着て、お袋に化粧を施されていた。
「宝塚みたいねぇ。楽しいわぁ。」と、お袋もノリノリである。
俺と翠にも一緒にコミケに行こう!と誘っていたが、翠用の衣装だというやたらとフリルのついたセーラー服を見て、即却下した。
俺の分といって渡されたのは、黒耳付きのカチューシャ。
「コレ着ケテ、上着ヌゲバperfect!」って・・・・俺は変態かよ。
やたらとでかいキャリーバック持ってきてるなと思っていたのだが、中身は全てコスプレ道具だった。
子どものオモチャにしか見えないカラフルな小物を翠と妹が「可愛いねぇ。」と、楽しそうに眺めているが・・・シャインスターのパンツとかも見えてるんだがなぁ。
富士山柄のパンツとかどこに売ってるんだろう。
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朝日に眩しい白のスーツを着て出かけていくシャインスター。
弟「すっげー。あの格好で電車乗っちゃうんだ。」
総一郎「さすがにマントとマスクは止めておいた。」
弟「すっげー。あの格好で電車乗っちゃうんだ。」
総一郎「さすがにマントとマスクは止めておいた。」
8月。隣人はシャインスター
デスマーチをなんとか乗り切った俺は、8月頭に代休兼リフレッシュ休暇をもぎ取った。
18時半着のバスを降りた俺を見たとたん、翠に「夏バテですか!?どうしたんですか。やつれちゃってますよ。」と心配される。
翠の顔を見る為だけに頑張ってた分、会えた嬉しさはひとしおだった。
「どうした?」
翠がやたらと周囲を見渡しているので疑問になって聞くと、「最近、知らない人によく声かけられるんですよ。なんなのかな。」と、裾を掴んで周囲を警戒しながら歩く。
「エヴァグリィィィィン!!」
突然、やたらと発音の良い声が背後から響いてきた。
「うひょっ。」と翠が驚いて背後を見ると、人混みの中から頭一つ飛び出た金髪の外国人が、ぶんぶんと手を振っていた。
「あ。マシューさんだ。」と、翠が手を振りかえす。
「誰だ。」
「お隣さん。先月引っ越してきたの。」
そうこうしているうちに金髪の外国人は近くまできていた。
「oh~! コンバンワ!私ハ マシュー 言イマスデス。ヨロシクデス!エヴァグリーン swieetie ダークネスファング!? I’m moved!」
翠が返事をする前から、金髪男は俺の手を取ってぶんぶんと握手をする。
「スィーティ?」
「恋人って意味だな。ところでエヴァグリーンってなんだ。ミドリだからか?」
金髪男=アメリカから来たマシューと名乗る外国人はそれからものすごく興奮した感じで一人で喋りまくってた。
なにが俺に似てるんだ。
とりあえず男の癖に☆のついたヘアピンってなんだ。
興奮して話してるせいで言ってる意味がよく分からない。
同じ目線のせいでやたらと視界に入る☆のヘアピンに気を取られつつ、コスプレだの、自分のことはシャインスターと呼べだの、なんだか理解の出来ないまま会話が進む。
ポカンとしてると、翠が袖を引いて「め、目立つから帰ろ。」と言ってきたので、マシュー改めシャインスターに別れの挨拶を言って家路につく。
「マシューさんはね、美少女戦士シャイニーハートの大ファンらしいよ。私もビックリしたもの。いきなりエヴァグリーンって呼ばれたし。」とケラケラと笑いながら話す翠。
「美少女戦士シャイニーハートすら分からんのだが。」
翠の説明によると十数年前に流行ったアニメで、ラブリーハート、オーシャンブルー、エヴァグリーンという名前の変身美少女が戦うそうだ。
お助けキャラとして金髪碧眼のマント王子シャインスター。敵役にダークネスファングというキャラがいる・・らしい。
後で画像探してみますよーと言う翠。
検索して出てきた画像を見て、なんと感想を言っていいのやら・・・。
ピンク、青、緑の頭髪をした少女達と、金髪碧眼の白のマント羽織ってマスクしてる男。狼だか犬だかの顔した上半身裸の黒い獣人。
・・・・・どこが似ているんだ。
翌日、出社する翠を駅まで送り、アパートに帰ってくるとマシュー改めシャインスターがゴミ袋片手にドアを開けたところに出くわした。
「オハヨー!ダークネスファング!エヴァグリーン オ仕事デスカ?」
朝からハイテンションである。
「おはようございます。あぁ、俺の名前ですが、ダークネスファングじゃなく、小林といいま・・・「分カッテマス!ダークネスファング!HENSOUデスネ!エヴァグリーン ヒ・ミ・ツ!」
・・・ダメだ。このオタク・・・会話が通じる気がしない。
ハイテンションのシャインスターの背後に見えた部屋が・・・・まっピンクでファンシーな置物がたくさんあるのが見えて思わずギョッとした。
「oh~!! MyRoom ラブリーハートRoom! look!? come!!」
・・・なにが悲しくて身長180越えの男が2人、こんなピンク色したお姫様仕様の部屋にいなくてはいけないんだろう。
強引に座らされた俺はシャインスターの熱いオタク魂を聞くことになった。
美少女戦士シャイニーハートに魅了されたマシューは、大学卒業後、憧れである日本に家族の反対を押し切って単身渡航してきたらしい。
シャインスターになりきったのはいいが(☆のヘアピンは変身アイテムだそうだ)、シャインスターの部屋はまーっくろ。なんもない部屋のマネするのは物足りない、だから可愛いもの好きなヒロインであるラブリーハートの部屋を再現したそうだ。
ハートクッションを抱きしめながら熱く語る金髪碧眼の外国人。
・・・・・・・空が青いなぁ。
その後、ダークネスファングについても熱く語られる。
普段は狼の顔だが、人に化ける時は黒髪黒目の男になるそうだ。
その姿で変身前の美少女戦士達を、気づかずに助けたりするらしい。
・・・へー。
熱く語るシャインスターに精神をガリガリと削られ続けていると、突然、シャインスターが「ゴ飯、食ベニ行キマショウ!」と財布を持ってドアへと進む。
腕時計を見ると11時。
2時間近くもアニメの話聞いてたのか・・俺は。
辞退しようかとも思ったが、どのみち一人で昼飯を食べるのも味気ない感じもし、シャインスターの後について行くことにした。
駅の近くにあるファミレスの道路側の席を陣取ったシャインスターは「シー・・・イイデスカ?ヨク見テイテ下サイネ?」と、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡す。
「ΣLooK!! イマシタ!悪ノ組織デス!」と、メニューで隠すように指差したのはスーツを着た・・・中年のサラリーマン。
思わず胡乱げな目を向けてしまうと、シャインスターは大げさに肩を落とす。
「Oh~・・何モ分カラナイ。ダークネスファング。アレ ハ タダノサラリーマン ジャナイデス!悪ノ組織ノ一員デスヨ!ソノ証拠ニ エヴァグリーン狙ッテマス!」
「!?」
思わず通り過ぎて行った中年のサラリーマンを目で追いかける。
「・・・・気のせいじゃないのか?」
「NO!・・・エヴァグリーン、電車降リル、悪ノ組織、声カケル。『ケイジバンノコダヨネ』」
「掲示板・・・?」
「Yes!ケイジバン。エヴァグリーン 違ウ 言ウ。デモ悪ノ組織アキラメナイ。シツコク、シツコク声カケル。」
シャインスターとの初めての飯は苦いものになった。
週末、花火大会を見に行き浴衣姿の翠を堪能する。
シャインスターの言葉ではないが、日本万歳だ。
帰り際、カランコロンと下駄の音を弾ませながら歩く翠に1つの提案をする。
「翠、お盆休みなんだけどな?うちの実家に一緒に行かないか?」
翠の両親はもういない。
・・・墓参りは、申し訳ないけど葵さん達にお願いするとして、俺と一緒に来てほしい。
少なくともココには置いて行きたくないんだ。
18時半着のバスを降りた俺を見たとたん、翠に「夏バテですか!?どうしたんですか。やつれちゃってますよ。」と心配される。
翠の顔を見る為だけに頑張ってた分、会えた嬉しさはひとしおだった。
「どうした?」
翠がやたらと周囲を見渡しているので疑問になって聞くと、「最近、知らない人によく声かけられるんですよ。なんなのかな。」と、裾を掴んで周囲を警戒しながら歩く。
「エヴァグリィィィィン!!」
突然、やたらと発音の良い声が背後から響いてきた。
「うひょっ。」と翠が驚いて背後を見ると、人混みの中から頭一つ飛び出た金髪の外国人が、ぶんぶんと手を振っていた。
「あ。マシューさんだ。」と、翠が手を振りかえす。
「誰だ。」
「お隣さん。先月引っ越してきたの。」
そうこうしているうちに金髪の外国人は近くまできていた。
「oh~! コンバンワ!私ハ マシュー 言イマスデス。ヨロシクデス!エヴァグリーン swieetie ダークネスファング!? I’m moved!」
翠が返事をする前から、金髪男は俺の手を取ってぶんぶんと握手をする。
「スィーティ?」
「恋人って意味だな。ところでエヴァグリーンってなんだ。ミドリだからか?」
金髪男=アメリカから来たマシューと名乗る外国人はそれからものすごく興奮した感じで一人で喋りまくってた。
なにが俺に似てるんだ。
とりあえず男の癖に☆のついたヘアピンってなんだ。
興奮して話してるせいで言ってる意味がよく分からない。
同じ目線のせいでやたらと視界に入る☆のヘアピンに気を取られつつ、コスプレだの、自分のことはシャインスターと呼べだの、なんだか理解の出来ないまま会話が進む。
ポカンとしてると、翠が袖を引いて「め、目立つから帰ろ。」と言ってきたので、マシュー改めシャインスターに別れの挨拶を言って家路につく。
「マシューさんはね、美少女戦士シャイニーハートの大ファンらしいよ。私もビックリしたもの。いきなりエヴァグリーンって呼ばれたし。」とケラケラと笑いながら話す翠。
「美少女戦士シャイニーハートすら分からんのだが。」
翠の説明によると十数年前に流行ったアニメで、ラブリーハート、オーシャンブルー、エヴァグリーンという名前の変身美少女が戦うそうだ。
お助けキャラとして金髪碧眼のマント王子シャインスター。敵役にダークネスファングというキャラがいる・・らしい。
後で画像探してみますよーと言う翠。
検索して出てきた画像を見て、なんと感想を言っていいのやら・・・。
ピンク、青、緑の頭髪をした少女達と、金髪碧眼の白のマント羽織ってマスクしてる男。狼だか犬だかの顔した上半身裸の黒い獣人。
・・・・・どこが似ているんだ。
翌日、出社する翠を駅まで送り、アパートに帰ってくるとマシュー改めシャインスターがゴミ袋片手にドアを開けたところに出くわした。
「オハヨー!ダークネスファング!エヴァグリーン オ仕事デスカ?」
朝からハイテンションである。
「おはようございます。あぁ、俺の名前ですが、ダークネスファングじゃなく、小林といいま・・・「分カッテマス!ダークネスファング!HENSOUデスネ!エヴァグリーン ヒ・ミ・ツ!」
・・・ダメだ。このオタク・・・会話が通じる気がしない。
ハイテンションのシャインスターの背後に見えた部屋が・・・・まっピンクでファンシーな置物がたくさんあるのが見えて思わずギョッとした。
「oh~!! MyRoom ラブリーハートRoom! look!? come!!」
・・・なにが悲しくて身長180越えの男が2人、こんなピンク色したお姫様仕様の部屋にいなくてはいけないんだろう。
強引に座らされた俺はシャインスターの熱いオタク魂を聞くことになった。
美少女戦士シャイニーハートに魅了されたマシューは、大学卒業後、憧れである日本に家族の反対を押し切って単身渡航してきたらしい。
シャインスターになりきったのはいいが(☆のヘアピンは変身アイテムだそうだ)、シャインスターの部屋はまーっくろ。なんもない部屋のマネするのは物足りない、だから可愛いもの好きなヒロインであるラブリーハートの部屋を再現したそうだ。
ハートクッションを抱きしめながら熱く語る金髪碧眼の外国人。
・・・・・・・空が青いなぁ。
その後、ダークネスファングについても熱く語られる。
普段は狼の顔だが、人に化ける時は黒髪黒目の男になるそうだ。
その姿で変身前の美少女戦士達を、気づかずに助けたりするらしい。
・・・へー。
熱く語るシャインスターに精神をガリガリと削られ続けていると、突然、シャインスターが「ゴ飯、食ベニ行キマショウ!」と財布を持ってドアへと進む。
腕時計を見ると11時。
2時間近くもアニメの話聞いてたのか・・俺は。
辞退しようかとも思ったが、どのみち一人で昼飯を食べるのも味気ない感じもし、シャインスターの後について行くことにした。
駅の近くにあるファミレスの道路側の席を陣取ったシャインスターは「シー・・・イイデスカ?ヨク見テイテ下サイネ?」と、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡す。
「ΣLooK!! イマシタ!悪ノ組織デス!」と、メニューで隠すように指差したのはスーツを着た・・・中年のサラリーマン。
思わず胡乱げな目を向けてしまうと、シャインスターは大げさに肩を落とす。
「Oh~・・何モ分カラナイ。ダークネスファング。アレ ハ タダノサラリーマン ジャナイデス!悪ノ組織ノ一員デスヨ!ソノ証拠ニ エヴァグリーン狙ッテマス!」
「!?」
思わず通り過ぎて行った中年のサラリーマンを目で追いかける。
「・・・・気のせいじゃないのか?」
「NO!・・・エヴァグリーン、電車降リル、悪ノ組織、声カケル。『ケイジバンノコダヨネ』」
「掲示板・・・?」
「Yes!ケイジバン。エヴァグリーン 違ウ 言ウ。デモ悪ノ組織アキラメナイ。シツコク、シツコク声カケル。」
シャインスターとの初めての飯は苦いものになった。
週末、花火大会を見に行き浴衣姿の翠を堪能する。
シャインスターの言葉ではないが、日本万歳だ。
帰り際、カランコロンと下駄の音を弾ませながら歩く翠に1つの提案をする。
「翠、お盆休みなんだけどな?うちの実家に一緒に行かないか?」
翠の両親はもういない。
・・・墓参りは、申し訳ないけど葵さん達にお願いするとして、俺と一緒に来てほしい。
少なくともココには置いて行きたくないんだ。
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・・・・泣きつかれて同行者が増えた。
7月。デスマーチは唐突に
「アスファルトつくろ~。」
「・・・妙な電波でも受信したか。」
いきなり巷によく聞くフレーズで歌い出した同僚にツッコミを入れる。
現在時刻23時17分。
「・・・人の意識は無意識下で繋がってるっていう説があってね?流行とかあるじゃない。それは水面下の全体としての意識が作用してるらしいんだよ。だから僕がこの歌を急に歌ったのは、きっと誰かがこの歌を歌ってるからに違いない。」
そう言って検索画面を開こうとする同僚。
「ユングもそんなアホな歌歌われるとは思わなかっただろうな。って、おい・・さすがにアスファルト作る歌なんてないと思うぞ。」
「・・・・ない・・・ないわ~。誰かが年度末の道路工事の哀愁を物語った歌を歌ってると思ったのに・・・。寒い、工期が短い、深夜作業は幽霊よりも野生動 物が怖い、美人の姉ちゃんが運転手で会釈とかしてもらうとテンションあがる、逆にカップルだと爆ぜろ!リア充!っていう歌が絶対あると確信してたのに。」
「・・・どんな歌だよ。なんで一瞬でそこまで飛躍したよ。それにお前、道路工事に一切関係ないだろう。なんでそこまで詳しいんだよ。」
「いや、なんか脳内を駆けめぐったんだ。」
「・・・・変な電波受信したんだな。」
7月の蒸し暑い空気の中、タカタカとキーボードを叩く音だけが静かな室内に響く。
昨日からずっと画面と睨めっこばかりしてるので、眼精疲労と頭痛と腰痛。それに加えて代えてないシャツからの汗の臭気に鼻がもげそうだ。
省エネ対策でエアコンは全館停止である。
・・・・この提案文書を作りあげるのが先か、俺たちが熱中症でぶっ倒れるのが先かの戦いだ。
「俺・・・この提案が終わったら翠に会いに行くんだ。」
「やめろ、小林っ!それは死亡フラグだぞっ。」
**************************************************
上司「いやぁ・・・なんとかなるもんだね。」
総一郎・同僚「・・・。」
「・・・妙な電波でも受信したか。」
いきなり巷によく聞くフレーズで歌い出した同僚にツッコミを入れる。
現在時刻23時17分。
「・・・人の意識は無意識下で繋がってるっていう説があってね?流行とかあるじゃない。それは水面下の全体としての意識が作用してるらしいんだよ。だから僕がこの歌を急に歌ったのは、きっと誰かがこの歌を歌ってるからに違いない。」
そう言って検索画面を開こうとする同僚。
「ユングもそんなアホな歌歌われるとは思わなかっただろうな。って、おい・・さすがにアスファルト作る歌なんてないと思うぞ。」
「・・・・ない・・・ないわ~。誰かが年度末の道路工事の哀愁を物語った歌を歌ってると思ったのに・・・。寒い、工期が短い、深夜作業は幽霊よりも野生動 物が怖い、美人の姉ちゃんが運転手で会釈とかしてもらうとテンションあがる、逆にカップルだと爆ぜろ!リア充!っていう歌が絶対あると確信してたのに。」
「・・・どんな歌だよ。なんで一瞬でそこまで飛躍したよ。それにお前、道路工事に一切関係ないだろう。なんでそこまで詳しいんだよ。」
「いや、なんか脳内を駆けめぐったんだ。」
「・・・・変な電波受信したんだな。」
7月の蒸し暑い空気の中、タカタカとキーボードを叩く音だけが静かな室内に響く。
昨日からずっと画面と睨めっこばかりしてるので、眼精疲労と頭痛と腰痛。それに加えて代えてないシャツからの汗の臭気に鼻がもげそうだ。
省エネ対策でエアコンは全館停止である。
・・・・この提案文書を作りあげるのが先か、俺たちが熱中症でぶっ倒れるのが先かの戦いだ。
「俺・・・この提案が終わったら翠に会いに行くんだ。」
「やめろ、小林っ!それは死亡フラグだぞっ。」
**************************************************
上司「いやぁ・・・なんとかなるもんだね。」
総一郎・同僚「・・・。」
6月。なんだかんだで仕事ばかりしてる
毎週毎週、土産のずんだ餅を渡しているうちに、「ミドリちゃんとこ行くならコレ持って行って。」という届け物の依頼が増えた。
逆に支店からの物も翠経由で持って行く。
その代り、週末の飲み会の参加は一切しなくなったが元々ほとんど行かなかったから問題ない。
週末の飲み会どころか、土日も会社で仕事してたからな・・今まで付き合ってたカノジョには「私と仕事どっちが大事なの!?」とよく言われていたものだ。
自分から好きだからつき合ってと言ってきたくせに、仕事ばかりしてる俺が気に入らないとキレられて別れるのが常だった。
毎日毎日、朝から晩まで仕事仕事。
仕事してるか寝てるかしかしてない俺に変化が訪れたのが、仕事帰りに立ち寄ったコンビニ。
コンビニで働く翠を見て、初めての一目惚れ。
コンビニに通いつめたはいいが、どうしていいのか分からないと友人に相談したら「うだうだ言うな。男なら潔く告白しろ。」と友人達に背中を押されたのは、今となってはいい思い出だ。
OKを貰えて舞い上がったのはいいが、どのように接していいか分からず、週末に翠の部屋に遊びに行くというワンパターンな行動しか出来なかったのは反省した。
翠の顔見てるだけで幸せという、脳内に花が咲いてる状態で、更には翠の心を知りたいと欲を掻いて、あの女に相談したのはもっと反省したが。
庶務室の前を通りすがるとあの女が「小林さぁん、また飲み会行かないって本当ですかぁ?つまんなぃ~。次は絶対、来て下さいよねぇ?・・・・あ。コレ。総務の佐藤さんに渡してください。」と書類とUABメモリを入れた封筒を渡してきた。
「・・・分かりました。必ず渡します。」そう言って立ち去ると、背後から「絶対、約束ですからねぇ!」という声が追いかけてきたが聞こえないフリをした。
明け方の夜行バスの中で、渡された書類を確認しているとなんとない違和感を覚えた。
なにが気になるのか分からず、再度読み返すが内容に不備はない。
なんだろう。しかし、なにかが気になると思いつつ、書類を何回か捲るうちに鼻につく匂いに気が付いた。
・・・コーヒーの匂いがする。
書類にこぼしたのだろうかと思い、再度書類を確認するが染みは見つからず、封筒か?と思い、封筒を確認すると中に入っていたUSBメモリから匂いがすることに気が付いた。
外見にコーヒーの染みや汚れはない・・・まさかな、と思いながら手のひらにUSBメモリを振る。
手のひらについた茶色い水滴。
・・・・あの女。
翠のアパートについて、台所でUSBをすすいでいるとそれを見た翠が驚いて「だ、大丈夫ですか!?え、ソレって洗っちゃいけないものじゃないんです!?」と尋ねてきた。
「間違えてコーヒーこぼした。水で洗って乾かせば大丈夫だ。注意点は中に水分ついた状態でPCにささないことだな。通電させてしまうとデータが飛ぶ。」
へぇぇ、と感心している翠から密封できるポリ袋を貰う。
土産に買ってきたぴよこの箱を開けてシリカゲル乾燥剤を取り出し、しっかりと水をきったUSBメモリと共に袋に入れておく。
「私の携帯もすぐ電源落とせば大丈夫だったのかなぁ・・。」と肩を落とす翠。
「・・・いや、チカチカしてたっていうし・・たぶんダメだったんじゃないかな。それにUSBメモリは構造が簡単だから壊れにくいってだけで、それでもデータ飛ぶ時は飛ぶよ。」と慰める。
慰めついでに、眼帯の伊達男を見に行こうと誘う。
「準備するね!」とお弁当を作り始めた翠を眺めつつ、上司に月曜日の有休願いと、同僚にUSBメモリに入ってたハズの書類のデータを送ってもらうようメールを送る。
有給休暇も上限いっぱいまであって、それどころか代休まで残ってる状態だから、きっと上司もダメとは言うまい。
翠と一緒にやたらとレトロなバスに乗る。
「乗りたかったんですよね。このバス!可愛いですよね。」と笑う翠が可愛い。
騎馬に乗った伊達男を背に翠と2人で写真を撮り、水鳥を眺めながらベンチに座っておにぎりを頬張る。
幸せってこんなことを言うんだなぁ。
すっかり若葉になってしまった桜を見ながら、来年こそは翠と桜を見ようと思う。
アパートに帰って、お茶を飲みながらメールチェックしていると、上司と同僚からの承諾のメールを確認した。
「翠、月曜まで休みになった。けど、ちょっと用事もあるから月曜は一緒に支店行こうな。」と言うと、翠が「ほぇ?分かった。」と承諾した。
ちなみに泊りは翠のアパートだ。
最初のうちはホテルを予約していたが、翠に「勿体ない!」と言われてアパートに泊めてもらっている。
翠の顔を眺めながら寝るのは・・・なかなかの忍耐を必要とするが、それ以上に幸せを実感する。
翠と一緒にゲームするのも楽しい。
コミカルな動きをするキャラクターに「可愛いよね、この技大好きなんだよー。」と嬉しそうにする翠を見てるのが楽しい。
・・・折りをみて、俺の親に紹介しに連れて行かないといけないなぁ。
週明け、支店に翠と一緒に出社する。
同僚からのメールに添付していたデータをそのまま翠に転送する。
「翠。庶務から貰ったデータ、コレだから。これに入力してメールで送信してくれ。」とPCを返すと、支店長から「お~、小林君。ちょうどいい所に、一緒に取引先廻ろう。」と声をかけられる。
「営業部長に連絡取っておくから、あ、小林君の新幹線の予約お願いね。」と、翠に新幹線の指示を出した支店長と共に営業車で行くことになった。
このまま支店勤務になれないものかなぁ。
***********************************************************
上司「あいつが仙台行くようになってから営業範囲が広がったもんだ。・・・なぁ、お前、関西方面にカノジョ作らないか?」
同僚「・・・・・・え!?」
逆に支店からの物も翠経由で持って行く。
その代り、週末の飲み会の参加は一切しなくなったが元々ほとんど行かなかったから問題ない。
週末の飲み会どころか、土日も会社で仕事してたからな・・今まで付き合ってたカノジョには「私と仕事どっちが大事なの!?」とよく言われていたものだ。
自分から好きだからつき合ってと言ってきたくせに、仕事ばかりしてる俺が気に入らないとキレられて別れるのが常だった。
毎日毎日、朝から晩まで仕事仕事。
仕事してるか寝てるかしかしてない俺に変化が訪れたのが、仕事帰りに立ち寄ったコンビニ。
コンビニで働く翠を見て、初めての一目惚れ。
コンビニに通いつめたはいいが、どうしていいのか分からないと友人に相談したら「うだうだ言うな。男なら潔く告白しろ。」と友人達に背中を押されたのは、今となってはいい思い出だ。
OKを貰えて舞い上がったのはいいが、どのように接していいか分からず、週末に翠の部屋に遊びに行くというワンパターンな行動しか出来なかったのは反省した。
翠の顔見てるだけで幸せという、脳内に花が咲いてる状態で、更には翠の心を知りたいと欲を掻いて、あの女に相談したのはもっと反省したが。
庶務室の前を通りすがるとあの女が「小林さぁん、また飲み会行かないって本当ですかぁ?つまんなぃ~。次は絶対、来て下さいよねぇ?・・・・あ。コレ。総務の佐藤さんに渡してください。」と書類とUABメモリを入れた封筒を渡してきた。
「・・・分かりました。必ず渡します。」そう言って立ち去ると、背後から「絶対、約束ですからねぇ!」という声が追いかけてきたが聞こえないフリをした。
明け方の夜行バスの中で、渡された書類を確認しているとなんとない違和感を覚えた。
なにが気になるのか分からず、再度読み返すが内容に不備はない。
なんだろう。しかし、なにかが気になると思いつつ、書類を何回か捲るうちに鼻につく匂いに気が付いた。
・・・コーヒーの匂いがする。
書類にこぼしたのだろうかと思い、再度書類を確認するが染みは見つからず、封筒か?と思い、封筒を確認すると中に入っていたUSBメモリから匂いがすることに気が付いた。
外見にコーヒーの染みや汚れはない・・・まさかな、と思いながら手のひらにUSBメモリを振る。
手のひらについた茶色い水滴。
・・・・あの女。
翠のアパートについて、台所でUSBをすすいでいるとそれを見た翠が驚いて「だ、大丈夫ですか!?え、ソレって洗っちゃいけないものじゃないんです!?」と尋ねてきた。
「間違えてコーヒーこぼした。水で洗って乾かせば大丈夫だ。注意点は中に水分ついた状態でPCにささないことだな。通電させてしまうとデータが飛ぶ。」
へぇぇ、と感心している翠から密封できるポリ袋を貰う。
土産に買ってきたぴよこの箱を開けてシリカゲル乾燥剤を取り出し、しっかりと水をきったUSBメモリと共に袋に入れておく。
「私の携帯もすぐ電源落とせば大丈夫だったのかなぁ・・。」と肩を落とす翠。
「・・・いや、チカチカしてたっていうし・・たぶんダメだったんじゃないかな。それにUSBメモリは構造が簡単だから壊れにくいってだけで、それでもデータ飛ぶ時は飛ぶよ。」と慰める。
慰めついでに、眼帯の伊達男を見に行こうと誘う。
「準備するね!」とお弁当を作り始めた翠を眺めつつ、上司に月曜日の有休願いと、同僚にUSBメモリに入ってたハズの書類のデータを送ってもらうようメールを送る。
有給休暇も上限いっぱいまであって、それどころか代休まで残ってる状態だから、きっと上司もダメとは言うまい。
翠と一緒にやたらとレトロなバスに乗る。
「乗りたかったんですよね。このバス!可愛いですよね。」と笑う翠が可愛い。
騎馬に乗った伊達男を背に翠と2人で写真を撮り、水鳥を眺めながらベンチに座っておにぎりを頬張る。
幸せってこんなことを言うんだなぁ。
すっかり若葉になってしまった桜を見ながら、来年こそは翠と桜を見ようと思う。
アパートに帰って、お茶を飲みながらメールチェックしていると、上司と同僚からの承諾のメールを確認した。
「翠、月曜まで休みになった。けど、ちょっと用事もあるから月曜は一緒に支店行こうな。」と言うと、翠が「ほぇ?分かった。」と承諾した。
ちなみに泊りは翠のアパートだ。
最初のうちはホテルを予約していたが、翠に「勿体ない!」と言われてアパートに泊めてもらっている。
翠の顔を眺めながら寝るのは・・・なかなかの忍耐を必要とするが、それ以上に幸せを実感する。
翠と一緒にゲームするのも楽しい。
コミカルな動きをするキャラクターに「可愛いよね、この技大好きなんだよー。」と嬉しそうにする翠を見てるのが楽しい。
・・・折りをみて、俺の親に紹介しに連れて行かないといけないなぁ。
週明け、支店に翠と一緒に出社する。
同僚からのメールに添付していたデータをそのまま翠に転送する。
「翠。庶務から貰ったデータ、コレだから。これに入力してメールで送信してくれ。」とPCを返すと、支店長から「お~、小林君。ちょうどいい所に、一緒に取引先廻ろう。」と声をかけられる。
「営業部長に連絡取っておくから、あ、小林君の新幹線の予約お願いね。」と、翠に新幹線の指示を出した支店長と共に営業車で行くことになった。
このまま支店勤務になれないものかなぁ。
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上司「あいつが仙台行くようになってから営業範囲が広がったもんだ。・・・なぁ、お前、関西方面にカノジョ作らないか?」
同僚「・・・・・・え!?」
プロフィール
HN:
塩飴
性別:
非公開
自己紹介:
日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
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