空が青い。
広場にはたくさんの人が集まってきていた。
私が死ぬことは見世物の1つなのだろう。
喧噪でなにを言っているのかよく聞き取れないけれど、皇太子や公爵家嫡男達はヒロインを中心に、私に謝罪の言葉を求めている。
そんなに顔を真っ赤にして・・・まるでお猿さんのようね、と言ってしまったら更に怒らせてしまうかしら。
公爵家令嬢という身分のせいか、逮捕や投獄などはされなかった。
ただ、ギスギスとした印象の査問管と名乗る男が数枚の紙を手に質問をしてきたくらいだ。
終始、無言で過ごしてしまったけれど、それでいいと執事もうなづいていたので、それでいいのだろう。
・・・ただ、こんなにも早く処刑が決まったのは驚きだったけれど。
いつも護衛をしてくれていたノアとは、茫然とした状態で屋敷に連れてこられて以来、顔を見ていない。
・・・・「ありがとう」と伝えたかったのに・・・。
長い間、共に生活していたせいで、ノアのいない数日間はひどく静かに感じた。
屋敷の周囲にはたくさんの人だかりがいて、普段、静かな屋敷は騒々しいくらいだったけれど。
父はひどく慌てた様子で来てくれた。
無理もない。
一人娘である私が処刑など醜聞しかない。
「ごめんなさい。」としか言えない私に、父は「心配するな。お前じゃないのは分かってる。すぐに終わらせるから」と一言、頬を撫でて出かけてしまった。
優しい父・・・何度、謝っても仕方ないくらいに悪いことをしたと思ってる。
私がシエラとして産まれてきてしまったせいで、不幸にしてしまった。
愛する母を奪ったのは私のせい。
うっすらとしかない乙女ゲームの知識で、シエラは幼い頃に母を亡くしたとは知っていた。
でも、詳細を覚えていなかったし、時期も・・全く知らなかったのだ。
いつものように穏やかに微笑みあう母の友人達とのお茶会で、毒に苦しみもがく母を見て愕然とした。
・・・・どうして・・・もっと、もっと気をつけなかったのだろう。
王妃も殺されることを知っていた・・のに・・・。
そう・・王妃も殺されることは知っていた・・・知っていたのだ。
皇太子を落とす際、母親の愛情を求める皇太子の心を分かってあげるというストーリーがある。
・・・・・・・・・・・知っていたハズなのに・・・・・・・・・・。
こんなにも早く、事が起こるとは思ってもいなかった。
なぜ・・・こんな知識を持ちながらも・・この世界で生きていかなければいけないのか・・・。
幾日も幾日も考えたけれど、分からなかった。
使命があるとしたら悪役令嬢として生きて死ぬこと、それだけのように思えた。
ただ、悪役令嬢の役を演じる気にもなれなかったのだけど・・でも、母や王妃の事件のようなことが起きるのであれば、私がなにもしなくても物事は進むのであろう。
そんな私に父や、ノア、屋敷の皆は優しくて・・・本当に申し訳ないと思う。
私には忘れられない愛しい人達がいる。
あの世界に戻りたい。
そう思う心がある。
・・・でも、この世界にも愛しい人達がいる。
一筋の涙が頬を滑る。
あぁ・・・・・・・空が青い。
空はこんなにも似ているのに、世界が違うなんて・・・。
・・・・・どうして神はこんなにも残酷なのだろう。