とある悪役令嬢の独白
私は今、処刑台にいる。
私の名前はシエラ・ラドシール。
ザナルティール皇国、6公爵に含まれるラドシール家の長女だ。
・・・この世界はいわゆる乙女ゲームと呼ばれるものだった。
私の役は悪役令嬢。
元婚約者である皇太子、そして他の公爵家の嫡男を攻略し、逆ハーレムを築き上げたヒロインを中心としたメンバーに糾弾され、憎々しげに睨まれながら、今、こうして処刑台に立っている。
正直、私は何もしていない。
ヒロインが望んだであろうイジメも、嫌がらせも、毒を盛るという事も、そして元婚約者である皇太子への媚へつらいも、なにもしてこなかった。
ただただ傍観していた、それだけだ。
この世界が乙女ゲームであり、私が悪役であることは物心つく頃に思い出した。
そして絶望した。
悪役として処刑される事に絶望したのではなく、前世といえるであろう、あの世界に戻れないことに。
前世の私は幸せだった。
そう・・・とても・・幸せだったのだ・・・産まれかわったことに絶望するほどに。
愛しい夫、可愛らしい子ども達。
いつか成長して社会へと旅立つ子ども達を観ることが夢だったのに、病になり急逝してしまった私。
死後は魂とかいうものになって、その後の彼らの姿を見れるだろうと思っていたのに、この世界へと産まれ落ちた・・・その事がとても悲しかった。
だから、なにもしなかった
いずれヒロインとくっつくであろう皇太子へは冷めた感情しか持てなかった。
1度結婚し、子育てまで経験した私が・・・まだ幼気な少年に恋慕するということは難しかったのである。
その後、成長し少年から青年へとかわりつつあっても、恋心など生じることもなく、舞台はとある学園へと移る。
ヒロインは、どうやら私と同じ記憶持ちのようで精力的にイベントをこなし、攻略対象者である皇太子と、公爵家の嫡男5名を次々と籠絡していった。
私は、当時婚約者であった皇太子がヒロインに骨抜きにされていく様子を見ても、こういうシナリオなのだと思い、かといって悪役令嬢という役を演じる気にもなれず、ヒロインを中心に騒然とした学園で静かに生活していた。
それが数日前の事である。
無記名の手紙に不信感を抱きつつ、ヒロインの教室へと行った私はぐちゃぐちゃに荒らされた机を前に、得意げな表情をしたヒロインに指差されつつ、叫ばれたである。
「この人がやったのよ!」と。
やっていない事をやったと声高に叫ばれ、他のイジメや嫌がらせや、暗殺事件も私のせいだと主張するヒロイン。
憎悪に顔を歪める皇太子や公爵家の嫡男達、そして冷たいまなざしを送る生徒を前に茫然とするしかなかった。
冷静になって考えれば、あれはイベントと呼ばれるものであったのだろう。
ヒロインは逆ハーレム完成の為に、悪役令嬢である私を、自作自演か、もしくは他の人がやったかであろう犯行、そのすべての『犯人』としたのだ。
私は釈明をしなかった。
この世界が乙女ゲームの世界である限り、私は悪役令嬢であり、わずか17歳で命を散らすことはヒロインや攻略対象者、そしてこの世界には必須なイベントなのだろうと考えたのだ。
その結果、すべての悪事の『犯人』は私となり、こうして処刑台に立っている。
空が青い。
この世界で命を失ったら、魂だけでもあの愛しい人達の元へ戻れるだろうか。
PR
この記事へのコメント
プロフィール
HN:
塩飴
性別:
非公開
自己紹介:
日々、仕事と家事に追われながら趣味を増やそうと画策するネコ好き。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
小説とイラストを置いております。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載はしないでください。
最新記事
P R